『余った傘はありません』の紹介
『余った傘はありません』は、鳥居みゆきさんの小説です。
ひとことで言えば、不条理群像劇と呼べるでしょう。
時系列や人間関係の整合性がなく、繋がっているようで繋がっていないようで繋がっている作品です。
ここでは、そんな『余った傘はありません』のあらすじ&解説をまとめました。
『余った傘はありません』あらすじ
四月一日。柏木よしえは死期が近く、病院のベットで横になっていました。
双子の妹ときえや、孫のみっちゃん、義理の娘である早苗などが周りにいます。
よしえは妹のときえを呼び、昔の事を思い出し始めるのでした。
彼女の人生が明かされていく中で、関わってきた人物たちのことも語られる群像劇。
物語は四月二日に幕を閉じます。
『余った傘はありません』解説
四月一日という設定
この小説を普通に読むと、人物関係や時系列がかなりカオスなのでワケが分からなくなってきます。
そこで注目したいのが、四月一日という設定です。
チューブは全部ほどけた。
ありがとう、道化師はやっと、人間になれます。
今日は四月一日
私たちのうまれた日鳥居みゆき『余った傘はありません』15ページ
四月一日はエイプリールフールとして有名で、習慣的には「嘘を付いても良い日」になっています。
物語は四月一日と四月二日の二日間で構成されていて、その間に様々な過去を思い出す形をとります。
目次
- 四月一日
- かくれんぼ
- おそろい
- カルテ
- ←ラブレター
- 治療
- 乾杯
- うちのハンバグー
- クレーム
- チェックメイト
- 手伝い
- 老婆の休日
- お弁当
- 濡れた未亡人
- 四月二日
- 満ちる
- みいつけた
- 道化
全部で18の章からなる『余った傘はありません』ですが、大きくは「四月一日」と「四月二日」で前編後編に分けられます。
四月一日をエイプリールフールだと考えるならば、「四月一日」から「濡れた未亡人」までの内容は嘘が混じっていると考えても良さそうです。
逆にいうと、「四月二日」から「道化」までの4章は本当のことが書かれてあると考えることで、嘘ではない事実が浮かび上がってきます。
『余った傘はありません』の事実
何が本当で何が嘘か分からない『余った傘はありません』ですが、事実だと考えられる出来事は以下の通りです。
- 入院している女性には娘(早苗)がいる
- 入院している女性には孫(ミチル)がいる
- ミチルは中学生で妊娠した
- 早苗の夫(ミチルの父親)は交通事故で亡くなっている
- チェスたくやはホスピタル・クラウンとして働いている
小説はこれ以外にたくさんの出来事があります。
しかし、整合性がつかないことが多いので、どれが本当であるかを見極めるのはとても難しいです。
おそらくですが、この辺りの「嘘か誠か問題」は、芥川龍之介の小説『藪の中』を下敷きにしていると考えられます。
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ちなみに、会話文をよく読むと分かりますが、物語には一つだけ明らかな大嘘があります。
ここではネタバレになるので書きませんが、その大嘘が物語の大きな嘘ポイントであり、何が本当で何が嘘かを解く鍵になるでしょう。
『余った傘はありません』の意味は「代替可能な存在の肯定」
この物語の主人公は二人います。
双子の姉であるよしえと、妹のときえです。
姉のよしえはなんでもできて、男子に告白されるのはいつも姉。頭も良いし運動神経も抜群です。
対して妹のときえは頭も悪く運動神経も良くなく、陰気な性格です。
見た目はほとんど一緒なのに、中身が違うことでいつも比較され、妹は劣等感を抱いています。
言うなれば、余った傘なわけです。
傘はどれもほとんど同じなのに、いつも一本決まったものが選ばれます。
とはいえ、壊れたときや無くした時のために、数本持っている人も少なくない。それが「余った傘」。
タイトルは『余った傘はありません』となっているので、そんな代替可能な存在を肯定する意味になっているようにも読み取れます。
この言葉自体は、物語の終盤に出てきます。
鳥居みゆきさんの力量
僕は趣味でお笑い芸人さんの小説やエッセイを片っ端から読んでいますが、鳥居みゆきさんの小説は明らかに一味違いました。
物語の筋が無く、猟奇的で、カオスで、それでいて退屈ではないというのは、ひとえに鳥居さんの才能でしょう。
何が本当で何が嘘かなんてことは、まあどっちだっていいことです。
嘘も本当も意味不明も、全てそのまま受け入れて楽しむ、そんな作品だと思います。
以上、『余った傘はありません』のあらすじ&解説でした。