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『ちいちゃんのかげおくり』あらすじ紹介!ちいちゃんは最後どうなったのか?

『ちいちゃんのかげおくり』とは?

『ちいちゃんのかげおくり』は、あまんきみこによる戦争文学です。

戦争に行く前のお父さんに「かげおくり」を教えてもらったちいちゃんを通して、戦争の悲惨さや家族の絆が描かれます。

ここでは、そんな『ちいちゃんのかげおくり』のあらすじ&作者が伝えたかったことまでを紹介します。

『ちいちゃんのかげおくり』のあらすじ

お父さんが出征する(戦争に行く)前の日のこと、ちいちゃんの家族は先祖のお墓参りに行きました。

「かげおくりができそうな、よく晴れた空だなあ」とお父さんが言いました。

かげおくりとは、自分の影を10秒間見つめてから空を見上げると、その影が空に映るというものでした。

その日、ちいちゃんたちはみんなで手を繋いで、きれいな空でかげおくりをしました。

次の日、お父さんは戦争に行きました。

戦争は次第に激しくなっていき、空には戦闘機が飛び、ちいちゃんの住むところにも焼夷弾が落ちてくるようになりました。

ある夜のこと、サイレンがなってお母さんと逃げていると、ちいちゃんはひとりだけぐれてしまいます。

知らないおじさんが助けてくれましたが、次の日に家に帰ってみると、家は焼けてなくなっており、そこには誰もいません。

ちいちゃんは家の近くの防空壕でひとり、十分なご飯もないまま、みんなの帰りを待ちました。

何日か経ったある日、「かげおくりのよくできそうな空だなあ」というお父さんの声が、空から降ってきました。

お母さんやお兄ちゃんの声も聞こえます。

ふらふらする足で立ち上がると、空色の花畑の中にみんながいるのが見えました。

(なあんだ。みんな、こんなところにいたから、こなかったのね)

ちいちゃんはきらきら笑いだしました。

こうして、小さな女の子の命が空に消えました。

それから何十年も経ち、町にはたくさんの家が建ちました。

青い空の下、今日もちいちゃんと同じくらいの子供達が、きらきら笑い声をあげて遊んでいます。

『ちいちゃんのかげおくり』ー概要

物語の中心人物 ちいちゃん(幼児)
物語の
仕掛け人
ちいちゃんの家族
主な舞台 日本
時代背景 第二次世界大戦中
作者 あまんきみこ

『ちいちゃんのかげおくり』ー解説(考察)

最後はどうなったのか?ラストシーンの解説

終盤になると、亡くなったちいちゃんが天国で家族と再会します。

そして、ちいちゃんの家があった場所は「何十年」後に平和な町になっている、というラストシーンで物語が終わります。

ちいちゃんがひとりでかげおくりをしたところは、ちいさなこうえんになっています。
青い空の下。
きょうも、おにいちゃんや、ちいちゃんぐらいの子どもたちが、きらきらわらいごえをあげて、あそんでいます。

あまんきみこ『ちいちゃんのかげおくり』

ここで読者は、「戦争がなくなって平和になって良かったなあ」という思いと、「けれどちいちゃんたちは死んでしまって、この未来を生きることが出来なかったことは切ないなあ」という二つの思いを抱くことになります。

冒頭と対になっているラストシーン

ラストでは「ちいちゃんぐらいの子どもたちが、きらきらわらいごえをあげて」いる人類の未来を描いているのに対し、冒頭では「せんぞのはかまいり」を描き、血の繋がりを通して人類の過去を連想させています。

この対比的な構造は、「未来を生きることが出来なかったちいちゃん」を浮かび上がらせている仕掛けになっていると考えられます。

作者は冒頭で「せんぞのはかまいり」を描くことで、人類の血の繋がりを意識させます。

ちいちゃん一家はみんな亡くなったので家族の血は途絶え、ほかの人々は生き残って子孫を残します。

作中では「知らないおじさん」や「はすむかいのうちのおばさん」が”ほかの生き残った人々”にあたります。

彼らの子孫は「なん十年」が経ち「いっぱいいえが」建った町で、「きらきらわらいごえをあげて」遊ぶのです。

こうした対比的な表現によって、ラストでは「未来を生きることが出来なかったちいちゃん」が逆説的に浮かび上がり、先に述べた下記のような2点、

  • 戦争がなくなって平和になって良かったなあ
  • けれどちいちゃんたちは死んでしまって、この未来を生きることが出来なかったことは切ないなあ

という相反する感情が、読者の胸の中で溶け合う仕掛けになっているのではないでしょうか。

ちいちゃんの死因は何か?

ちいちゃんの死因は、栄養失調(飢餓死)からくる病死だと考えられます。

戦時中は慢性的な食糧不足で、子どもが十分な栄養を摂ることはできていませんでした。

ちなみに飢餓死とは空腹に飢えて死ぬことではなく、栄養に飢えて死ぬことを指します。

飢餓(starvation):絶食状態が続き飢餓状態になると、血糖値を維持するため、体タンパク質の分解が盛んになる。(中略)飢餓が続くと、エネルギー源のほとんどは脂肪酸やケトン体(ketone body)によりまかなわれるようになる。(中略)さらに飢餓が続き脂肪酸を使い果たすと、残されたエネルギー源はタンパク質だけになるため、心臓、肝臓、腎臓のタンパク質が分解され死に至る。

『食生活と栄養の百科事典』

現代でもアフリカ(サハラ以南)を見ると分かりますが、人口の約20%は慢性的な栄養失調であり、それが原因で年間300万人の乳幼児が命を落としています。

衛生環境も良くないので、免疫力低下による合併症や、コレラ・麻疹などの疫病で亡くなる子どもも多いです。

ちいちゃんに話を戻すと、彼女は亡くなる前日まで「ほしいい(炊いた米を干して乾かした食べ物)」を食べていて、三日前までは家族と暮らしていたことが分かります。

日時 ある日の夜 翌日の夜 2日目の夜 3日目の朝
行動 サイレンが鳴って避難する 誰もいない家に帰ってほしいいを食べる ほしいいを少しかじる 亡くなる

このことから、食べ物が全くなかったわけではないけれど、十分な栄養は足りていない低栄養状態にあったと考えられます。

そんな状態のちいちゃんですから、疫病にかかってしまったことは想像に難くありません。

ちいちゃんは、あついようなさむいような気がしました。
ひどくのどがかわいています。

あまんきみこ『ちいちゃんのかげおくり』

「あついようなさむいような」というのは悪寒を示していることが分かります。

体がウイルスや菌を殺すために、体温を上げようとしているわけです。

すでに「ひどくのどがかわいて」いるようなので、夜のうちに高熱が出て、発汗していることも分かります。

こうしたことから、ちいちゃんの死因は栄養失調からくる病死ではないかと考えます。

いずれにしても、十分な食料がなかったことが原因であり、戦争の悲惨さが伝わってきます。

冒頭と終盤、ふたつの「かげおくり」の対比|「とお!」の表現について

『ちいちゃんのかげおくり』で印象的なのは、なんといっても冒頭と終盤にある「かげおくり」の対比描写です。

冒頭のかげおくりでは、家族4人がそろっていて、幸せな様子が描かれています。

「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ。」
と、おとうさんがかぞえだしました。
「よーっつ、いつーつ、むーっつ。」
と、おかあさんのこえも、かさなりました。
「ななーつ、やーっつ、ここのーつ。」
ちいちゃんとおにいちゃんも、いっしょにかぞえだしました。
「とお!」
目のうごきといっしょに、白い四つのかげぼうしが、すうっと空に上がりました。

あまんきみこ『ちいちゃんのかげおくり』

空に映ったかげぼうしを見て、ちいちゃんとお兄ちゃんは「すごーい」と言い、お父さんたちは「きょうの、きねんしゃしんだなあ」と言って楽しげです。

一方、終盤ではちいちゃんが「たったひとつのかげぼうし」を見てかげおくりを始めます。

朦朧としながらも一人で数を数えるちいちゃんの姿には、心を揺さぶられるものがあります。

ちいちゃんは、ふらふらする足をふみしめて立ちあがると、たったひとつのかげぼうしを見つめながら、かぞえだしました。
「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ。」
いつのまにか、おとうさんのひくいこえが、かさなってきこえだしました。
「よーっつ、いつーつ、むーっつ。」
おかあさんのたかいこえも、それにかさなってきこえだしました。
「ななーつ、やーっつ、ここのーつ。」
おにいちゃんのわらいそうなこえも、かさなってきました。
いちめんの空のいろ。
ちいちゃんは、空いろの花ばたけの中に立っていました。

あまんきみこ『ちいちゃんのかげおくり』

冒頭のかげおくりにはあった「とお!」(十の数字)の声がラストにはなく、その代わりにあるのは「空いろの花ばたけ」です。

つまり、「とお!」のタイミングで亡くなったちいちゃんを表しており、対比を用いた効果的な表現になっていることが分かります。

「ななーつ、やーっつ、ここのーつ。」
おにいちゃんのわらいそうなこえも、かさなってきました。
(「とお!」)
いちめんの空のいろ。
ちいちゃんは、空いろの花ばたけの中に立っていました。

読者が心の中で数えているタイミングでちいちゃんは空に行き、亡くなったことが分かります。

また、冒頭にあった「白い四つのかげぼうしが、すうっと空に上がりました」という部分も暗示として機能していることも注目しておきたいポイントです。

以上、『ちいちゃんのかげおくり』のあらすじ&ラストシーンの解説でした。

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