樋口一葉『にごりえ』の解説&感想!お力の苦悩から心中の真相まで!

2020年4月15日

『にごりえ』とは?

『にごりえ』は、遊女として働く主人公・お力の激しい内面が描かれる樋口一葉の小説です。

少年少女時代を描いた『たけくらべ』とは違って、『にごりえ』では大人の社会が描かれています。

この記事ではそんな『にごりえ』のあらすじ・解説・感想から、お力の苦悩や心中の真相までをみていきます。

『にごりえ』のあらすじ

主人公のお力は銘酒屋(売春屋)で一番人気の芸子。

彼女を求めていろいろな男が寄ってくるが、その中でも源七という男の羽振りは良かった。

お力も源七に惹かれて相手をしていたが、とうとう源七の財産はなくなってしまう。

源七が遊びに来なくなった頃、結城朝之助という金持ちが、お力を贔屓にしはじめる。

惚れやすいお力は結城に惹かれながらも、ふと考えるのは源七のこと。

源七も源七で、妻と子があるにも関わらず、いつもお力が頭から離れない。

あるとき源七は夫婦喧嘩の末に、妻子を家から追い出してしまう。

もはや源七が懐くお力への思いを止めるものはない。

源七はお力と共に心中し、二人はこの世を去ってしまった。

・『にごりえ』の概要

主人公 お力
物語の
仕掛け人
源七
主な舞台 東京
時代背景 明治中期
作者 樋口一葉

-解説(考察)-

・『にごりえ』の登場人物

『にごりえ』の主な登場人物は以下の通りです。

  • お力→菊の井の人気娼婦。主人公。
  • 結城友之助→お金持ちの遊び人。お力を気に入っている。
  • 源七→お力に入れ込み、財産を使い果たす。
  • お初→源七の妻。旦那と離縁し、子を連れて出て行く。

お力、結城、源七。この三角関係が物語の主軸となります。

結城という魅力的な上客がいるにも関わらず、金の無くなった源七への思いを断ち切れないお力の人間味が、この物語を面白くしているポイントでしょう。

ほかにも、菊の井の仕事仲間や源七の子なども、『にごりえ』に出てくる重要人物です。

・お力の苦悩や内面の描かれ方

物語の始め、主人公のお力はいかにも口の巧い娼婦という形で登場します。

初めて菊の井に来た結城友之助とのやりとりは軽妙で、お力の実力が描かれる場面です。

そこから章が進むにつれて、お力の描写はより内面的な部分に焦点が当てられていきます。

つまり、冒頭では社会的な顔のお力が、後半では個人的な顔のお力が描かれるわけです。

最後には上客の結城友之助に向けて、自分の家族の話を打ち明け、過去の生い立ちを打ち明け、個人的な弱い部分を見せます。

このように『にごりえ』という物語は、お力という女性のベールを1枚ずつ脱がしていき、少しずつ内面を覗いていくような作品になっています。

・「お前は出世を望むな」の意味

物語中に出てくる「お前は出世を望むな」の意味は、「お前は出世を望むのだな?」です。

終盤で結城友之助がお力に向かって問いかける場面ですが、よく読み間違いが起こります。

現代語的に読めば、「お前は出世を望むな(望んではいけない)」と読めてしまうからです。

ほかにも古典的な言葉遣いがちらほらと出てくるので、『たけくらべ』や『にごりえ』は注釈のある本で読むのがおすすめです。

・『たけくらべ』と『にごりえ』の比較

作者・樋口一葉の代表作『たけくらべ』は、14才の少女・美登利が主人公の物語です。

内容的には、淡く切ない恋物語ですが、ラストは美登利が花魁になることが暗示されて終わっています。

一方『にごりえ』のお力は娼婦として働いていて、悲しい愛の物語です。

  • 『たけくらべ』→子ども時代の実らない初恋。その後は花魁になる暗示。
  • 『にごりえ』→大人の悲しい恋愛。職業は娼婦。

このように二つの作品は、

  • 色を売る仕事
  • 実らない恋愛

という共通点があります。

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一方、相違点は主人公の年齢や、テーマ自体の大きさです。

『たけくらべ』と違って、『にごりえ』は大人が主人公です。

なので自然と『にごりえ』の方が、主人公の心情描写がより複雑になっています。

こうしたことから、

  • 『たけくらべ』→少年少女のノスタルジックな世界観
  • 『にごりえ』は遊女として社会に生きる大人のリアリティある世界観

を描いていると言えるでしょう。

-感想-

・引き算の表現

物語のラスト、お力は源七と心中したことが明かされます。

読んでいると急なことだったので、とても驚きました。

実際、物語のプロット的にも急な展開です。

  • 六章→お力の心情描写。結城友之助を相手に心情を吐露。
  • 七章→源七とお初(妻)のけんか。お初が子を連れて出て行く。
  • 八章(終章)→町から二つの棺(源七とお力の棺)が出て行く描写。

この七章と八章の間に、源七とお力が心中をする場面、または心中をほのめかす場面があっても良さそうですが、この物語にはありません。

その場面だけがすっぽりと抜け落ちているような感じです。

語り手もこの心中の話になると、根拠のない噂話をいくつか聞かせて、話を早々と切り上げようとしています。

このように、二人の死という事実だけを伝えるメリットはいくつか考えられます。

  • 情緒的なやりとりの一切を省くことができる
  • 真相を闇に包むことで不明瞭な物語にすることができる

などです。

二人のやりとりを省くことで、物語的にはすっきりとします。

語らずに伝える、引き算の表現方法です。

また、お力と源七の心中場面が描かれたとすれば、二人の死にはなんらかの理由がつくことになります。

その理由をあえて隠すことで、読み手に一種のモヤモヤを感じさせているのです。

苦悩するお力の心情に加えて、このように物語的な不明瞭さも、タイトルの『にごりえ(濁り江)』をイメージづけているのではないでしょうか。

・『にごりえ』の真相は?きっかけはカステラ

二人が心中に至ったことの発端は「カステラ」にあります。

源七の息子が外で遊んでいるとき、通りかかったお力と結城友之助にカステラを買ってもらい、それを持ち帰ります。

すると母親のお初が、「うちを貧乏にさせた女にカステラなんぞ貰うんじゃない」と息子を叱って、カステラを外に放り投げてしまうのです。

それを見た父親の源七は「人からのもらい物を俺への当てつけにして粗末にするな」と怒り、「お前とは離縁する」と言います。

お初は謝りますが、源七の思いは変わらず、仕方なくお息子と一緒に出て行くのです。

後に残った源七は、お力への愛に生きるしかないですが、お力と遊ぶ金もなし、いっそ心中と心を決めたのでしょう。

こうしてみると、お力のあげたカステラが、ことの火種になっていることは明らかです。

妻が出て行った状況から考えると、心中を思いついたのは源七だと思います。

しかし、そもそもの原因はお力にあるということを、カステラの描写は表現していると考えられます。

以上、『にごりえ』のあらすじと考察と感想でした。

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