ルイス・キャロル

『不思議の国のアリス』あらすじ・解説&感想!全キャラクターからおすすめの翻訳まで!

2020年5月20日

『不思議の国のアリス』とは?

『不思議の国のアリス』は、好奇心旺盛な少女が不思議な世界に迷い込み、奇妙な冒険を繰り広げていく物語。

チェシャ猫や時計うさぎ、トランプ兵に煙草を吸う芋虫など、独創的な登場人物たちによる世界観が特徴的です。

ここではそんな『不思議の国のアリス』のあらすじ・解説・感想をまとめました。

『不思議の国のアリス』のあらすじ

主人公は幼い少女アリス。

ある日、庭で退屈していると、時計を持ったウサギが目の前を通り過ぎた。

「面白い!」と思って、アリスはウサギを追いかけた。

すると、深く暗い穴に落ちてしまった。

そこは不思議な世界で、身体の大きさは度々変わるし、生き物たちはみんな人間の言葉を話す。

ニヤニヤしているチェシャ猫に、煙草を吸う芋虫、それからいつも忙しげな時計ウサギ、紹介するとキリがない。

話の分からない変なのもいるし、話の分かるのもいる(でも、大概変なやつばかりだ)。

中でもトランプの兵隊を従えているハートの女王は、気に入らない人がいると、すぐに「首をはねいっ」と言っている。

アリスもこの女王と遊んでいたけれど、ついには「首をはねいっ」と言われてしまった。

アリスは怒って、「何よあんた達なんか、たかがトランプのくせしてっ」と言うと、トランプはパッと舞い上がり、アリスの上にひらひらと落ちてきた。

すると、アリスは目が覚めた。長い夢を見ていたのだ。

お姉ちゃんがアリスに「目が覚めた?」と聞いた。

それからアリスは、この不思議な夢の冒険を、お姉ちゃんに聞かせた。

お姉ちゃんはアリスの話を聞いて、この可愛い妹は、きっとどんな年になっても、素直で優しい心の持主になるだろうと、その後ぼんやりと想像した。

・『不思議の国のアリス』の概要

主人公 アリス
物語の
仕掛け人
時計ウサギ
主な舞台 不思議の国
時代背景 19世紀
作者 ルイス・キャロル

『不思議の国のアリス』のキャラクター

『不思議の国のアリス』はキャラクターの多い物語です。

チェシャ猫やハートの女王など、有名なキャラクターはよく知られていますが、意外と脇役まではあまり知られていません。

ここではそんな『不思議の国のアリス』の全29キャラクターを、物語の登場順に紹介していきます。

1.ウサギ

いつも忙しそうな時計ウサギで、ハートの女王のしもべです。

アリスはこのウサギを追って、不思議な世界に入り込みます。

2.ダイナ

アリスが飼っている猫の名前です。

冒頭でアリスが穴に落ちているときや、物語の途中など、折に触れてアリスが思い出します。

3.ネズミ

ネズミは、身体が大きくなったアリスの涙でできた池に登場します。

小さくなったアリスが、何の気なしに驚かすような事を何度も言ってしまうので、怒ってしまいます。

4.インコ・ワシ・カニ

インコやワシやカニは、みんなアリスの涙の池で濡れた動物たちです。

身体を乾かすために、どんな方法が良いか話し合います。

最後にアリスが、飼い猫のダイナについて話したところ、みんな一目散に逃げ出します。

5.ドードー

ドウドウは、コーカス・レースで、濡れた身体を乾かそうと提案します。

コーカス・レースとは、丸いトラックをひたすら走る競技で、みんなは30分ほど走ると身体が乾きました。

6.パット

パットは、アリスが時計ウサギの家に着くといた使用人です。

登場時にはリンゴ堀りをしているなど、やや間抜けな感じに愛嬌があります。

7.ビル(トカゲ)

トカゲのビルは、時計ウサギの家で大きくなってしまったアリスを見るため、偵察として家に入ります。

このときビルはアリスに蹴飛ばされ、最後の裁判でもアリスにひっくり返されるので、身体を張ったキャラクターです。

8.モルモット

モルモットは、時計ウサギの家でアリスに蹴られたトカゲのビルを介抱します。

最後の裁判で野次を飛ばして、廷吏に鎮圧されるのもこのモルモットです。

9.子犬

子犬は、アリスが時計ウサギの家から逃げた先にいます。

物語に出てくる動物としては、唯一話さないことが特徴です。

10.青虫

子犬の次に登場するのが青虫です。

水煙草を吸って、どこか怪しげな雰囲気を漂わせていますが、この世界の中ではしっかり者の部類になります。

11.おやじと息子

この親子は、青虫に暗唱させられた、『おやじも老けたな(You are old, Father William)』に出てきます。

詩の中の登場人物のため、作中には直接出てきてはいませんが、印象的な二人です。

12.ハト

ハトは、アリスが青虫のキノコを食べて首が空まで伸びてしまったときに、高い木にいます。

ヘビから卵を守るために高い木を探したのに!と、首の長いアリスをヘビだと勘違いして、ヒステリックになります。

・蛙従僕と魚従僕

公爵夫人が雇っている蛙従僕が左で、ハートの女王が雇っている魚従僕が右です。

女王様からのクロケー・ゲームの招待状を渡しに来ました。

このあと二匹は丁寧にお礼をしすぎて、頭の毛がこんがらがってしまいます。

13.公爵夫人

長い首がもとに戻ったアリスが出会うのが、ある家にいた公爵夫人です。

後にアリスは命の恩人になるため、ひどく優しく接するようになります。

14.公爵夫人の子ども(ブタ)

公爵夫人の子どもは、公爵夫人が女王のクロケー・ゲームに行くと言って、アリスに放り投げられます。

次第に容姿がブタに変わっていき、最後には森にとことこ歩いて行ってしまいます。

15.公爵夫人の女コック

女コックは、公爵夫人の家で傭われている人物です。

なぜか公爵夫人と赤ん坊に、何でも物を投げつけます。

ちなみに公爵夫人はそのことをちっとも気にしていません。

16.チェシャ猫

チェシャ猫は公爵夫人の家で登場します。

ずっとニヤニヤと笑っている姿は、本作のキャラクターの中でもかなり有名です。

17.三月ウサギ

公爵夫人の家を出たあと、アリスが辿り着くのが三月ウサギの家です。

煙突はウサギの耳の形で、屋根はウサギの毛で覆われています。

変なティーパーティが、この家で毎日行われているのです。

18.帽子屋

三月ウサギの家でティー・パーティーをしている一員です。

時計とケンカをしたせいで、ずっと6時のままになってしまったので、ずっとお茶の時間を繰り返しています。

被っているのは店の帽子で、自分の物ではありません。

19.ヤマネ

ティー・パーティーの一員で、ずっと眠たそうにしています。

おとぼけたようなキャラクターで、他のふたりからクッションのように扱われています。

20.トランプ兵

三月ウサギの家から繋がっているハートの女王の敷地にいるトランプ兵です。

ハートの女王に従順で、何でも言いなりになっています。

色々な職業があり、絵のトランプ兵は庭師です。

21.ハートの女王

ハートの国を治めているのがハートの女王です。

すぐに「首をはねよ!」と言うので、皆から恐れられています。

22.ハートの王様

ハートの国にいるハートの王様です。

女王に対しておずおずしたり、洒落を言ったのに誰も笑ってくれなかったりと、ないがしろに扱われているような描かれ方になっています。

23.ジャック

絵の右側、王冠を持っているのがハートのジャックです。

物語の最後には、パイを盗んだ疑惑で裁判にかけられます。

24.フラミンゴ

フラミンゴは、ハートの女王主催で行われる、クロッケーの試合の木槌役です。

ボールを打とうとすると、首を曲げたりします。

25.ハリネズミ

絵の右下にいるのがハリネズミです。

フラミンゴと同じく、クロッケーのボール役になり、最後には逃げ出してしまいます。

26.グリフォン

グリフォンは、鷲の上半身とライオンの下半身を持つ伝説上の生き物です。

ハートの女王が、アリスにニセウミガメを案内するよう言いつけました。

ハートの女王のことを、馬鹿なやつだと思っています。

27.ニセウミガメ

もともとウミガメだったのですが、ウミガメではなくなってしまったニセウミガメ。

いつも哀しげに嘆いている様子が特徴的です。

28.ロブスター

ニセウミガメの歌の中で、ダンスをするロブスターです。ダンスの後には投げられます。

ロブスターも歌の中の登場人物のため、作中には直接出てきてはいません。

29.姉さん

物語のラストに登場するのがアリスのお姉さんです。

アリスが夢から目覚めたとき、アリスを膝の上で寝かせてくれています。

 

以上、『不思議の国のアリス』に登場する全29のキャラクターを簡単に紹介しました。

まとめて出てくるキャラクターはまとめたりもしたので、厳密にはもう少し多いですが、たいした差ではありません。

それよりも、この短い物語にこんなにもたくさんのキャラクターを登場させられた作者、ルイス・キャロルの想像力に驚嘆します。

次には、物語に見られる言葉遊びや、チェシャ猫の「ニヤニヤ笑い」などについて解説していきます。

-解説(考察)-

・言葉遊びのユーモア

『不思議の国のアリス』の特徴は、何と言っても「言葉遊びのユーモア」にあります。

たとえば、tale(お話)と tail(尻尾)をかけた場面です。

  • ネズミ:Mine is a long and a sad tale!’(僕の話は長くて悲しい話なんだ。)
  • アリス:`It is a long tail, certainly,’(たしかに長い尻尾ね。)

『不思議の国のアリス』2章

tale(お話)と tail(尻尾)の発音はどちらも「テイル」なので、アリスは聞き間違えてしまいます。

このように、『不思議の国のアリス』は同音異義語による言葉遊びのユーモアや、英語の韻(例:ティー・パーティー)などが随所に見られる作品です。

そのため、日本語に翻訳された『不思議の国アリス』を読む以上、言葉遊びという観点から本作を味わい尽くすことは難しいでしょう。

とはいえ、翻訳者の方々は様々な工夫をして、この言葉遊びを可能な限り伝えようとしてくれています。

色々な翻訳が出ていますが、「言葉遊び」という観点からおすすめ出来るのは、角川書店から出ている河合祥一郎訳の『不思議の国のアリス』です。

たとえば、冒頭に出てくる詩は「韻」が特徴的なのですが、河合祥一郎訳『不思議の国のアリス』は日本語でも韻を踏むように訳出されています。

黄金の 光輝く 昼さがり
われら ゆっくり 川くだり。
オールを握るは 小さな腕(かいな)、
力を出せとは ないものねだり。
幼いおててが ひらりとあがり
ガイドのつもりで 右ひだり

河合祥一郎訳『不思議の国のアリス』角川書店

最初の文字を「お」と「あ」で交互に、最後の文字を「い(i)」にすることで韻を踏ませています。

この部分、集英社文庫版の訳は次の通りになります。

なにもかも金色ずくめの午後、
ゆっくり、のんびり水面をすべっていく。
というのも、オールを漕ぐ腕、
不馴れのうえに小さいのだ。
幼い手がまっすぐ向けようとしても
ボートはさすらうばかりさ。

『不思議の国のアリス』集英社文庫

集英社文庫版は、やわらかい言葉使いが特徴的で、読みやすさはピカイチです。

ただ、「言葉遊び」や「韻」という観点から見ると、角川書店の河合祥一郎訳が最もおすすめできるかなと思います。

ルイス・キャロル (著)/河合 祥一郎 (訳)

・チェシャ猫の表現

チェシャ猫は、様々なキャラクターが登場する『不思議の国のアリス』でも、特にユニークで人気のあるキャラクターです。

名前自体は、作者ルイス・キャロルの地元、イギリスのチェシャー州でよく使われていた「grin like a Cheshire cat(わけもなくニヤニヤ笑う)」という慣用句から取られています。

そんなチェシャ猫の「ニヤニヤ笑い」は、本作でも特徴的な表現のひとつでしょう。

ニヤニヤ笑いだけは、チェシャ猫の身体が消えた後も、しばらく残っていました。(which remained some time after the rest of it had gone.)

『不思議の国のアリス』

第六章、チェシャ猫がアリスと話した後、ニヤニヤ笑いだけを残して消えていく場面です。

この「ニヤニヤ笑いだけが残る」というのは、なんとも不気味で不合理的な表現でしょう。

なぜなら、笑いというのは表情も伴っているので、原則的に顔が消えると笑いも消えるはずだからです。

アニメ『不思議の国のアリス』では、目と口だけを残すことで、後に残った「ニヤニヤ笑い」を表現していました。

しかし、原作では「ニヤニヤ笑いだけが残っていた」とあるだけなので、目と口が残っていたわけではありません。

あり得ないはずのことがあり得てしまう、そんな世界を「ニヤニヤ笑いだけが残る」という言葉のレトリックで表現している、巧みな描写だといえるでしょう。

・アリスの想像力

『不思議の国のアリス』は、大半がアリスの夢の話です。

物語の最初と最後だけが現実世界であり、メインとなる不思議な冒険は全て夢になります。

ラストのシーンで、アリスがお姉さんに起こされると、次にはお姉さんに焦点が当てられます。

お姉さんはアリスと同じ夢を見ようとし、実際アリスの言うようなキャラクターを想像するのですが、その夢の中に浸りきることはできません。

なぜなら、姉さんは眼を開けると、全てが現実に戻ってしまうことを知っていたからです。

たとえば、ハートの女王の金切り声は、羊飼いの男の子の声。

ニセウミガメのすすり泣きは、遠くで牛が鳴いている声というふうに。

もしかすると、みなさんも現実の音が夢に作用していたという経験が有るのではないでしょうか?

僕も、大勢の兵士がうなり声を上げながらこちらへ向かってきていて、恐怖を感じるほどにその声が大きくなったときに夢から眼を覚ますと、近くをオートバイが走り去っていたという経験があります。

アリスのお姉さんも、アリスが見た夢は現実の音に作用されていると考えたのでしょう。

では、アリスは何の音を青虫の声に、何の音をグリフォンの叫び声に想像したのでしょうか。

アリスの想像の元となったものを、考えながら読んでみるのも面白いかもしれません。

-感想-

・物語中の「枯れ葉」

『不思議の国のアリス』で僕が未だに解決できていないのが、物語中の「枯れ葉」の役割です。

アリスが不思議な世界に入るとき、ウサギを追いかけて穴に落っこちます。

その穴はとても深くて、アリスは長い間落ち続けるのです。

ちなみにこの「落ちる」というのは、夢に落ちていくアリスを比喩的に表しているのだと考えられます。

そして、もうどれくらい経ったか分からなくなって、アリスが夢の中で夢を見始めたその時、ズシンと枯れ葉と小枝の山の上に落ちるのです。

一方で、アリスが不思議な世界から帰るとき、すなわち夢から覚めるときですが、枯れ葉がアリスの顔に当たって、彼女は眼を覚まします。

つまり、夢の世界に入るときには「枯れ葉」の山が、帰るときには一枚の「枯れ葉」が、アリスの夢の繋ぎ役となっているのです。

では、なぜ作者ルイス・キャロルは「枯れ葉」を用いたのでしょうか?

考えられることは二つあります。

ひとつは、「老い」の象徴である枯れ葉を用いて、アリスの若々しさを際立たせるため。

もうひとつは、物語の色彩イメージを茶色に統一したいためです。

どちらもなくはないと思うのですが、いまいち決め手に欠けています。

『不思議の国のアリス』を読む度に、なぜかスッキリとしないのは、この「枯れ葉」が何を意味するのか、そこがあと一歩分からないからかもしれません。

・あくまでも子ども向けの作品

最後になりますが、『不思議の国のアリス』に奥深さを期待して読むのはおすすめできません。

本作はあくまでも子ども向けの作品であり、子どもが読んで楽しい物語になっているからです。

一応イギリスの古典ではありますが、大人が大人の目線で読むとおそらく肩すかしをくらうでしょう。これが正直な感想です。

とはいえ、もちろん名作ですので、大人でも面白さを見出すことはできます。

先に述べたような「言葉遊び」や、アリスの想像した不思議な世界観に没入することがポイントです。

サン・テグジュペリの『星の王子さま』などは、大人が読んでも面白い物語ですが、『不思議の国のアリス』は子どもの気持ちで読むのが正しい読み方のような気がします。

以上、『不思議の国のアリス』のあらすじ・解説・感想でした。

この記事で紹介した本

ルイス・キャロル (著)/河合 祥一郎 (訳)