『たけくらべ』とは?
『たけくらべ』は樋口一葉による小説です。
ときは明治時代。廓の街に住む美少女・美登利を中心に、15、6才の少年少女たちの切ない青春の一幕が描かれます。
ここではそんな『たけくらべ』のあらすじ・解説・感想までをまとめました。
『たけくらべ』のあらすじ
主人公の美登利は快活な性格。
吉原遊郭の街でも人気の美少女だ。
そんな彼女が密かに思いを寄せるのは、寺に生まれた信如という男で、彼もまた美登利を意識していた。
けれども二人の距離はなかなか縮まらない。
そんな中、信如は僧侶の学校へ行くことになり、美登利には初潮がきた。
大人になるのが嫌な美登利は塞ぎ込んでしまって家から出なくなり、以前の快活さを失う。
ある霜の朝、美登利の家の門の下に、水仙の花を入れる者があった。
誰とも知らないが、美登利は花を手に取り、一輪挿しに活けて、淋しく清い花を愛でた。
伝え聞くところによると、その翌日は信如が僧侶修行に出る日だったという。
・『たけくらべ』の概要
主人公 | 美登利 |
物語の 仕掛け人 |
藤本信如 |
主な舞台 | 台東区・吉原遊郭近辺 |
時代背景 | 明治中期 |
作者 | 樋口一葉 |
-解説(考察)-
・登場人物の整理
『たけくらべ』を読むコツは、登場人物をきちんと把握することです。
ここでは『たけくらべ』の中心人物を箇条書きにして整理することで、物語を分かりやすくしていきます。
- 美登利→14才。妓楼に住む少女。信如に思いを寄せる。
- 信如→15才。寺の子。勉強は出来るが気は弱い。美登利につれない態度をとる。
- 長吉→16才。鳶人足の親方の息子。横町組の暴れん坊。
- 正太郎→13才。高利貸しの息子。美登利と仲が良く、片思いをしている。
- 三五郎→16才。人力車夫の息子。家は貧しいが、おどけ者の愛されキャラクター。
このように、『たけくらべ』は13才~16才の少年少女による物語です。
年齢はあまり関係なく、基本的には家柄で上下関係が構築されています。
なので、年上の長吉は信如を丁寧に扱い、16才の三五郎は13才の正太郎にへつらっているのです。
それに加えて、学の出来る者を敬う風習もあるので、信如や正太郎はより目上として扱われています。
ここは現代と少し感覚が違うので、『たけくらべ』の中でも扱いのひどい三五郎を一番年下だと思ってしまうというのは、よくあるミスリードです。
他にもそれぞれの両親などが登場しますが、主にこの5人の少年少女によって話は進んでいきます。
この登場人物さえおさえておけば、『たけくらべ』はグッと分かりやすくなるでしょう。
・美登利と信如。二人の大人の階段
『たけくらべ』は、美登利と信如の切ない恋物語であると同時に、二人が大人になる瞬間を描いた作品でもあります。
物語の後半、美登利には初潮が来て、髪を島田(大人の髪型)に結います。
これは美登利が大人になったことを表す描写です。
この髷は花魁である姉の部屋で結ってもらったものなので、美登利もゆくゆくは花魁になることが暗示されています。
また時を同じくして、信如は僧侶の学校に入ることが決まります。
これからは僧侶の衣服に袖を通して、修行の毎日が待っているのです。
このようなことから、少年少女だった二人は今までの自分と決別し、新たな道を歩もうとしていることが分かります。
つまり、『たけくらべ』は二人の恋の物語でもありながら、それぞれが別の道で大人への階段を上っていく瞬間を描いた物語でもあるのです。
・雨の中に残された紅入り友禅
『たけくらべ』の中でもとくに情緒的な場面は、大黒屋(美登利の家)の前で信如の鼻緒が切れた場面でしょう。
美登利は家の中から「鼻緒が切れた人がいる」と思って外へ出るのですが、その人が信如だと知り頬を赤らめます。
しかし、これまでの仕打ちを考えると物も言えず、加えて母親は家の中から呼ぶので、黙って紅入り友仙だけを置いて、家の中に入ってしまうのです。
信如も美登利が来たことは背中で感じていたのですが、若い意地から素直になれず、知らん顔をしていました。
振り返った信如は紅い布に気づき、さすがに置いておくのは忍びないと思ったのですが、丁度そのとき長吉が通りかかります。
長吉は自分の下駄を貸してやると言って、結局、紅い友仙は雨の中に打ち捨てられたままになったのです。
このうち捨てられた紅い友仙の描写は美登利の恋の行く末を暗示しており、『たけくらべ』の中でも最も切ない場面となっています。
-感想-
・ラストを際立たせる物語の進め方
この物語は序盤から中盤にかけて、
- 祭り
- けんか
- 遊び
など、子どもらしい雰囲気が強調されています。
具体的には、
- 八月二十日の千束神社のまつり
- まつり当日の横町組と表組のけんか
- うたを唄ったり、錦絵を見る遊び
などです。
また、これらは大人数での描写が多いので、自然とにぎにぎしい雰囲気が出ます。
こうした子どもらしい「わいわい」とした感じを綿密に描くことで、物語終盤で大人になっていく二人の切なさが際立っているように思います。
・ラストシーンの水仙
ラストシーンで門の下に置かれた水仙は、おそらく信如が置いたものでしょう。
かつて門の前に打ち捨てられた美登利の紅入り友仙と、門の下に置かれた白い水仙の花が、きれいな対比描写になっているからです。
ちなみに水仙はこんな花です。
見たことがある人も多いのではないでしょうか。
実はこの水仙の描写は、美登利の紅入り友仙と対比になっているだけではありません。
第七章で、美登利は信如にこんなことを言います。
「こんなうつくしい花が咲いてあるに、枝が高くて私には折れぬ。信さんは背が高ければお手が届きましょ。後生、折って下され」
これに対して信如は、周りの目を恥ずかしがって、無愛想に枝を折り、美登利に投げ付けました。
こうした過去の行為と、水仙の花を門の下に置くという行為は繋がっています。
あの時はきちんと接してあげられなくて済まないといった、信如自身の詫びる心が読み取れるのです。
以上、『たけくらべ』のあらすじと考察と感想でした。
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