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樋口一葉『十三夜』あらすじ&解説!なぜお関は離縁しなかったのか?

2020年4月18日

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『十三夜』とは?

『十三夜』は樋口一葉の小説。

裕福な家に嫁いだ女性主人公の心情が、リズムの良い会話文で綴られていきます。

ここではそんな『十三夜』のあらすじ・解説・感想をまとめました。

『十三夜』のあらすじ

十三夜の晩。主人公のお関は、夫と離縁したいと言うために、実家へと帰ってきていた。

離縁と聞いた両親は驚いたが、お関が夫から受けている酷い仕打ちを聞くと、始めは言葉も出なかった。

母親は憤慨して、婿への怒りを露わにしたが、父親は冷静に「お前の子どものためを思って頑張りなさい。一瞬の感情で一生を棒に振ってはならない」と諭した。

お関は父親の言葉に納得し、涙をのんで、相手の家で世を送ることを決めた。

家に帰るために人力車を呼び止め、実家を出たお関だったが、車を引いていた車夫は、なんと昔の想い人・縁之助だった。

昔は粋だった縁之助だが、お関が金持ちの家に嫁ぐことになったと聞いた時から、狂ったように放蕩三昧をして、今では無一文になり落ちぶれてしまっていた。

二人はお互いの想いは語らず、これまでの身の上話をしてから、目的の場所に着くと月のもとで別れた。

お関は裕福な家で、縁之助は安宿の二階で、お互い悲しい世を生きて、とりとめのない考えに耽ることが多い。

・『十三夜』の概要

主人公 お関
物語の
仕掛け人
高坂録之助
主な舞台 東京
時代背景 明治中期
作者 樋口一葉

-解説(考察)-

・集団と個人

樋口一葉の『十三夜』は、

  • 集団と個人

中心的なテーマになっている作品です。

具体的にはどういうことなのか、そのためにまずは登場人物をおさらいしましょう。

  • 元士族だった父
  • 娘に寄り添う母
  • これから働き盛りの若い弟・亥之助
  • 主人公で長女のお関
  • お関の夫である原田勇
  • 昔恋仲にあった高坂縁之助

以上の6人が主な登場人物です。

物語の前半を進めるのは、お関と父母の合計三人。

お関は夫の勇が自分に辛く当たるので、彼とは離縁したいということを両親に持ちかけますが、結果的には離縁を取りやめました。

その理由は主に三つあります。

  • 幼い太郎という子どもの存在
  • 弟・亥之助が勇のコネで就職し、職場でも良くしてもらっている状況
  • 貧乏な実家を少しでも暮らしやすくしてあげたいという想い

これらを見ると、お関は個人的な感情よりも、我が子や弟などの家族を優先した結果、離縁を諦めたことが分かります。

お関が個人的な感情を抑えて家族を優先したことは他にもあります。

それは、原田勇との結婚です。

物語後半に明らかになることですが、お関には高坂縁之助という想い人がいました。

しかし、原田勇に強引にせまられ、また両親のすすめもあり、縁之助への想いを諦めたのです。

ここにも、個人的な感情を抑えて、家族の為に良家の男と結婚するお関の姿が見られます。

『十三夜』が書かれたのは1895年の明治中期頃で、昔らしい風習などがまだまだ残っている時代です。

この頃は、個人よりも家族や社会などの集団が優先される時代だったので、お関の選択は時代に合ったまっとうな判断だったのでしょう。

こうした、

  • 集団>個

という図式が、『十三夜』からは読み取れるのです。

・弟・亥之助の出世

『十三夜』に亥之助自身が登場するわけではないのですが、前半部分ではとりわけ存在感があります。

それはやはり、亥之助が斉藤家を背負って立つ、一家の大黒柱だからでしょう。

この小説の主人公はお関ですが、物語世界の中では、亥之助の活躍次第で斉藤家の明暗が分かれます。

そしてその亥之助の出世を支えてくれているのが、お関の夫である勇です。

勇のコネで良い職場に勤めていられる亥之助をはじめ、両親もそのことにとても感謝しています。

そんな勇との関係が切れてしまったら、亥之助の出世は絶望的でしょう。

こうした理由が大きいために、父はお関の離縁を思いとどまらせたのだと考えられます。

お関の子どもが可哀想だという理由もありますが、斉藤家がみな没落してしまったら元も子もありません。

このような亥之助と勇の繋がりが、物語の背景に横たわっています。

亥之助の出世のためにも、お関は勇とつなぎ止められている。

そうした女性の立場の弱さが、物語の悲壮感をいっそう引き立たせているのです。

・演劇のような物語の進み方

『十三夜』は地の文が少なく、主に会話文で物語が進んでいきます。

登場人物ごとの話しも長く、一人のセリフが何ページにもわたることもあります。

戯曲とまではいきませんが、演劇のように一人ひとりの持ち時間があり、それぞれの役割が明確になっているところも『十三夜』の特徴でしょう。

また、物語の構成も演劇的です。

『十三夜』は上と下に分かれていて、上はお関と家族の場面が、下はお関と旧友が出会う場面が描かれます。

この二幕できっぱりと場面が分かれているので、まさに演劇を見ているような感があります。

このように、『十三夜』は演劇のように物語が進んでいく点が特徴的な作品です。

-感想-

・『にごりえ』への連想

『十三夜』の登場人物を見ていると、どうしても『にごりえ』への連想を抑えることは出来ません。

『にごりえ』は同じく樋口一葉の小説で、『十三夜』の直前に発表された作品です。

『にごりえ』の主人公はお力という遊女で、彼女は二人の男性から想いを寄せられています。

一人はお金持ちの結城友之助で、もう一人は落ちぶれてしまい貧乏になった源七という男です。

『十三夜』も同じように、お金持ちの原田勇と、落ちぶれた高坂縁之助の二人から想いを寄せられています。

こうした構図があまりにも似ていて、樋口一葉が小説の中で思考実験をしているような印象を受けました。

『にごりえ』を未読の方もいると思うので、詳しくはここで書きませんが、二つの作品の類似性からも『十三夜』を楽しむことは出来ると思います。

樋口一葉『にごりえ』の解説&感想!お力の苦悩から心中の真相まで!

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『にごりえ』の解説と感想も書いているので、気になった方はチェックしてみて下さい。

・「十三夜」とは何か?

十三夜とは、旧暦九月一三日にするお月見のことです。

日本には本来、八月一五日の十五夜と、後の十三夜のセットでお月見をする風習がありました。

どちらか片方だけお月見をすることを「片見月」といい、縁起が悪いこととされていたようです。

現代はもちろんのこと、『十三夜』が書かれた当時でさえも、十三夜の月見は古い風習だったといいます。

そんな「十三夜」を、樋口一葉はなぜタイトルに取ったのでしょうか。

個人的な考えですが、十三夜の月見という「古い風習」と、個人よりも家を優先するという「古い風習」を重ね合わせたのではないかと思います。

それからもちろん、きれいな月を浮かべることで、物語世界の淋しさを引き立てる効果もあるでしょう。

ほかにも考えられると思うので、タイトルの意味を探りながら読むのも面白いかもしれません。

以上、『十三夜』のあらすじと考察と感想でした。

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