坂口安吾『風博士』は笑っておけばいい。あらすじから考察まで

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『風博士』とは?

坂口安吾: [ちくま日本文学009] 文庫 – 2008/2/6

『風博士』は風博士と蛸博士の因縁を描いたユーモア小説です。

坂口安吾のデビュー作でもあり、捉えどころのない内容が人気の作品になっています。

ここではそんな『風博士』のあらすじ・考察・感想をまとめました。

この記事を読んで分かること

  • 『風博士』のあらすじ・概要
  • ・考察1 『風博士』とファルス
  • ・考察2 「僕」=蛸博士説
  • 『風博士』の感想 ~風博士というキャラクター~
  • まとめ・評価・関連記事



『風博士』のあらすじ

「僕」は「諸君」に風博士をご存じないかと問いかける。

知らないならば風博士が自殺したことも知らないだろうと言い、風博士の遺書が紹介される。

風博士の遺書は蛸博士への憤懣で満ちている。蛸博士は風博士の妻を寝取ったからだ。

風博士は蛸博士に復讐するも、蛸博士はそれを上手くやり過ごしたため、風博士は自殺すると遺書には書いてある。

「僕」は風博士の最後を見たという。すなわちそれは風博士二度目の結婚式の当日で、博士は式に遅れたそうだ。

僕が風博士の家に行くと博士は本を読んでいて、声を掛けると扉の方へ行き、そこで風になったという。

そして風博士の復讐は叶った。なぜならその日、蛸博士はインフルエンザになったそうだ。

・『風博士』の概要

主人公 風博士
物語の
仕掛け人
蛸博士
主な舞台 東京
作者 坂口安吾



-解説(考察)-

・『風博士』とファルス

『風博士』に出てくる「僕」の語りは大げさであり、おかしみのある文体で物語はつづられます。

然り、之即ち風である。何となれば姿が見えないではない乎。これ風以外の何物でもあり得ない。風である。然り風である風である風である。

こうしたおかしみは

  • ファルス(笑い)

といい、坂口安吾という作家の特徴的な作風でもあります。

「僕」による演説口調のおかしみ。風博士と蛸博士のお間抜けな争い。それから馬鹿らしいラスト。

『風博士』は内容がつかみにくい物語ですが、そうしたファルスを感じることで楽しむことが出来る作品になっています。

とはいえ、何かの形に落とし込んで『風博士』を捉えたいという方もいるでしょう。

そんな方に向けて、次には『風博士』のある読み方を紹介します。



・「僕」=蛸博士説

『風博士』はファルス(笑い)を全面に押し出した小説です。

そのせいか内容を読み取るのが難しく、研究者の間でも決定的な捉え方のされていない作品でもあります。

そんななか、

  • 「僕」=蛸博士ではないか

という説を出した花田俊典という研究者の方がいます。

蛸博士は風博士の論敵であり、風博士の妻を寝取った情夫でもあります。

そんな彼が物語の進行をする語り手の「僕」なのではないかという魅力的な読み方です。

僕は『風博士』を普通に読み、単純に馬鹿らしい話だという捉え方ですが、こうした推理的な読解もされる豊かな作品だと言えるでしょう。



-感想-

・風博士というキャラクター

個人的に言えば、お茶目なばからしさが印象的な一篇です。

途中まではノミを探す猿のように注意を凝らして読んでいましたが、終わりが近づくにつれて滑稽さが強調されていくので、こちらがはぐらかされてしまいます。

最後には決定的な馬鹿らしさが待っていますが、けれども何かがあるような気がする、そんな不思議な作品です。

「深く結婚式を期待し、同時に深く結婚式を失念」してしまう博士はすごくダメな人間ですが、同時に愛嬌のあるキャラクターになっています。

5分ほどの無声アニメーションにできそうな面白い小説でした。



-評価-

独特なおかしみ

『風博士』のひとことまとめ

  • お馬鹿で不思議な風博士が描かれる物語。

・作品情報

  • 『風博士』(『昭和文学全集』小学館)
  • 著者:坂口安吾
  • 発行者:相賀徹夫
  • 発行所:小学館
  • 印刷所:凸版印刷
  • 製本所:凸版印刷
  • 発行:昭和62年

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