ジョージ・オーウェル

『動物農場』のあらすじ&解説!動物たちが象徴する人物や出来事・事件まで徹底解説!

2020年5月31日

『動物農場』とは?

『動物農場』は稀代のSF作家、ジョージ・オーウェルの小説です。

スターリン体制下における全体主義の恐怖を描いた風刺小説ですが、動物の特徴を巧みに捉えたユーモアのある作品でもあります。

ここではそんな『動物農場』のあらすじ・解説・感想をまとめました。

『動物農場』のあらすじ

ある荘園農場に、メージャー爺さんという知力に長けた豚がいた。

メージャー爺さんは、動物による動物のための農場をつくろうと、農場にいた馬や牛や雌鶏たちに声をかけた。

人間から解放されて、自分たちの楽園をつくろうと言うのだった。

賢い動物たちも、賢くない動物たちも、皆メージャー爺さんの描く未来を想像して、そんな未来が来れば良いと心から思った。

そんな未来は思いがけず早くにやって来た。隙を突いて、動物たちが一斉に蜂起したのだった。

動物による動物のための農場はここに誕生し、その後まもなくメージャー爺さんは死んだ。

後を継いだのはナポレオン、スノーボール、スクィーラーという三匹で、やはり彼らも豚だった。

彼らは動物農場のための7つの掟を作り、それから動物たちの教育を始めた。

動物たちは文字を読めるようになり、頭の良いロバや馬などの中には、書けるようになったものもいた。

そうしてしばらく、動物たちは夢のような暮らしを送った。

しかし、次第にナポレオンが独裁的な態度を示しだし、対立していたスノーボールを追い払った。

彼は八匹の大きい犬も従えていたので、逆らえる動物はいなかった。

それになにより、彼らの大半は頭が良くなかったので、ナポレオンの手下であるスクィーラーの巧みな弁論に、なんでも納得させられてしまうのだった。

良かったのは始めの年だけで、あとはもう人間のいた頃と同じか、ともすれば悪くさえなっていた。

食料の配給は減り、動物たちはいつもお腹をすかせていた。

だが、豚たちだけは、他の動物たちと違って食料は豊富で、中にはむしろ太っているのもいた。

また、豚たちは寝床も違って、人間のもといた家のベッドを使っていた。

始めに制定した7つの掟も、時とともにナポレオンの良いようにどんどん作り替えられていく。

残念ながらそれに気付くものはほとんどいなかったし、いたとしても、記憶違いだとスクィーラーに丸め込まれるのだった。

ナポレオンは権力を増していき、全ての掟は破られ、とうとう人間たちとも商業的な取引をするようになった。

そうして最後には、ナポレオンや豚たちは二本足で立つようになり、声や顔なども、ほとんど人間と見分けが付かなくなっていた。

・『動物農場』の概要

物語の
仕掛け人
ナポレオン
主な舞台 動物農場
時代背景 近代
作者 ジョージ・オーウェル

-解説(考察)-

・それぞれの動物は何を表すか?

ジョージ・オーウェルの『動物農場』は、登場するほとんどの動物たちを実在する人物や組織に当てはめて風刺的に描いた小説です。

具体的には、全体主義者であるスターリンが独裁政治をしていた1924年~1943年頃のロシア情勢を中心に、レーニンやトロツキーといった人物が重ねられています。

ここでは、それぞれの動物たちが、どんな人物や組織に当てはめられているかを解説していきます。

○動物農場の始祖

・メージャー爺さん

メージャー爺さんは、物語の基盤となる思想である「動物主義」を標榜した豚です。

モデルはロシアの革命家レーニンで、彼は「共産主義」を掲げ、世界初の社会主義国家を樹立しました。

レーニンは、貴族や皇帝といった権威による支配階級を嫌悪し、支配者と被支配者が平等になるような社会を目指して革命を起こし、成功しています。

○動物農場の支配者&一味

・ナポレオン

ナポレオンは、動物農場で独裁政治を行う主格となる豚です。

レーニンの死後、最高指導者の後を継いだヨシフ・スターリンがモデルになっています。

スターリンも『動物農場』のナポレオンと同じく、独裁的な政治を行いました。

・スクィーラー

そんなスターリンの右腕として活躍したのが、モロトフという革命家。

『動物農場』でナポレオンの右腕として活躍するスクィーラーは、このモロトフがモデルになっています。

ちなみにですが、晩年のスターリンは猜疑心が強くなり、このモロトフさえも信用しなくなっていきました。

・スノーボール

ナポレオンと対立していたスノーボールは、スターリンと対立したトロツキーという革命家がモデルです。

スノーボールはナポレオンによって追い立てられましたが、トロツキーもスターリンによって暗殺されます。

・犬たち

『動物農場』のナポレオンが育てていた犬は、ロシアの秘密警察・チェーカーの人々(通称チェキスト)がモデルになっています。

チェーカーはレーニンによって設立されましたが、GPU、KGBと組織名を変えながら、現在でも残っている秘密警察です。

レーニンの死後、人事権を掌握したスターリンは、秘密警察の重鎮らに接触し、親交を深めていったと言います。

・羊たち

羊たちは、スターリンの党派である「マルクス・レーニン主義党」を信奉する青年組織「コムソモール」や、そのほかの一般大衆がモデルです。

豚たちに教えられたことを全て肯定する羊たちは、上層部の命令をやみくもに受け入れる党の青年や大衆を風刺しています。

共産主義の青年組織は、ロシアだけでなく世界中にあり、もちろん日本にも存在しています。

○支配されている側の動物

・ボクサー

ただひたすらに労働するボクサーは、動物農場の古参で英雄的存在です。

ロシアの「赤軍」にも古参で国民的英雄の軍人が幾人かいて、こうした人物たちがボクサーのモデルになっています。

最後には屠殺場送りになったボクサーと同じく、スターリンは自分の地位を確固たるものにするため、赤軍の大粛正を行っています。

・クローバー

雌馬のクローバーには特にモデルがおらず、普遍的な「母性」を象徴しているキャラクターです。

アヒルたちを足で優しく囲ってあげたり、実際に4頭の子馬を産んだりしています。

最後の場面で豚たちの会合を覗くのもクローバーで、優しいが肝は据わっている母親像が読み取れます。

・ベンジャミン

ロバのベンジャミンは、冷静に状況を俯瞰している知識階級がモデルになっています。

作者ジョージ・オーウェルの代弁者でもあります。

・雌鶏たち

外貨獲得のために卵を産まされる雌鶏たちは、当時のロシアの輸出産業を支えていたウクライナ人がモデルです。

ウクライナ人たちは、自分たちが食べる分の小麦まで容赦なく輸出されていたので、結果的に数百万人が飢饉で亡くなりました。

ホロドモールとも言い、20世紀に起きた最大の悲劇のうちの一つに数えられます。

○動物農場の枠に囚われない動物

・モリー

モリーはクローバーと同じく雌の馬ですが、おしゃれに気を使ったりメルヘンチックなところがあったりと、若い女性を思わせる動物です。

彼女は白色系ロシア女性がモデルとなっており、革命や動物主義などにはあまり興味がないように描かれています。

・猫

猫は、感情的で気ままな女性や子どもなどがモデルとなっています。

モリーと同じく、革命や動物主義にはあまり積極的ではありません。

・モーゼス

動物たちに色々な説話や夢物語を聞かせていた大ガラスのモーゼスは、キリスト教の神父がモデルです。

革命前の荘園農場では、ジョーンズ氏に可愛がられていました。

○動物農場と関係がある人間

・ジョーンズ氏

荘園農場の経営者だったジョーンズ氏は、ロシア帝国時代の特権階級や資本家がモデルです。

動物たちの革命により、荘園農場から追い出されてしまいます。

・ピルキントン氏

フォックスウッド農場の所有者であるピルキントン氏は、イギリスのチャーチル首相がモデルです。

まったりとしていますが、最後まで動物農場と上手に取引を重ねていきます。

・フレデリック氏

ピンチフィールド農場のフレデリック氏は、ドイツのヒトラーがモデルです。

抜け目がなく、一度は動物農場を占領しようと侵攻してきます。

 

以上、『動物農場』の登場人物とそのモデルや組織をみてきました。

この他にも、作中で語られる出来事は、当時のソ連で実際に起こった出来事のパロディとして描かれています。

「牛小屋の戦い」や「ラストシーンの会談」は何を表しているのか。

次にはそういった出来事・事件を具体的に見ていきます。

・『動物農場』の出来事&事件

・動物たちの反乱

二章で起こった動物たちの反乱は、1917年10月25日(ユリウス暦)に起こされたロシアの十月革命を表します。

十月革命は、レーニンなどが属するボリシェビキという組織が中心となりました。

・「牛小屋の戦い」

「牛小屋の戦い」は、動物たちが革命を起こした後、人間たちが自分たちの農場を取り返そうと起こした戦いです。

これは、革命によって新政府が樹立されたソビエトに対して、反革命派やそれを煽動するイギリス・フランス・日本などが参戦した「干渉戦争」がモデルになっています。

しかし、干渉戦争は失敗に終わり、ソビエト側の勝利という形になりました。

・風車の建設と失敗

ナポレオン主導による風車建設とその失敗は、スターリン体制下で行われた、大規模な農業集団化計画とその失敗を示しています。

第1次5ヵ年計画の内の一つで、農民は過酷な労働や家畜の調達を強いられました。

逆らったものは流刑になるか、処刑されるかなどして、結果的に命を落とした人は数百万人にのぼると言われます。

・ウィンパー氏の宣伝

ウィンパー氏は、動物農場と他農場の仲介人です。

彼は動物農場がさも豊かであるかのように見せられ、実際にそれを信じて外の世界に喧伝します。

これは、

  • バーナード・ショウ
  • H・G・ウェルズ
  • ウォルター・デュランティ

などがソビエトに視察に来た際、きちんと運営されている農村だけを見せられ、ソビエト側の望み通りの視察報告を行った出来事に由来します。

・雌鶏の反乱

雌鶏たちの反乱は、1921年3月に起きた「クロンシュタットの反乱」が重なります。

反政府派(反革命派)が起こした反乱で、のちに政府に鎮圧されました。

・ナポレオンによる動物の処刑

動物たちの裁判と処刑は、1930年代のスターリンが強行した「大粛清」を表します。

物語の中で殺されたのは、

  • 三羽の雌鶏
  • 三びきの羊
  • 一羽のガチョウ

で、いずれも有りもしない無実の罪を自白して、ナポレオンの犬にのどを噛み切られます。

スターリンの「大粛正」も同じで、自分に敵対する者や自分の地位を危うくする可能性のある者は、誰でも有罪にして徹底的に排除・処刑しました。

・材木取引

フレデリックとナポレオンの材木売買取引は、1939年8月23日の独ソ不可侵条約の締結を表しています。

天敵と言われていたヒトラーとスターリンが手を取り合ったことは、世界的にも衝撃的なことでした。

そうした衝撃を、ナポレオンとフレデリックの材木取引ではうまく描かれています。

・風車の戦い

「風車の戦い」は、フレデリックが動物農場に攻撃を仕掛けてきた戦いです。

これは、ドイツ軍がソビエトとの不可侵条約を破って侵攻した1941年6月22日の「バルバロッサ作戦」を示しています。

バルバロッサ作戦からその後長い戦争が続きますが、結果的にはソビエトが凌ぎきった形で終戦します。

この作戦は、人類史上最大の軍事作戦とも言われ、東部戦線は第二次世界大戦最大の犠牲者を出しました。

・ナポレオンとピルキントンたちの会合

ラストシーンであるナポレオンとピルキントンたちの会合は、

  • 英国首相チャーチル
  • ソ連議長スターリン
  • 米国大統領ルーズヴェルト

が出席しておこなわれた、1943年の「テヘラン会談」が重ねられています。

物語はここに至って、2本足で歩くナポレオンたちの顔が、人間と見分けが付かなくなっていたという皮肉なラストを迎えます。

・動物たちの特徴

ここまで見てきたように、『動物農場』はスターリンと全体主義を中心に、分かりやすく現実の出来事がパロディにされています。

ほかにも、操作されていく民衆の心理が農場の動物を通して描かれているところなどは、現代においても『動物農場』が風刺小説として機能している優れた点だと言えるでしょう。

世界大戦中における全体主義への批判という枠組みから、現代の我々にも当てはまる枠組みへと拡大しているテーマが読み取れます。

もちろん本作は、単純にユーモラスな動物小説としても楽しむこともできます。

むしろ、『動物農場』を風刺小説としてしか読まないのは非常にもったいないことかもしれません。

この作品で特に面白いのは、作者のジョージ・オーウェルが動物たちの特徴を巧く捉えて描いているところでしょう。

例えば、

  • 警察は犬
  • 知識人はロバ
  • 純朴な働き者は馬

など、現代の我々からしても(しかも日本とイギリスという違いがあるにも関わらず)納得のいく動物チョイスです。

また、動物たちを支配する動物が「豚」であるというところにも、シニカルなユーモアセンスが見て取れます。

タイトルの副文にも「おとぎ話」とあるように(もちろんこれもユーモアのひとつではありますが)、子どもでも楽しめるような内容になっている、優れた作品だといえます。

-感想-

・動物たちを鏡として自分を知る

『動物農場』には、豚の支配と動物たちの被支配という構成がある一方で、能動的に生きる動物と受動的に生きる動物という構成もみられます。

能動的に生きる動物は、

  • 馬のボクサー
  • 雌馬のモリー
  • カラスのモーゼズ
  • 豚のナポレオン
  • メージャー爺さん

などが挙げられます。

例えばモリーなどは、周りから見ると人間に利用されている生き方に見えますが、本人はそんなことにお構いなく、好きなリボンを付けてもらって幸せそうです。

雄馬のボクサーも、結果的には豚に裏切られましたが、彼の人生は一貫して堂々としており、恥ずかしいところは一切ありません。

豚のナポレオンも行為こそ悪辣で非道ですが、手段を問わず目標に向かって邁進する姿勢は評価できるところがあります。

一方で、教えられたことを繰り返すだけの羊や、行動しないベンジャミンなどは受動的な動物です。

もちろん受動的だからといって悪いわけではなく、彼らもまた彼らの主義のもとに生きています。

このように、様々な態度の動物たちがいるため、読者によって共感できる動物は異なることでしょう。

その動物を鏡として、自分が社会の中でどのような立場で生きていきたいか、どのような信念のもとに生きたいかを考えさせられる内容です。

・『動物農場』を書いた勇気

『動物農場』が刊行されたのは、1945年の8月17日。第二次世界大戦が終戦してからまもなくのことです。

ジョージ・オーウェルのいたイギリスと、スターリンのいたソビエトは連合国共同宣言で手を組んではいましたが、風刺対象のスターリンは1953年まで生きるので、刊行当時はまだまだ独裁者として君臨しています。

そんな中、『動物農場』を執筆・刊行するということは、自身を危険にさらす行為でもあったでしょう。

今考えてもかなり勇気のあることであり、それゆえ当時の世間が受けたインパクトは計り知れません。

現在のロシアではスターリンを再評価する動きが強く、様々な都市でスターリン像が建設されています。

スターリンが指導者として強引に国を動かしていかなけらばならない立場にあり、そのカリスマ性でソビエトという大国を引っ張っていったことは事実です。

しかし一方で、彼の行った行為を全て是認してはいけないようにも思います。

良いことばかりに目を向けるのではなく、悪いところも踏まえた客観的な判断が必要です。

そうした意味でも、いまだに世界中で『動物農場』という作品が読まれているのは非常に意義深いことだと思います。

以上、『動物農場』のあらすじと考察と感想でした。

『動物農場』で示されたような「全体主義への恐怖」というテーマは、そのまま『一九八四』という小説に受け継がれ、よりスケールを拡大して描かれます。

こちらもジョージ・オーウェルの代表作なので、興味がある方はぜひ読んでみて下さい。

この記事で紹介した本

ジョージ・オーウェル (著)/ 水戸部功 (イラスト)/ 山形浩生 (訳)
ジョージ オーウェル (著)/トマス ピンチョン (その他)/ 高橋 和久 (訳)