書評

ジャルジャル福徳の本を紹介!『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』あらすじ&名言&感想まで!

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』の紹介

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』は、ジャルジャルの福徳秀介の恋愛小説です。

主人公は、福徳秀介を思わせる関西大学の男子学生。

自意識高めのウザさ(褒め言葉)がある性格で、ジャルジャルらしい感じが存分に出ており、それでいて内容も普通に面白いです。

ここでは、そんな『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』の簡単なあらすじ・感想・名言までをまとめました。

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』あらすじ

ボッチな大学生活を送っている主人公・小西徹は、輪になって「学生らしい」生活をしている人たちを小バカにすることで、自分の友達が少ないことを正当化しています。

それでいて、いつも周囲の目を気にしており、「自分はあえて一人なんだ。近寄ってくるな」というアピールも込めて、学内ではずっと日傘を差しています。

彼が2回生になったある日、いつものように一番早く講義室から出ようとしたら、自分よりも早くに出た女性がいました。

のちに知ることになる彼女の名前は、桜田花。

彼女は学内をいつも一人で歩き、食堂でも一人でざるそばを食べ、それでいていつも凛とした美しさを纏っている女性でした。

小西は自分と同じ境遇の(なんだったら一枚上手の)彼女のことが気になり、接近しようと試みます。

孤高を貫く小西と桜田花。大学でたった一人の友人である山根や、アルバイト先で仲の良い同い年のさっちゃん。とっても美味しい喫茶店のマスター。

4人の大学生を中心に、普通の小説とは一味違う、こじらせ系ぼっちの恋愛物語。

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』感想

主人公の自意識が上手に描かれている

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』を面白くしているのは、「群れて学生生活を謳歌している奴らとは違う」という、スレた価値観を持つ主人公が、物語の中で上手に描かれているところです。

彼は「日傘」をずっとさし、近寄ってくるなとアピールしています。

「俺はお前らとは違う」系の主人公は、日本の小説ではよく見られます。

ウザくなりがちな彼らですが、『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』では、ヒロインも「私はお前らとは違う」系の女子にすることで、その印象を和らげています。

また、主人公の祖母がかなり良い味を出すキャラクターなのですが、彼女も「人と違うことは良いことだ」と言っています。

「みんなと違う方がいいんやで。みんなと同じやったらね、少しの違いが気になるでしょ?ほな、疲れるんよ。人とあからさまに違ってる方が楽なんやでー。楽に生きられるでー。」

福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』小学館,p12

マイノリティであるはずの彼らですが、物語の中ではマジョリティになっており、それが主人公の価値観をウザくさせすぎないことに成功している要因です。

魅力的なキャラクターたち

すでに少しだけ触れましたが、『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』は主人公以外の人物もすごく魅力的です。

  • 祖母:人生に対する名言が多い。いつも主人公の味方でいてくれて、強く生きている人
  • 桜田の父:主人公の祖母と同じ雰囲気を持っている強い人。名言が多い
  • 喫茶店のマスター:メニューを変な名前にするのが趣味。その理由も物語の一部
  • 花:主人公が一目惚れした「私はお前らとは違う」系のヒロイン。
  • さっちゃん:主人公と同じ銭湯でアルバイトをしている女子大学生。無駄話が面白く、カジュアルな性格
  • 山根:主人公の唯一の友達。大分出身。間違った関西弁を身につけており、なぜかジャルジャル後藤の顔が浮かぶ人物
  • サクラ:パスタ屋「プーケ」の看板犬。実際に関大前にある「CAPE COD(ケープコッド)」の二代目看板犬・さくらがモデル

 

250ページほどの小説で、ここまで幅広い人物を魅力的に描くことは、プロの小説家にも難しいかもしれません。

コントなど、短い時間の中で観客にキャラを理解してもらうスキルが、小説にも活かされているように思います。

主人公とヒロインは少しぶっ飛びすぎており、現実感がない(あるいはフィクション感が強い)部分もありましたが、それも福徳秀介さんの小説としては魅力になっていました。

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』名言

「雲は空にしかいられない」

福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』小学館,p4

冒頭の一文から名言で始まる本作。

名言が主役の小説と言っても過言ではありません。

特に、主人公のおばあちゃんと、ヒロインのお父さんの言葉は心に沁みます。

「恥ずかしいときは、自分を他人と思いなさい。すると、これっぽっちも恥ずかしくないから」

福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』小学館,p12

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』には、本当に多くの名言が出てきます。

「名言」と言ってしまうとどこか浅い雰囲気になってしまいますが、それが少しためらわれてしまうほど、味わいのある言葉が並びます。

恋愛小説として紹介していますが、少し家族小説的なところもあり、名言を通してあたたかい人間性に触れることができるのも本書の魅力です。

空の描写

タイトルにもあるように、「空」はこの小説の重要なテーマになっています。

「はれ、くもり、あめ、おばあちゃんは、どれがいちばんすき?」
「私はね、今日の空かな」
「あばあちゃんは、あめがすきなんや」
「違うねん。私は毎日こう思う。今日の空が一番好き、って。空は毎日変わる。今日の空は今日しか見れないんやで。(後略)」

福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』小学館,p14

小説では表現技法として、空模様で物語の雰囲気を表すことがあります。

  • 晴れてきた→物語が良い方向へ向かう
  • 雨や雷が降ってきた→何かよくないことが起こる
  • 曇っている→何かよくないことが起こるor展開が不透明

 

日本最古の小説と言われる『源氏物語』にもたびたび使われる、比喩的な表現です。

それが『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』では、かなりたくさん描かれています。

その数の多さは被せボケのようにも思えてくるほど。

ざっと数えてみると15個くらいありました。

  • 空が青く澄んで、電線の黒さが際立っていた。p8
  • 空には、たくさんの小さな雲が点々としている。巨人が雲をちぎって投げ散らかしたよう。p15
  • 空には、職人が刷毛にペンキをたっぷりとつけて、大胆に横殴りで描いたような雲がある。p26
  • 意志の弱そうな薄い雲が空を覆っている。p53

など

「今日の空が一番好きと思わなあかんで」というおばあちゃんの言葉を、ずっと意識している主人公の気持ちが読み取れます。

もちろん小説の内容ともリンクしていて、空模様を楽しみながら読める部分です。

こうなってくると、主人公が「日傘」を持っていることも象徴的な意味があることも分かりますね。

恋愛・家族・友情・自意識、こうした要素が絡み合いながら、文学的にもエンタメ的にも読み応えの小説になっています。

唯一の友人である山根が、キャラを作っているジャルジャル後藤にしか思えないところも面白いポイント。

「おーい!こにっしゃん!学食行こうやねん」
遠くから聞こえる声。関西大学の唯一の友達、山根だ。同じ文学部。
僕、小西を「こにっしゃん」と呼ぶ。
「よっ。腹減ったなー。学食行こうか」
僕らは昼休みを食堂で過ごすことが多い。
「よっしゃねん。何食うやねん。やっぱりタルタルチキンカツねんかい?」
大分県出身の山根は、方言コンプレックスと大阪弁への憧れのせいで、唯一無二の山根を完成させている。

福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』小学館,p8

本筋の恋愛も、実は意外な展開があって読み物として面白いです。

ぜひ手に取って、ジャルジャル福徳秀介さんの小説を楽しんでもらえると嬉しく思います。