書評

『むき出し』あらすじ&紹介!EXIT兼近の犯罪歴が素直に語られる自伝的私小説

小説『むき出し』の紹介

『むき出し』は芸人・EXIT兼近さんによる小説です。

チャラ男キャラで知られている彼ですが、幼少期は極貧生活を送っており、ティッシュにマヨネーズをかけて食べていたという有名な話もあります。

また、中学卒業以後の生活は犯罪と隣り合わせの毎日であり、実際に犯罪に巻き込まれたこともありました。

小説『むき出し』は、そんな兼近氏の半生を思わせる自伝的な小説です。

『むき出し』のあらすじ

芸人としてブレイクしていた石山ですが、過去に起こしていた犯罪を週刊誌に暴かれます。

「ついにこの時が来たか」と腹を括る主人公。

同時に物語は過去への回想に入っていきます。

小学生時代から高校時代、卒業後から芸人になり現在に至るまで。

「普通」の日常とはかけ離れた生活や、犯罪がごく身近にあった過去。

法律でいけないとは知っていたものの、生きていくために、それがなぜいけないことなのか分からなかった。

主人公なりの正義や、そのときのリアルな気持ちが正直に描かれるストーリー。

EXIT兼近を思わせる主人公の、壮絶な半生が明かされていきます。

小説『むき出し』解説

EXIT兼近の犯罪歴が素直に語られる小説

『むき出し』の物語は、主人公の石山が週刊文春に話しかけられるところから始まります。

「週刊文春です!なんの件かわかりますか?」
突如、夢から目が覚めたのに、まだ夢の中にいるような感覚に陥り、さっきまで、”いや今まで歩いてきた道”が実は暗かったことを意識した。
そして言われずとも、自身の過去のことだと確信した。

兼近大樹『むき出し』文藝春秋,p8

ここから過去の回想が始まり、小学生〜上京して芸人になるまでの半生が語られる形です。

作者であるEXIT兼近は、実際に2019年9月5日、過去の犯罪歴を週刊文春に明かされています。

  • 2011年:売春防止法違反容疑→事実を認める
  • 2012年:窃盗容疑→関係無し

2011年の売春防止法違反容疑は事実を認めていますが、窃盗容疑は容疑がかかっただけで無関係でした。

二つの事件は物語の後半で描かれており、どういった経緯で犯罪者として捕まったのかがリアルに描かれています。

留置所での会話や取調室の雰囲気など、実は全然重くないのですが、それがかえってリアルです。

主人公の石山とEXIT兼近がかぶる仕掛け

「過去の自分は生きるためなら犯罪を肯定していた」
「いつかは言わなければいけないと思っていたので、むしろありがたかった」

EXITの兼近は、週刊文春の報道に対して正直な気持ちを伝える発言をしており、多くのファンは彼の対応を好意的に受け止めました。

もちろん、彼の真面目な部分やまっすぐなところなど、人柄による部分も多くあるでしょう。

そのため、EXIT兼近は犯罪歴が表沙汰になっても芸能界を生き残ることができています。

『むき出し』が出版されたのは2021年。

小説の読者は思わず兼近のニュースを思い出し、主人公と重ね合わせてしまうという仕掛けになっているわけです。

つまり『むき出し』は、EXIT兼近の自伝的私小説だと読める作品だと言えるでしょう。

とてもキャッチーなテーマであり、商業的にも思えるような内容ですが、実は小説としてとても面白い作品でもあります。

又吉直樹の『火花』を超える「私小説」

  • 兼近はどのように生きてきたのか?
  • 彼はなぜ犯罪をしなければいけない状況だったのか?
  • そもそも彼はどんな人物なのか?

EXIT兼近の犯罪歴を知った多くの人に向けて、『むき出し』は読者が感じる多くの疑問に答えてくれます。

本書の魅力は、なんといっても心に迫るリアルな心情描写です。

決して言い訳ばったものではなく、むしろ感じたことがありのままに、正直に書かれているといった印象。

もちろん小説なので脚色はあると思いますが、「本当のことを言っている感」がとても強く滲み出ていました。

「又吉直樹の『火花』を超える」というのはこの点にあります。

『火花』も私小説に分類されると思いますが、作者の又吉さんが文学好きということもあり、良い意味で「創作物」としてのバランスが取れている作品でした。

『火花』の主人公である徳永は、作者である又吉直樹を彷彿とはさせますが、イコールではありません。

対して『むき出し』の石山は、イコール兼近を感じさせるものであり、EXIT兼近の声として心に届くものがありました。

私小説度(どれほど作品が私小説らしいか)を考えると、『むき出し』はかなり高得点をつける作品でしょう。

私小説度が高いことと、文学的に優れた作品であることは比例しません。

むしろ日本の近代文学や現代文学は、私小説からどれほど離れられるかという試みの歴史でもあり、その時代ごとに違ったアプローチが評価されてきました。

そんななか、『むき出し』は真っ向勝負の私小説で、むしろ清々しささえ感じるほどです。

ちなみにですが、本作では主人公が又吉直樹の本を読んで影響を受ける部分が描かれていたりもします。

SNSやAmazonでも、非常に評価が高い本作。

最近のなかでも読んでみて良かった作品でした。