『火花』とは?
『火花』は又吉直樹さんの芥川賞受賞作です。
お笑い芸人である主人公と先輩の神谷を通して、まっすぐに生きる人間の姿が描かれています。
ここでは、『火花』の考察と感想を書きました。
それではみていきましょう。
-概要-
主人公 | 徳永(後輩) |
物語の 仕掛け人 |
神谷(先輩) |
主な舞台 | 東京 |
時代背景 | 現代 |
作者 | 又吉直樹 |
-考察-
ここでは、
- 物語の設定
- 全体の構成
- 冒頭と結末の仕掛け
の三点をメインに考察していきます。
まずは物語の設定からみていきましょう。
ポイント1 物語の「伝記」設定
『火花』は主人公と神谷の芸人人生が描かれる物語ですが、そのストーリーとは別に、
主人公が先輩・神谷の伝記を書く
という設定があります。以下はその引用です。
「俺のことを近くで見てな、俺の言動を書き残して、俺の伝記を作って欲しいねん」
「伝記ですか?」
「そや、それが書けたら免許皆伝や。」
『火花』は主人公の視点を通してずっと、先輩である神谷のことが描かれています。
主人公の恋人や生活のことにはあまり触れず、神谷の恋人や生活についての内容が物語の大半を占めます。
つまり、『火花』という物語を一歩引いて読むと、
であるという設定が浮かび上がってくるようになっています。
こうした「伝記」の設定も、『火花』の特徴だといえます。
ポイント2 作品全体の構成
次は作品の構成について見ていきます。
この物語は、
- 主人公が熱海で先輩と出会い
- 東京で芸人として生き
- 熱海へ先輩と旅行する
という流れで終わります。つまり、
- 熱海→東京→熱海
という作品構成になっていることが分かります。
これは比較的よく使われる伝統的な構成でしょう。
代表的なのは、昔話の『桃太郎』です。桃太郎の話は、
- 村→鬼ヶ島→村
という構成になっています。
この「A→B→A」という構成は物語が分かりやすく展開するので、読者が受け入れやすいというメリットがあります。
『火花』もそうした構成を踏襲しており、読みやすい物語になっています。
ポイント3 冒頭と結末の音描写
最後のポイントでは、物語のちょっとした仕掛けを見ていきます。
『火花』の冒頭はこのような文章から始まります。
大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。
これは作者である又吉さんも言っていますが、
芸人は出囃子でステージに上がるので、作品の冒頭も、それを連想させる音の描写で始まっている
という物語の仕掛けがあります。
また、『火花』の最後はこのような場面とともに終っていきます。
神谷さんの言葉を無視して、ジャマイカの英雄はエビシンゴノビーオーライと世界に向かって唄い続けている。
これはボブ・マーリーのCDが流れているのですが、冒頭と同じく、
- 音の描写
で物語が終わっていることが分かります。
このように、物語の始まりと終わりを音の描写にすることで、
芸人のステージの「あがり」と「さがり」
を表しており、作品が芸人の物語であることを暗に示す仕掛けになっています。
作者が芸人である又吉直樹さんならではの仕掛けであり、『火花』という作品の特徴ともいえるでしょう。
以上、3つが作品のポイントでした。
見てきたように、『火花』は作品の設定や構成・仕掛けなどに工夫が凝らされていました。
そうした細分まで面白い作品です。
-『火花』の感想-
僕が『火花』を読んで面白いと感じたことは3つあります。
- 随所に見られるユーモア
- 芸人を通した人間についての省察
- 主人公の内面の描き方
これらについて、ひとつずつは言いませんが、いずれも又吉直樹さんの感受性に触れられる部分です。
また、先輩・神谷の彼女とのやりとりや、主人公たちの最後の漫才など、内容的にみどころのある場面もたくさんあります。
読んでいてクスッと笑ってしまうこともしばしばですし、いい言葉や文章もたくさんあります。
ちなみに、ポイント3の解説で引用した、
は、「すべてうまくいく」という意味です。
主人公は芸人として一度敗北してしまいますが、それでも人生は続いていきます。
生きている限りバッドエンドはない。
最後に主人公が述べる言葉には強度があります。
と同時に、そうであって欲しいという願いのようにも響きます。
以上、『火花』のあらすじと考察と感想でした。
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