芥川龍之介

芥川龍之介『芋粥』あらすじ解説&感想!五位を通して考える人間悪のテーマ!

2019年8月20日

『芋粥』とは?

『芋粥』は芥川龍之介の初期の短編小説です。「芋粥」をたらふく食べることが夢である主人公の話で、今昔物語集の話を元にして作られました。

原話は教訓的な話ですが、『芋粥』は芥川流の人間悪を全面に出した作品となっています。

ここではそんな『芋粥』のあらすじ・解説・感想までをまとめました。

-あらすじ-

平安時代に五位(ごい)という位の低い侍がいました。

彼は意気地のない人間で、同僚や子どもまでが彼を馬鹿にし、軽蔑しています。

しかしそんな彼にも夢があります。それは芋粥をたらふく食ってみたいという夢です。芋粥は当時のごちそうでした。

そんな中、五位の夢を聞きつけた藤原利仁という将軍が「わしがたらふく食わしてやろう」と言い、五位を屋敷につれていきます。

屋敷へ着き歓待を受ける五位ですが、いざ芋粥を出されるとなぜか食欲が出ません。

結局はほとんど飲むことができずに「もう結構です」と言い、器を下げてもらい物語は終わります。

・-概要-

主人公 藤原基経に仕える五位
物語の仕掛け人 藤原利仁
主な舞台 都(京都)・越前の敦賀(福井県)
時代背景 平安時代(885年前後)
作者 芥川龍之介

-解説(考察)-

・意地悪な登場人物たち

この物語の登場人物はざっと以下の人たちです。

  • 五位―――主人公。意気地が無くいつも周りから馬鹿にされています。
  • 同僚―――五位の盃にこっそり尿を入れるなどの悪質ないたずらに加えて、いつも五位を嘲弄しています。
  • 子ども――犬をいじめているところを五位に注意されますが、五位の意気地のなさを見抜くと暴言を吐いて攻撃します。
  • 利仁―――異常なほど五位をもてなしますが、その裏にはいつも嘲笑が隠れています。
  • 無位の侍―ただひとり五位をひそかに敬っている人物。

『芋粥』では五位以外の人間の悪さが目立ちます。無為の侍はただひとりだけ五位を陰で敬っている人物ですが、それ以外は全て五位を馬鹿にしています。

また、途中にはキツネも出てきます。キツネはずる賢さや偽りを象徴する動物なので、この物語にネガティブな印象を持って登場していると言えるでしょう。

もし『芋粥』が愉快な物語で、利仁の家で素敵な出来事が起こるのであれば、山で出くわすのはキツネではなく白馬や鹿のほうが適切ですね。

・「人間悪」という『芋粥』のテーマ

この作品のテーマはよく、「願いは叶ってしまうと案外むなしい」ということだと言われます。

たしかにこのテーマは芥川の『鼻』という作品でも取り上げられており、似たような図式になっています。

しかし『芋粥』が『鼻』と決定的に違うのは、『鼻』の禅智内供が自分の意思で願いを叶えようとしたのに対して、『芋粥』の五位は他人の意思で願いを叶えられてしまったという点です。

『鼻』―――禅智内供は長い鼻が短くなるように願う。自分で色々な方法を試し、ついに鼻が短くなるが、長い鼻の方がなんだか良かったなと思う。

『芋粥』――五位は芋粥を食べたいと願う。それを聞きつけた将軍・利仁が強引に屋敷へ連れて行き、無理に芋粥を食べさせる。五位は食べなかった方がなんだか幸せだったなと思う。

こうしてみると、将軍・利仁が悪いように見えますね。

実際に利仁は悪い性格で、五位の「芋粥がたらふく食いたい」という夢を聞くと嘲笑いながら五位に近づきます。

そしてわざわざ皆の前で「おれが食わせてやろう」と言うのです。そのときの五位のは計り知れません。

また五位の食べる芋粥を作るために山の芋を二三千本も用意します。とても食べきれる量ではありません。自然と利仁の嫌がらせではないかという疑念がよぎります。

これらのことから『芋粥』には「願いは叶ってしまうと案外むなしい」というよりも、人をからかい他人の夢を弄ぶ「人間悪」というテーマが浮かび上がってきます。

そうした観点で読めば、夢を叶えさせられた五位と、人の夢を奪った利仁という構図が『芋粥』には見えてくるのです。

-感想-

・五位が「失う」物語

『芋粥』を読むと、五位が全てを失っていく物語であることが分かります。

五、六年前に女房を失い、若さも失い、そのうえ唯一の楽しみであった年に一度の芋粥を食べる幸せさえも失います。

五位が生きていく理由は物語が終わるとともに無くなってしまうのです。

僕はこれを読んで、五位がこうなったのは全く利仁のせいだと思いました。利仁のおせっかいで五位は生きる意味まで失ったからです。

こうしてみると利仁は五位を殺したも同然です。もし利仁が善意で五位をもてなしたのだとしても、それは無意識の悪ということになるでしょう。

とはいえこうした悪を描き出している一方で、食べたいと願っていた芋粥が目の前に出てきたときに食べられなくなる五位の物語にはユーモアがあります。

もとが今昔物語集の話ということもあり、筋がしっかりしているので読んでいてとても面白い作品でした。

また、ユーモアといえば、『鼻』も芥川らしいユーモアが出ている作品です。

『芋粥』が面白かったという人は気に入ると思うので、ぜひ読んでみて下さい。

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以上、『芋粥』のあらすじと考察と感想でした。

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