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ジブリ『ゲド戦記』アレンの剣はなぜ抜けた?理由を解説!

2021年7月28日

『ゲド戦記』アレンの剣はなぜ抜けた?理由を解説!

ジブリ『ゲド戦記』のアレンの剣って、ピカーっと光ってなんか貴重そうな剣ですが、実際はどのような剣なのでしょうか?

ここでは原作を読んだ僕が、『ゲド戦記』の「アレンの剣」について解説していきます。

・アレンの剣=「セリアドの剣」アースシーの世界で二番目に古い剣

アレンが持っているこの剣ですが、実はしっかりとした設定があるんですね。

この剣の名前は「セリアドの剣」といって、『ゲド戦記』の舞台であるアースシーの世界で二番目に古い歴史を持つ剣です(一番古いのはエレス・アクベの剣)。

この剣はどこにも飾られたり、しまわれたりせず、ずっと人の身に付けられていました。にも関わらず、強力な魔法で鍛えられていたので、けっして古びることのない、非常に貴重な剣なんですね。

・なぜアレンが「セリアドの剣」持っているのか?

そんな剣をなぜアレンが持っているのかというと、アレンはセリアドの血を継ぐ、モレド家の皇子だからです。

モレドの王は代々、セリアドの剣を受け継いできたというわけです。映画の冒頭では、国王の父親や宮殿の様子が描かれており、アレンが皇子だということはなんとなく分かるのですが、詳しいアレンの家柄は説明されていないので、原作でしか分からない部分だと思います。

・「セリアドの剣」原作との受け継ぎ方の違い

ちなみに原作では、国王である父親が、旅立つアレンにセリアドの剣を持たせています。その一方で、ジブリ版では、皇子のアレンが国王である父親を殺し、剣を盗んでいくという違いがあります。

つまり、原作では剣が父から子へと継承されているのに対して、ジブリ版では、子が父から剣を強引に奪っており、継承を拒んだ形になっています。こうした設定の違いは、宮崎駿監督の息子である宮崎吾朗監督が、父のジブリを受け継ぐわけではないという表現をしたようにも、個人的には感じられます。

・「セリアドの剣」の法則

いずれにせよ、そんな由緒正しい剣を手にしたアレンですが、この剣にはある法則があるんですね。

それは、「人の命を救うため以外は一度も抜かれたことがなく、また抜くことも出来ない」というものです。人を守るためには使えますが、復讐や欲望によってでは、使いたくても使えない剣というわけです。

・剣が抜けなかったアレン=本心から救いたいと思っていなかった

こうした設定から考えると、序盤のシーンでアレンがテルーを助けるときに剣を抜けなかった理由も分かります。つまりアレンは、「本心から彼女を救いたいとは思っていなかった」ということです。

実際に、クモの手下であるうさぎが「この娘がお前どうなってもいいのか」と脅しても、アレンは「やれよ」と応じる狂気的な態度を見せています。

・剣が抜けたアレン=本当にテルーを救いたいと思った

このシーンと対照的なのが、ラストのクモと対決する場面です。

アレンが柄に手をかけ剣を抜くと、まばゆい光とともに剣身が現れます。セリアドの剣は人の命を救うため以外に抜くことはできないので、アレンはこのとき、本当にテルーを救いたいと思っていたということになります。

こうしたセリアドの剣の設定を知っておけば、剣を抜けなかったアレンから、剣を抜けるようになったアレンへの成長、またテルーに対する思いの移り変わりなどがよく分かるのではないでしょうか。

・セリアドの剣に視点を置いて観るジブリ『ゲド戦記』

このセリアドの剣に視点を置いてジブリ『ゲド戦記』を観ると、アレンと色々な人の関わりもはっきりと見えてくるように思います。

冒頭で剣を強奪してから、ラストで剣を抜くに至るまで。セリアドの剣は敵にけり捨てられたり、ゲドが探してくれたり、テルーが持ってきてくれたりもします。色々な人が剣を通してアレンと関わり、そのおかげもあってアレンは自分を見つめ直していくんですね。

序盤でゲドも言っているように、アレンという名前には、剣という意味があります。ジブリ版『ゲド戦記』は、アレンとセリアドの剣、この二つの剣を軸として、力や命について描かれている物語としても観られるかもしれません。

以上、ジブリ版『ゲド戦記』に出てくる「アレンの剣」について解説しました。剣の設定を知ることで、原作の『ゲド戦記』に興味を持ってもらったり、ジブリ『ゲド戦記』の世界をより楽しんでもらえれば嬉しいです。

アーシュラ・K.ル=グウィン (著)/ 清水 真砂子 (訳)