海外文学

『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』どのあたりが「ミレニアム世代」なのか?感想とあらすじ!

2021年9月22日

『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』のあらすじ・内容

21歳のフランシスは、かつての恋人で同性のボビーと詩人活動をしていた。

彼女たちの活動を取材したいと、メリッサという有名な女性文筆家がやってきて、二人は取材を受ける。

パーティーやディナーなどで交際を重ねるうち、メリッサの夫・ニックと出会う。

彼はユーモアと知性を持ち合わせた富裕層で、職業は俳優だった。

フランシスは彼に出会うたびに惹かれていって、二人は関係を持ち始める。

ミレニアム世代の代弁者と評される作者がおくる、新しい愛のカタチを模索した現代文学。

・『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』の概要

物語の中心人物 フランシス(21歳)
物語の
仕掛け人
ボビー、ニック
主な舞台 ダブリン(アイルランド)
時代背景 現代
作者 サリー・ルーニー

『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』の感想

著者のサリー・ルーニーは、2017年に本書を出版し、世界的センセーションを巻き起こしました。

彼女は「ミレニアム世代の代弁者」と呼ばれ、現代人の気持ちを反映する小説であると評価されたようです。

僕は1994年生まれなので、「ミレニアム世代(1980年~1995年生まれの世代)」に該当していて、本書の売り文句を見て興味が湧いたんですね。

どのあたりが「ミレニアム世代」なのか?

それで、どのあたりが「ミレニアム世代」を反映しているのかということですが、読んでみた感想としては以下のところかなという印象です。

  • 主人公の人間性
  • 結婚に対する意識
  • 男女関係の多様化

これらはすべて物語のテーマでもあるので、全体的に「ミレニアム世代」的な雰囲気が漂っている小説になっています。

フランシスみたいな人いる!

フランシスはこの物語の主人公。

「こんな感じで世界と向き合っている人、僕らの世代にいるよなぁ」と思ってしまう人物です。

たとえばこのあたりなど。ボビーとのチャットシーンで、「私」がフランシスです。

ボビー:ほらあんたは自分の感情について本当のところを話さないじゃない
私:君はその考えに固執しているよね
私:私には打ち明けていない内面的な感情があるって
私:こっちは感情的じゃないってだけなのに
私:私がそういうのについて話さないのは話すことが何もないからなんだよ
ボビー:「非感情的」なんてものが人間の性質にあるとは信じないね
ボビー:そんなの思考がないって言っているようなものじゃない
私:君は自分が感情の起伏の激しい人生をおくっているから他の人もそうだと思い込んでる
私:それと話さないからって何かを隠しているとは限らない
ボビー:もういい、分かったよ
ボビー:この件については意見の相違があるって

サリー・ルーニー『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』早川書房

思わず笑ってしまったんですが、僕はこれとほとんど同じ会話をしたことがあります(僕はボビー側)。

ほかにも、フランシスの価値観が描かれていくたびに共感できる部分があったので、主人公の人間性には「ミレニアム世代」を感じます。

関係を維持するための制度

それから、結婚についての意識も似通っているところはあります。

結婚については、ボビーがこんなことを言っています。

どうして結婚なんてするんだろう?ボビーは言う。縁起でもないよ。どうして自分たちの関係を維持するのに国家機関を頼ったりするんだろう?

サリー・ルーニー『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』早川書房

彼女は無政府主義者なので国家機関を持ち出していますが、気持ちとしては分かります。

特定の相手との関係を何かで規定したくないという気持ち。

その枠組みのなかにはめ込んでしまうと、自分たちではコントロールできない力が働いてしまって、どこか狭苦しい感じがします。

でも社会は結婚という証明された関係を望んでいて、僕らの世代はまだその要求に応えながら生きていかなければいけません。

実際に直面した「結婚」の壁

こんなことがありました。

交際相手の親類の結婚式に呼ばれたとき、ある人に「君はまだ結婚していないから」と集合写真を断られたんですね。

「結婚していない」ということで「親戚関係にはない」。つまり親戚の集合写真には入れられないというわけです。

僕は交際相手と高校生から付き合っていて、結婚した当人たちよりも交際期間はずっと長いんですが、紙切れ一枚を提出するかしないかで、現実的に超えられない壁ができることもあるということです。

そうした僕ら世代の生き方と社会の要求の狭間で、新たな男女関係を模索していこうとする姿が、『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』では描かれています。

サリー ルーニー (著)/山崎 まどか (訳)

ミレニアム世代の代弁者

実のところ、僕らの世代の代弁者と言われても、あまり信じていなかったというか、そこに対する期待値はそれほど高くなかったんですね。笑

でも読んでみると意外と共感できるところが多くて、最後のほうはどんどんページをめくっていました。

主人公がアイルランド最高峰の大学在学中なので、作中では誰かと議論をする場面がたくさんあります。

というか、議論してるか恋愛してるか内省してるかのどれかなんですが、そうしたリベラルな雰囲気の内容も、知的な学生らしさが出ていて面白かったです。

現代文学でこんなにも身近に感じられるものは久しぶりだったので、とても楽しめた一冊ですね。

『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』の登場人物

○フランシス

21歳の女性。トリニティ・カレッジに在学中。友人のボビーと一緒に詩人としても活動しています。

内省的で情緒不安定ですが、理性的であろうと常に努めています。

バイセクシュアルで、同性のボビーや俳優のニックと交際します。

○ボビー

21歳の女性。フランシスとは高校時代からの付き合いで、交際していたこともあります。

モデルのような美しさを持っていて、性格は明るく、純粋な意味で知的かつリベラルな人です。

裕福な家庭に生まれながら、ブルジョアジーを否定している無政府主義者でもあります。

○メリッサ

文筆家で30代前半の女性。フランシスとボビーの詩人活動に興味を持ち、取材をします。

夫は俳優のニック。二人の関係は良いものとはいえません。

○ニック

俳優で32歳の男性。誰もが認める美貌の持ち主です。

クールでユーモアもある彼は、知的な女性が好みで、フランシスと関係を持つことになります。

実家がお金持ちなので、生活はかなり優雅です。

『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』を読んで分かること

  • 現代のリベラルな若者世代の内面や恋愛模様
  • 愛し合う者どうしの関係を、既存の概念以外から捉え直そうとするテーマ

・物語のキーワード

大学生・詩人・恋愛・反資本主義・LGBT+・自傷・不安・浮気・愛

この記事で紹介した本
サリー ルーニー (著)/山崎 まどか (訳)