現代日本文学

『チックとタック』あらすじを紹介!なぜおじさんは豪華な食事だったのか?

2023年8月26日

千葉省三『花いっぱいになあれ「チックとタック」』‎ 光村図書出版『チックとタック』とは?

『チックとタック』は千葉省三の童話で、1960年代〜1980年代にかけて教科書にも掲載されていた作品です。

可愛い挿絵が特徴的な本作は、絵本作家としても有名な安野光雅さんが絵を担当しています。

ここでは、そんな『チックとタック』のあらすじ&解説を紹介します。

『チックとタック』のあらすじ

おじさんが布団の中で眠れない夜を過ごしていると、ボンボン時計の中からなにやら声が聞こえてきます。

それはチックとタックという小人の話し声でした。

ふたりはおじさんが寝ていると思って、時計の針が12時を打つと、中から飛び出してきたのです。

チックとタックはおじさんにいたずらをしかけたり、机の上にある牛肉や天ぷらをもぐもぐ食べたりとやりたい放題。

寝たふりをしていたおじさんは「つまらないなあ」と思っていましたが、ふたりがお寿司に手を伸ばすと、「からい、からい」と言いはじめました。わさびです。

おかしくなったおじさんは笑いをこらえることができず、思わずプッとふき出してしまいました。

その音に驚いたチックとタックは、大急ぎで時計に帰っていきます。

翌朝のボンボン時計は、ジッグ、ダッグとわるい音が出ていたのでした。きっとワサビのせいでしょう。

『チックとタック』ー概要

物語の中心人物 おじさん
物語の
仕掛け人
チック、タック
主な舞台 おじさんの部屋
時代背景 現代
作者 千葉省三

『チックとタック』ー解説(考察)

そもそもボンボン時計とは何か?

作中に出てくるボンボン時計ですが、正式名称は振り子時計と呼ばれる時計です。

振り子の運動を利用して時間を刻む時計で、1657年頃に発明されました。

クオーツ時計(水晶の振動で時間を刻む時計)が登場するまでは、最も正確な時計として利用されてきました。

ロンドンのランドマークであるビッグ・ベン(エリザベスタワー)も振り子時計です。

ロンドンのベッグ・ベン

とはいえ、振り子時計のクラシックなデザインは多くの人から好まれているので、形はそのままにクオーツ式を取り入れたボンボン時計が現在でも売られています。

『チックとタック』は1923年に発表された作品であり、クオーツ式の時計が一般に普及するのは1980年代のことなので、作中のボンボン時計は振り子時計だと考えられます。

真夜中に開かれる小人たちのうたげ

おじさんの家にあるボンボン時計が深夜12時(0時)を打つと同時に、時計は動かなくなります。

なぜなら、振り子の役割だったチックとタックが時計から出てきて、自由に動き回りはじめるからです。

十二時をうってしまうと、チックタックといっていたボンボンどけいの音が、ぱたっとやんだんです。そうして耳をすますと、こんな声が聞こえたんです。
「タック、タック、早くおいで。」
「チック、チック、ふくがぜんまいに引っかかって出られないんだよ。」

千葉省三『花いっぱいになあれ「チックとタック」』‎ 光村図書出版

シンデレラの魔法が真夜中の12時に解けてしまうように、このおはなしでも深夜12時がきっかけとなっています。

チックとタックの魔法が解けて動けるようになったのか、はたまた魔法がかかって動けるようになったのかは分かりませんが、いずれにせよ12時がポイントとなって非現実の世界が開かれるのです。

チックとタックが出てくることで生み出される効果

チックとタックは振り子時計を動かしている本人なので、彼らが時計から出てくるということは、時が止まることを意味します。

小人の出現は非現実的な出来事ですが、

  • 時間が止まっているという状況
  • 真夜中の12時という象徴的な時間

この2点を用いることで、違和感なく読者に伝えることができています。

昼間に電話の中から小人が出てくるおはなしだとシュールすぎますが、真夜中に時計の中から小人が出てくるおはなしは合理的です。

この合理性な(だけれども不思議な)話が、子どもに好まれる要因でもあるのでしょう。

『チックとタック』ー感想

なぜおじさんは一人で豪華な食事をしていたのか?

小人を見たと語るこの「おじさん」ですが、チックとタックの会話からかなり豪華な食事をしていたことが分かります。

「うまいよ。牛肉のつけやきだよ。」
「これはてんぷらだ。ぜいたくなおじさんだなあ。」
(中略)
「ははあ、おすしだな。さっき、おじさんが、おいしそうに食べていたっけ。」

千葉省三『花いっぱいになあれ「チックとタック」』‎ 光村図書出版

「牛肉のつけやき」とは、タレを染み込ませておいた焼肉やステーキのようなものです。

ほかに天ぷらやお寿司も食べています。

つまりはステーキとお寿司を同時に食べているわけで、そこに天ぷらもあれば贅沢の極みと言って良いでしょう。

疑問なのは、なぜこんな贅沢な食事をひとりでとっていたのかということ。

しかも「おすしを食べすぎて、おなかがはって、ちっともちっともねむれ」なくなるまでです。

考えられるのは下記の3点。

  1. 自分か誰かの誕生日や記念日など、特別な日だから
  2. 毎日贅沢三昧の大金持ちだから
  3. 貰い物と冷蔵庫内の処分が重なったから

おそらく1番かなと思います。

普通の日でなく、特別な日であることを強調しておくことで、この後に起こる特別なこと(小人の出現)の伏線になっていると考えるのがベターでしょう。

自分の誕生日なのか、誰かとの記念日なのか、あるいは給料日に豪勢な食事をすると決めている独身貴族なのかは分かりません。

この食事の理由を想像してみるのも面白いでしょう。

小助
個人的には、亡くなった妻の誕生日を祝うために、二人分の料理をひとりで食べた、なんてロマンティックな考えが割と好きです。

大金持ちとは考えにくい

チックとタックが盗み食いをしている場面で、おじさんは「つまらない」と思っています。

ああ、おじさんのあしたの朝の楽しみが、なくなってしまった。つまらないなあと思っていると

千葉省三『花いっぱいになあれ「チックとタック」』‎ 光村図書出版

前の日の食事を翌朝に残して、「楽しみ」にしているので、毎日贅沢三昧というわけではなさそうです。

貰いものと冷蔵庫内の処分が重なった?

あと考えられるのは、お寿司を買ってきた(あるいはもらった)けど、冷蔵庫に期限が近い肉と天ぷらがあった場合。

どれか捨てるのはもったいない。もう全部食べてしまおう!というわけです。

しかし、このおじさんは翌日にもこの食事を残しているので、まとめて食べる必要性は低いように感じます。

やはり、何か特別な日だったと考えるのが良さそうです。

以上、『チックとタック』のあらすじ&解説でした。

1965年から1985年まで、小学一年生に向けた教材としても取り上げられていたので、そのあたりに小学生だった人は記憶にあるのではないでしょうか。

「光村ライブラリー」では当時の教科書教材をまとめた本がシリーズで出版されているので、かつての教科書を思い出しながら作品を読むのも楽しいかもしれません。

収録作品

「だれにあえるかな」工藤直子/作 西巻茅子/絵
「春の子もり歌」平塚武二/作 かすや昌宏/絵
「花いっぱいになあれ」松谷みよ子/作 小野千世/絵
「チックとタック」千葉省三/作 安野光雅/絵
「力太郎」今江祥智/作 田島征三/絵