ミルチャ・カルタレスク『ノスタルジア』あらすじ&感想!お約束も構成も破壊してゆくポストモダン小説

『ノスタルジア』のあらすじ・内容

プロローグ:ルーレット士

ルーレット士がいた。

彼は驚異的な運の悪さの持主だが、命をかけたロシアンルーレットに挑む。

メンデビル

ぼくらが少年だった頃、メンデビルと呼んでいた転入生がいた。

彼はどこか大人びていて、彼のカリスマ的なところにぼくは惹かれていた。

しかしあるときから、メンデビルの様子がおかしくなり始めた。

双子座

ジーナという娘に恋をしていた。

二人の仲は決定的なところまでは辿り着かないが、ある日、扉の向こう側へ行ってみる。

REM

スヴェトラーナの子ども時代、彼女はREMを見つけた。

7人の女の子たちと遊んでいるときだった。

エピローグ:建築士

有名な建築士がいた。

彼は妻とダチアを買った。扉を閉めて、シートに座るだけで幸せだった。

しかしあるとき、止めようもなくクラクションが鳴り続ける。

・『ノスタルジア』の概要

物語の中心人物 少年・少女・あるいは紳士・淑女
物語の
仕掛け人
語り手
主な舞台 ルーマニア
時代背景 近現代
作者 ミルチャ・カルタレスク

『ノスタルジア』の感想

ポストモダン的に「お約束」を破壊していく

ミルチャ・カルタレスクの『ノスタルジア』は、ひとことでまとめるなら「ポストモダン的」。

5つの章からなる本書は、それぞれ物語上の繋がりはなく、かと思えば、ぼんやりと繋がっている。

突拍子のないことが起こりますが、登場人物たちは平然と小説を推し進めます。

矛盾性を孕みながら、それを楽しませてくれる。

あきらかな物語批判の小説です。

「構成」も破壊する

たとえば「REM」で、スヴェトラーナという女性が、少女時代の話を始めようとしたとき。

語り手は、彼女をアラビア物語のシェヘラザードと形容します。

そうしてきみ、いとしのシェヘラザードは素晴らしい話を始める。

ミルチャ・カルタレスク『ノスタルジア』住谷春也訳,作品社

これから『ノスタルジア』が物語上の額縁構成に入ることを読者に意識させているわけですが、「REM」の終盤で、この額縁は内側から突き破られることになります。

どうやって?というところは具体的に書きませんが(というか読まないと分からないのですが)、構成を逆手に取った物語批判になっています。

こうした現代小説的なところがとても面白かったです。

ほかにも、作者や語り手、読者や作中人物をメタって遊んだりしています。

親愛なる読者よ、私をお忘れかな?私です、語り手だ。

ミルチャ・カルタレスク『ノスタルジア』住谷春也訳,作品社

なんか語り手出てきたw

って感じになるところとか、大好きでした。

それでいて筆力がすごいので、読ませられるんですよね。

それぞれのノスタルジア

  • プロローグ:ルーレット士
  • メンデビル
  • 双子座
  • REM
  • エピローグ:建築士

この5章に物語的な脈絡はほとんどありませんが、共通点もあります。

それは、

  • それぞれの人生での象徴的で濃密な瞬間が描かれている

ということです。

かたちこそ違いますが、それぞれの人生で最高に濃密な出来事が描かれています。

それぞれのノスタルジア、と言い換えることができるかもしれません。

どの章がどのような「ノスタルジア」なのかは、読んでみると体感できます。

ゴシック調の退廃的な美しさ

それから、各章の場面は非常に視覚的で、それぞれが絵画で描かれているような、芸術的な美しさがあります。

モノクロームで退廃的だったり、ロマン的だったり、ゴシック的だったりするのですが、どの場面も脳裏に焼き付きます。
「双子座」や「建築士」はグロテスク&シュールレアリスム的なところもありました。

このような芸術的要素、構成の破壊という構成、人生における充足的な瞬間。

これらが創造主によってパイのように織り込まれ、重層化し、最後のエピローグで宇宙の彼方まで弾けてゆく。

未来のノスタルジアが漂うラストは圧巻。今年読んだ現代小説では一番面白かったです。

ノーベル賞受賞もささやかれるミルチャ・カルタレスクの代表作。ぜひ読んでみて下さい。

『ノスタルジア』を読んで分かること

  • ポストモダン的な物語批判・形式の破壊

・物語のキーワード

ノスタルジック・ゴシック・愛・禁忌・裸・思い出・性・孤独・欲求・グロテスク・骸骨・洞窟・音楽・創造

この記事で紹介した本
ミルチャ・カルタレスク (著)/住谷春也 (訳)/高野史緒 (解説)