宮沢賢治の『やまなし』のあらすじ・解説・感想まとめ|クラムボンの正体に答えを出します!

投稿日:2019年3月3日 更新日:

『やまなし』とは?

『やまなし』は宮沢賢治の小説です。小学校の授業で読んだ方も多いかもしれません。

ここでは、『やまなし』のあらすじ・考察・感想までをまとめました。

それではみていきましょう。

『やまなし』-あらすじ

詳しいあらすじ (文章で読みたい人向け)

これは小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。

五月。二匹の小さな兄弟ガニが水底でクラムボンについての話をしていました。

その上には魚が泳いでいて、魚が上を通るたびに太陽が隠れるので、水の中は暗くなったり明るくなったりしました。

カニたちが魚を見ているその時、水の中に鉄砲玉のようなものが飛び込んできて魚をさらっていきました。

カニたちが恐怖でブルブルと震えているとお父さんカニがやってきて、「それはカワセミだよ」と教えました。

お父さんカニは「心配するな」と言いますが、兄弟ガニの恐怖はとれませんでした。

12月。カニの子らも大きくなっています。その日は月の光がきれいだったので遅くまで起きて、兄弟で泡の大きさ比べをしていました。

お父さんガニがもう寝なさいと言ったその時、トブン。上から何かが落っこちてきました。

「カワセミだ」兄弟ガニは首をすくめて言いました。お父さんカニはそれをよくよく見てから言いました。「そうじゃない、あれはやまなしだ」。

親子カニは三匹で流れるやまなしのあとをついて行くと、やまなしは木の枝に引っかかっていました。

やまなしは美味しそうでしたが、親子ガニはやまなしの酒ができるまで食べるのは待つことにして、自分たちの穴へ戻っていきました。

私の幻燈はこれでおしまいです。



『やまなし』-解説(考察)

『やまなし』-概要

主人公 兄弟カニ
物語の仕掛け人 父カニ、カワセミ、魚
主な舞台 谷川の底
季節 五月の昼。十二月の夜。(十一月とも)
作者 宮沢賢治
カニ父
カニ父
ここからは父である私が解説していこう
お願いします!
小助(こすけ)
小助

クラムボンの正体がついに判明!?

作中に出てくる「クラムボン」が気になりますね。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
ああ。子どもらの言っているあれか。
クラムボンって結局なんなんでしょう?
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
この前ネットを見ていたらこんな記事があったよ。

「クラムボン」の正体、ついに明らかに 論争に終止符 ―虚構新聞

えっ、そうなんですか!ふむふむ、宮沢賢治はロシアのスパイで「クラムボン」はスパイ仲間のコードネーム?

・・・・ってちょっと待ってください。これ虚構新聞って書いてますよ!

小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
どういうことだ?
本当のことのように面白おかしく書いてるサイトみたいです!
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
そうか、うそだったのか。
内容は面白い!でもクラムボンの正体が分かったわけではないみたいですね。
小助(こすけ)
小助

クラムボンの正体って結局なんなの?

カニ父
カニ父
クラムボンについては色々な説が出ているよ。
たとえばどんなのだろう?
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
説、光説、アメンボ説、プランクトン説、母親説、カニ語説、人間説、解釈してはいけないという説。みんな色々考えているね。

今のところ主流なのは、クラムボンは解釈してはいけないという考え方のようだよ。

僕は子どもの頃ふわふわした何かだと思ってました。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
それもいいと思うよ。子どもらは何を見てクラムボンと呼んでいたんだろうね。

ちょっと呼んでみようか。おーい。

カニ(兄)
カニ(兄)
お父さん、呼んだ?
カニ父
カニ父
あのね、いつかクラムボンの話をしていたろう?

そのクラムボンっていうのがなんなのか、お父さんに教えてくれないか。

カニ(兄)
カニ(兄)
クラムボンのことならお父さんも知ってるよ
カニ父
カニ父
私がかい?
カニ(兄)
カニ(兄)
そうだよ。なんて言えばいいんだろうね。クラムボンはねえ、うーん。
クラムボンはクラムボンだよ!
カニ(弟)
カニ(弟)
カニ(兄)
カニ(兄)
そうなんだけどね、クラムボンを違う言葉で説明するんだよ。できるかい?
できるよ!うーん、、、あ、ぼく用事を思い出した!
カニ(弟)
カニ(弟)
カニ(兄)
カニ(兄)
さては、できないんだろう。
できるってば!でも用事を思い出したんだ。イサドへ行く準備をするんだよ。
カニ(弟)
カニ(弟)
カニ(兄)
カニ(兄)
そうかい、それなら僕もいこう。お父さん、僕たちはこれで。
カニ父
カニ父
そうか。気をつけていくんだよ。
、、、行ってしまった。もう少しで聞けると思ったのになあ。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
まあいいじゃないか。なんでもすぐに答えを出すよりも、少しくらい分からないことのある方が味わい深いってものだよ。
味わいかあ。
小助(こすけ)
小助
ちなみに僕の考えるクラムボンは感想にあります!
小助(こすけ)
小助

こどもたち 想像

 

初期版と現行版の違い。

本当は12月ではなく11月だった!

『やまなし』は五月と十二月の二つの場面でできていますね。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
そうだね。五月の一場面と十二月の一場面を切り取ったかたちだ。

ただ、『やまなし』の初稿では十一月となっていることから、作品掲載時に新聞社が間違えて十二月にしたんじゃないかというのが定説のようだね。

えっ!ということはほんとうは五月と十一月だったんですね。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
そうだね。実は他にも初期形と現在の形の違いがあるんだ。

魚の場面が特徴的だからちょっと見てみようか。まずは現在の『やまなし』から。

現在の『やまなし』 

魚がこんどはそこら中の黄金きんの光をまるっきりくちゃくちゃにしておまけに自分は鉄いろに変に底びかりして、又また上流かみの方へのぼりました。
『お魚はなぜああ行ったり来たりするの。』
弟の蟹がまぶしそうに眼めを動かしながらたずねました。
『何か悪いことをしてるんだよとってるんだよ。』
『とってるの。』
『うん。』
そのお魚がまた上流から戻って来ました。今度はゆっくり落ちついて、ひれも尾も動かさずただ水にだけ流されながらお口を環のように円くしてやって来ました。その影は黒くしずかに底の光の網の上をすべりました。
『お魚は……。』

新編風の又三郎

「とってるんだよ」というところが死を連想させて少し怖いですね。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
そうだね。次は初期形の部分だ。

初期形の『やまなし』 

魚がこんどはそこら中の黄金の光をまるっきりくちゃくちゃにしておまけに自分はまばゆく白く光って又上流の方へのぼりました。
「いゝねえ。暖かだねえ。」
「いゝねえ。」
「お魚はなぜあゝ行ったり来たりするんだらう。」
「お魚は早いねえ。」
その魚がまた上流から戻って来ました。今度はゆっくり落ちつ いて水にだけ流されてやって来たのです。その影は黒くしづかに砂の上をすべりました。
「お魚は……。」

宮沢賢治『校本宮澤賢治全集第十巻』,p7,筑摩書房,1995

全然違う!初期形の方がのどかな印象を受けます。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
魚の色も初期形では「まばゆく白く光って」いるのに対して、現在の形は「変に鉄色に底光り」している表現になっているね。
ほんとだ。現在の形の方が暗いイメージが強調されていますね。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
こうしたことから、宮沢賢治は五月の場面に暗い死のイメージを持たせたかったことが分かるね。

魚影

なぜ五月と十二月の2場面なのか?

~『やまなし』の対比~

ところで、物語の場面が五月と十二月に分かれているのはなぜなんでしょうか。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
私の子どもらのようにいい質問だね。

普段子どもらには考えさせるのだけど、君は大人だから教えてあげよう。

(なんか複雑な気分だ。)
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
この2つの場面は対比構造を持っているんだ。たとえば五月は太陽の出ている昼十二月は月明かりの差す夜といったふうだ。
なるほど、そういえば山月記の李徴も対比が作品を面白くするって言ってたな。
小助(こすけ)
小助
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カニ父
カニ父
『やまなし』は全ての文章が対比に関連していると言ってもいいくらい対比の多い作品なんだ。

だからひとつひとつ解説するのはやめにして、どことどこが対比しているか簡単に分かる表を作っておくよ。

ありがとうございます!
小助(こすけ)
小助

『やまなし』五月と十二月の対比表

  五月 十二月
季節 ・初夏 ・初冬
・太陽の光 ・月の光
水底 ・青く暗い鋼のよう ・金剛石(ダイヤモンド)の粉をはいているように青白い
冒頭に出てくるもの ・魚やクラムボン(有機物) ・白い柔らかな円石や金雲母のかけら(無機物)
死ぬもの ・クラムボンと魚(生き物の死) ・やまなし(植物の死)
子カニの会話 ・幼稚的であまり成り立っていない ・双方向的で成り立っている
落ちてくるものの形 ・カワセミの尖ったくちばし ・やまなしの丸い影
落ちてくるもの ・生命を奪うもの(カワセミ) ・生命を与えるもの(やまなし)
子カニの行動 ・カワセミが来てぶるぶると震える ・やまなしが来て踊るようについて行く
お父さんカニの行動 ・子どもらを守る ・子どもらを導く
終わり方 ・不安(クローズエンド) ・期待(オープンエンド)

 

カニ父
カニ父
ざっとこんなところだね。君も探してごらん。他にもあるかもしれないよ。
表にしてくれてありがとうございます。勉強になるなあ。
小助(こすけ)
小助
カニ父
カニ父
現行版と初期版の違いでもふれたけど、宮沢賢治は魚の場面をあえて暗いイメージにしていたね。

それも五月と十二月の対比をより意識した結果なのだと思うよ。

これらの対比があるからこそ作品としてより完成した形になっているんだろうね。

普通に読んでいたら分からないけど、意識したら見事に対比しているのが分かりますね。
小助(こすけ)
小助



『やまなし』-感想

子どもの頃に考えたクラムボンの正体

色んな説がありますがクラムボンの正体は分かりません。賢治が答えを残していないので、いずれの説も想像の範囲を超えることがないからです。

小学生のころはクラムボンが何か分かっていたような気がします。これはクラムボンの実像を把握していたという意味ではなく、自分の感性でイメージするクラムボンを隙間なく信じていたという意味です。そこに論理は通用しませんね。

友達とクラムボンの絵を描いたりもしました。妖精を描く友達、どうみてもまっくろくろすけを描く友達、ぐちゃぐちゃにした線をクラムボンだと言って譲らない友達。色々いましたが、そのどれもが本人にとっては真面目に大正解なのですね。ちなみに僕は丸い何かを描いた気がします。

今振り返ってみると非現実的なモチーフを描くひとが多かったですね。不思議ななにかという印象が強かったのでしょうか。

今でも『やまなし』を読むとあの純朴な感覚の一端がよみがえってくるような気がします。

今考えるクラムボンの正体

大人になった今『やまなし』を読んでみると、クラムボンは何かの生き物なのではないかという感じが強いです。子どもの頃とは違った考えになっていますね。

根拠としては、作中で魚が子カニの上を通るとクラムボンはに、魚が去るとクラムボンは笑います。

つまり、子どもたちの会話と魚の行動はリンクしているのです。このことから、クラムボンは魚によって殺される生き物ではないかというのが今の僕の考えです。

さらに、魚は一度去ったあとまた戻ってきます。こんどは口を開けながら

引用すると、「お口をのように円くしてやって来ました」という場面です。ちなみにこの表現は初期形にはありません

上でみたように宮沢賢治が現行版において死のイメージを強めたのだとしたら、この「お口をのように円くしてやって来ました」という部分は捕食行為にもみえます。

ここではじめて、クラムボンが魚に食べられ、魚がカワセミに食べられるという生食連鎖による食物連鎖の形が出来上がります。

作品の構成的にも五月は生き物の生食連鎖、十二月は植物による腐食連鎖だと分けられますね。

やまなしの実を食べずに酒にするという行為も、菌による発酵という腐食の循環を強調していると捉えることができます。

宮沢賢治は高等農林学校に入学し、そこの研究生を経て農学校の教諭にまでなっています。生態系の循環を作品に取り入れても全く不思議ではありません。

さらに賢治はベジタリアンとしても有名ですので、五月に生食連鎖を、十二月に腐食連鎖をもってくる理由も容易に想像がつきます。

子どもの頃とは捉え方は違いますが、以上が今の自分の中では納得のいくクラムボン像だと思っています。

 

~おわりに~

妹トシの死が作品に与えた影響

『やまなし』の作品が成立する少し前に宮沢賢治の妹であるトシが結核により死去します。妹思いだった賢治は悲しみの淵に沈み、詩作にも手を付けられなかったといいます。

トシが亡くなったのは大正11年11月27日。『やまなし』が発表されたのは大正12年4月ですが、初期形の成立はトシの死よりも前になります。

ここからは僕の勝手な推察になりますが、『やまなし』は当初、妹の死を意識せずに描かれた作品だったはずです。

しかし、妹の死というショッキングな出来事を挟んだために、作品にもその死の色合いが滲みます。

妹の死を体験する以前の賢治が書いたものに、妹の死以後の賢治が手を加えた形と言うことです。

そのため、『やまなし』はやさしい童話の雰囲気不穏な死の雰囲気重なり、結果的に不思議な調和を併せ持った稀有な作品となったのではないでしょうか。

宮沢賢治をもっと知る

さいごですが、賢治の故郷である岩手県には宮沢賢治ゆかりの地が多くあります。

なかでも花巻市にある宮沢賢治記念館宮沢賢治イーハトーブ館には賢治にまつわる情報が数多くありますので、宮沢賢治をもっと知りたいという方は是非訪れてみてください(二つの館は隣りにあります)。

「宮沢賢治記念館」と検索するか、以下のリンクから概要を知ることができます。

宮沢賢治記念館 ー花巻市公式サイト

宮沢賢治イーハトーブ館 ー宮沢賢治学会イーハトーブセンター公式サイト

チェックポイント黒板

今日のポイント! 『やまなし』の要点

  • 五月と十二月の対比が作品を完成させている。
  • クラムボンは自分で正解を作れる。

『やまなし』が気になった人のために

カニ(兄)
カニ(兄)
最後になったけど、『やまなし』の青空文庫へのリンクを貼っておくよ!(青空文庫は著作権の切れた作品をネット上で読めるようにしてくれているサイトだよ。)

やまなし ー青空文庫

カニ(兄)
カニ(兄)
それからこっちは『やまなし』の研究をまとめているサイトだよ!

学問的な角度から『やまなし』を読みたいひとはここを参考にするといいと思うよ!

読了目安時間は12分です。ぜひ読んで見てください。
小助(こすけ)
小助

作品情報・参考文献

作品情報

◆やまなし(宮沢賢治『宮沢賢治全集 8』,p140~p146,筑摩書房,1986)◆

◆ 著者:宮沢賢治
◆ 発行者:熊沢敏之
◆ 発行所:筑摩書房
◆ 印刷所:精興舎
◆ 製本所:積信堂
◆ 発行:1986年1月28日

参考文献・参考サイト

宮沢賢治『宮沢賢治全集 8』,筑摩書房,1988

宮沢賢治『校本宮澤賢治全集第十巻』,筑摩書房,1995

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