菊池寛『勝負事』あらすじから解説&感想まで!

2019年9月27日

『勝負事』とは?

『勝負事』は、莫大な財産を一代で賭け事に溶かしてしまったある男の物語です。

菊池寛の短編小説で、隠れた名作だといえます。

ここではそんな『勝負事』のあらすじ・考察・感想をまとめました。

この記事を読んで分かること

  • 『勝負事』のあらすじ・概要
  • ・解説  『勝負事』というタイトルの意味の変化
  • ・解説  物語の二重の楽しみ方
  • 『勝負事』の感想 ~物語のその後~



-あらすじ-

勝負事ということが話題になったとき、私の友人があることを話し始める。

それは、彼が小さい頃から勝負事をしないように育てられたということ。

理由は彼の祖父が大の博打好きで、財産を全て使い果たしてしまったからだということ。

そのために彼の一家は貧しい暮らしを強いられたということ。

そんな祖父の妻が、死に際に「もう賭け事はしないという爺さんの誓いを聞いてから死にたい」と言い、彼の祖父は賭博をやめることにする。

それからしばらく経ち、家族も安心していたところ、姑がおじいさんの「今度は、俺が勝ちだ」という声を聞く。

はっと思って近くに忍び寄ると、まだ幼い自分の子どもと藁の束から一本だけを引き抜き、長さ勝負をしていたのだった。

話していた彼は、その幼い子どもというのは言うまでもなく私です、と言って、勝負事についての話を終える。

・『勝負事』の概要

主人公
物語の
仕掛け人
友人(話し手)
主な舞台 日本
時代背景 明治後半
作者 菊池寛



-解説(考察)-

・『勝負事』というタイトルの意味の変化

おばあさんの遺言で賭博は打たないと誓ったおじいさんですが、物語の最後には、孫と藁の長さ比べをしている描写があります。

しかしこれは賭け事ではないので、おじいさんが誓いを破ったことにはなりません。

『勝負事』というタイトルは賭け事を意味する言葉ですが、孫と勝負するおじいさんは、そうした意味を捨てた純粋な”勝負事”をしています。

楽しそうに藁を引き抜くおじいさんの姿からは、お金を賭けているか賭けていないかに関係なく、本当に勝負事が好きだったことが伝わってくるのです。

そうした意味で、この『勝負事』という物語のタイトルは二つの意味を持っているといえます。

すなわち、

  • お金を使った博打としての「勝負事」
  • お金を使わずに孫と楽しむ「勝負事」

の二つです。

この物語を読む前と読んだ後では、このタイトルが持つ意味合いが変わります。

ここに、この作品の面白さのひとつがあります。



・構成から分かる二重の楽しみ方

『勝負事』は、

  • 私の「友人」の話

が物語のメインという構成になっています。

つまり、私が過去を回想するのではなく、「友人」に過去を回想させることで、「私」は聞き手に回るという物語の構成です。

もし、この物語が「私」の回想だったら、ダメなおじいちゃんが更生した、おじいちゃんが主体の話になります。

しかし、「友人」が物語を語ることによって、『勝負事』の主人公はあくまでも「私」になっているのです。

ここに、この物語のポイントがあると思います。

そうしたことを踏まえて、『勝負事』の冒頭を見てみましょう。

 勝負事ということが、話題になった時に、私の友達の一人が、次のような話をしました。

ここで注目したいのは、「私の友達の一人が」というところ。

これはつまり、複数人で「勝負事って面白いよねえ」といった会話になったとき、そのうちの一人がこの物語を切り出したということです。

話をした友人は、複数人の友達がいる中でどういった意図を持ってその話をしたのか。また、物語を聞いた主人公が何を思ったのかは、この作品では明らかにされていません。

しかし、主人公が聞き手であるという構成によって、それを考えることがこの作品を楽しむ一つの方法にもなっています。

友人とおじいちゃんの話をそのまま受け取るだけでなく、その話を聞いた主人公や友達がどう思うか。

『勝負事』の構成からは、読者に対してそうした二重の楽しみが提示されています。



-感想-

・物語のその後

考察でも書いたように、『勝負事』は友人の話がメインになっています。物語はほぼ彼の独壇場だと言ってもいいでしょう。

気になるのはやはり、彼の話を聞いた主人公や、周りの友達のレスポンスです。

僕が想像するのは、主人公は勝負事が好きで、なんだったら物語を話した友人も、今では勝負事が好きだということ。

そう考える理由はいくつかありますが、長くなるからここでは書きません。

この物語はきっと、「勝負事って面白いよねえ」という話からはじまり、それから『勝負事』の主軸である友人の話へと続きます。

 「私は子供の時から、勝負事というと・・・(中略)・・・祖父が最後の勝負事の相手をしていた孫が、私であることは申すまでもありません」

こうして彼の話が終わると、誰かが、「へえ、じゃあ血は争えないってわけだ」と言い、一同は笑う。

それから物語に対しての意見なり感想なりが一通り済んだ後、彼らの談笑は違う話題へと移っていく。

平凡だけど、僕が想像する『勝負事』のその後はこんな感じです。

幸か不幸か、僕は賭け事を全くしません。もしもお金の賭かった勝負事の味を知っていたら、また違った想像になるのだと思います。

もしダニエル・ネグラヌ(ポーカーの天才)なんかがこの物語を読むと、どんな感想を抱くのだろう。

他のひとの感想が気になる物語です。



-評価-

見せ場作りのうまさ

おじいさんの博打好き度

『勝負事』のひとことまとめ

  • 話し手とおじいさんの思い出が”勝負事”を通して描かれる話。

・作品情報

  • 『勝負事』(『菊池寛』筑摩書房)
  • 著者:菊池寛
  • 発行者:山野浩一
  • 発行所:筑摩書房
  • 印刷所:三松堂井印刷株式会社
  • 製本所:三松堂井印刷株式会社
  • 発行:2008年11月10日

あらら本店ロゴ
▽こちらの記事もおすすめ

菊池寛の名作『父帰る』の感想と考察|ご飯が冷めるのって妙にもの悲しい

『父帰る』は、女をつくって子女房を捨てたダメな父親が、二十年ぶりに帰ってくる物語です。菊池寛の戯曲で、一家の情景がリアルに描かれています。ここでは登場人物の心理や、物語中の「食卓」のはたらきなどを考察し、あらすじ・感想までをまとめました。

続きを見る

恩讐の彼方にあるものは何?菊池寛の出世作をあらすじから解説!

『恩讐の彼方に』は、主人公がした人殺しへの懺悔と、殺された武士の息子の恨みが描かれるヒューマンドラマです。作家・菊池寛の出世作としても有名です。ここではそんな『恩讐の彼方に』のあらすじ・解説・感想をまとめました。

続きを見る

2020/1/16

第162回芥川賞受賞作『背高泡立草』のあらすじ・解説・感想まとめ

この記事では、第162回芥川賞受賞作『背高泡立草』のあらすじ・解説・感想をまとめています。『背高泡立草』は、第162回芥川賞を受賞した古川真人さんの小説。主人公の実家がある島への帰省を軸に、「人間」と「島」の出来事が描かれていく。

ReadMore

2020/1/13

【読みやすさ重視】近代日本文学おすすめ小説21選【純文学】

この記事では純文学のおすすめ小説21選を紹介しています。読書で大事なことは「一つの作品を読み切る」こと。ですのでここでは読みやすさを重視しつつ、長い年月のなかで高い評価を得てきた純文学作品でおすすめのラインナップを組みました。

ReadMore

2020/1/13

『ニムロッド』の解説・感想まとめ!価値を通して描かれる人間存在

この記事では『ニムロッド』のあらすじ・内容解説・感想までをまとめた。良く出来た作品という印象だ。「塔」という分かりやすいシンボルを軸とした社会構造や、仕事、恋愛、友情、夢、SFまで、『ニムロッド』には小説を楽しむ要素が詰めこまれている。

ReadMore

2020/1/13

宇佐見りん『かか』の感想!内容&評価と見どころまとめ

この記事では『かか』の簡単なあらすじ・感想・評価をまとめている。『かか』は20歳の若さで第56回文藝賞を受賞した宇佐見りんさんの作品。方言と口語が混じる特有の文体と、様々な人間の「痛み」が見どころだ。

ReadMore

2020/1/13

尾崎一雄『暢気眼鏡』のあらすじ・感想!芥川賞初の短編集受賞作!

この記事では『暢気眼鏡』のあらすじ・みどころ解説・感想までをまとめました。『暢気眼鏡』は第五回芥川賞を受賞した尾崎一雄の小説。お金もなく職もない「私」と、その妻の芳枝。貧しくも暢気な二人の日常が描かれていく。

ReadMore

2020/1/13

冨澤有爲男『地中海』のあらすじと感想!第四回芥川賞受賞作

この記事では冨澤有爲男『地中海』のあらすじ・解説・感想までをまとめた。第四回芥川賞を受賞した本作は、パリに住む画家学生の主人公と、人妻である桂夫人の許されざる恋を描いた物語になっている。

ReadMore

2020/1/13

石川淳『普賢』あらすじ・解説・感想まとめ!二人のヒロインと饒舌な文体

この記事では『普賢』のあらすじ・解説・感想をまとめています。第四回芥川賞を受賞した石川淳の小説。饒舌体と呼ばれる怒濤の文体で、主人公と関わる人々や身の回りに起こる出来事が語られていく。

ReadMore

2020/1/13

小説『共喰い』のあらすじ・解説・感想!内容よりも構成で読まれるべき作品

この記事では小説『共喰い』のあらすじ・見どころ解説・感想をまとめた。田中慎弥さんの第146回芥川賞受賞作。川辺という海に近い小さな町で繰り広げられる、性の欲望をめぐる物語が構成的に描かれる。

ReadMore

Copyright© あらら本店 , 2020 All Rights Reserved.