『いやな感じ』とは?
『いやな感じ』は高見順の後期の作品。
昭和初期の動乱の中、アナーキストとして社会と過激に闘う主人公を描いています。
ここではそんな『いやな感じ』のあらすじ・解説・感想をまとめました。
『いやな感じ』のあらすじ
加柴四郎はアナーキストとして、資本主義社会を破壊しようと志しています。
彼は革命を起こすために様々な仲間と画策し、国家転覆をはかりますが、なかなか上手くいきません。
彼は当局から目を付けられる要注意人物になっていきますが、持ち前の度胸の良さと命知らずな性格で数々の難所をくぐり抜けていきます。
そして最後の革命を起こそうと加柴は中国へ向かい、ある出来事をラストに物語は幕を閉じます。
・『いやな感じ』の概要
主人公 | 加柴四郎 |
物語の 仕掛け人 |
砂馬慷一 |
主な舞台 | 東京→北海道→中国 |
時代背景 | 1930年代前後 |
作者 | 高見順 |
-解説(考察)-
・隠語による独特な文体
『いやな感じ』の特徴は隠語が多用されていることです。
- スケナゴ=女
- ムシニン=囚人
- ギシュ=社会主義者
- ヤマアラシ=暴動
など、おそらく普通の人なら分からない言葉でしょう。
こうした隠語を用いることで主人公のゴロツキ感を出したり、作品に独特な雰囲気を演出しています。
また、物語の主軸には「血を流す過激な革命」があるので、隠語を散りばめることで諧謔的な効果を狙ったのかもしれません。
いずれにせよ、物語中の隠語は『いやな感じ』という作品の特徴的な言語表現であり、高見順はその効果を巧妙に用いていると言えるでしょう。
・作中の「いやな感じ」
読んだ方は分かりますが、『いやな感じ』は
- (いやな感じ)
を描いた作品です。
作中では6回のいやな感じが描かれます。
- 性病の治療で男性器の尿道から紫色の液体を注入するときの生理的ないやな感じ
- アナーキストの主人公が結局はブルジョアの私利私欲のために命を捧げることのいやな感じ
- 主人公が矢萩という人物に付け狙われるいやな感じ
- 日本刀で人の首を切るときのいやな感じ
- 同上
- 同上
このような心理的・生理的ないやな感じが随所に表現されることで、「いやな感じ」という言葉が作品の中で流動的に拡大していき、最後には作品独自のいやな感じが完成されます。
また、主人公はテロリストとして死にたい願望を持っているのですが、周りだけが死に、自分は死ぬ機会に恵まれません。
そうした主人公の煮えきらなさや喪失感も、いやな感じとして主人公にまとわりついています。
ちなみに5.6は同上としていますが、未読の方のための配慮で、正確には少し違います。まだ読んでいない人はぜひ読んでみて、いやな感じを捉えてみてください。
-感想-
・高見順の最高傑作のひとつ
『いやな感じ』はかなり面白い作品です。
独特な隠語を用いた文体が味を出していて、ぐんぐん惹き込まれます。
作中では隠語にカッコが付けられているので意味が分かるようになっていますが、素で読むと何を言っているのか分かりません。
「ガゼビリにしちゃ、ハクイナゴだ」」
こうした言葉の微妙な効果も面白いポイントでしょう。
長編小説で読むのに時間はかかりますが、高見順の最高傑作として僕は断然おすすめします。
最近新しく刊行もされたので、『激流』や『大いなる手の影』などほかの後期作品より入手しやすい点も魅力的です。
以上、『いやな感じ』のあらすじと考察と感想でした。
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