『アポカリプス・ベイビー』あらすじ&感想!「レズビアン×階級問題×宗教問題」の物語

『アポカリプス・ベイビー』のあらすじ・内容

素行調査会社に勤めているルーシーは、ヴィランティーヌという15歳の少女の調査担当。

しかし、調査開始から2週間経ったあるとき、ヴィランティーヌはふっと姿を消してしまいます。

彼女の行方を追うべく、パリの情報&裏社会に精通する通称「ハイエナ」とコンビを組むことに。

ヴィランティーヌを追っていくごとに明らかになる、少年少女たちの実態、腐敗したフランス社会。

極左、極右、警察組織、移民、テロ、暴力、セックス。

現代フランスの抱える問題が、一人の少女とその家族を探っていくことで鮮やかに描き出されます。

フェミニズムのエッセイで世界的にベストセラーとなった『キングコング・セオリー』著者による、フランスで20万部突破の現代小説。

・『アポカリプス・ベイビー』の概要

物語の中心人物 ルーシー(30代)、ハイエナ(30代)
物語の
仕掛け人
ヴァランティーヌ・ガルタン(15歳)
主な舞台 パリ→バルセロナ→パリ
時代背景 現代
作者 ヴィルジニ・デパント

『アポカリプス・ベイビー』の感想

「アポカリプス」とは?

アポカリプスとは、

『ヨハネの黙示録』の冒頭「Ἀποκάλυψις Ἰησοῦ Χριστοῦ」の「Ἀποκάλυψις(アポカリプス)」

から来ていて、黙示という意味です。

ちなみに『ヨハネの黙示録』の内容はこんな感じ▽

  1. 世界を滅ぼす災いが降りかかって人類全滅
  2. キリストが現れ、神を信じていた人だけがよみがえる
  3. 人々は1000年間王国で生きるが、サタンがまた来て世界を滅ぼす
  4. このときに『命の書』に名前がある人だけが天国に行ける

こうした内容から転じて「アポカリプス」は、

世界の大惨事・世界の終わり

という意味でも使われる言葉です。

本書『アポカリプス・ベイビー』は、こうした黙示録的な惨事が起こることを匂わせるタイトルになっています。

「ベイビー」のほうも、ラストで意味が分かります

ラストシーンは、現代フランス小説だとわりと定番というか、よくある出来事です。(それだけにフランス人にとって衝撃的だということがわかる)

ただ、本書には「ベイビー」の側面があるので、この作家にしか書けないような象徴性を孕むような描かれ方になっています。

デパントの過去作『バカなヤツらは皆殺し』のラストは、彼女の心の真っ直ぐな部分が出て丸く収まってしまったような印象でしたが、今作はギリギリまで「読者の期待するデパントらしさ」が出ていたように思います。

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視点別に物語が進む構成

『アポカリプス・ベイビー』は、さまざまな登場人物の視点から物語が語られることで、立体的な小説世界が描かれていきます。

物語のプロットはこんな感じです▽

  1. 素行調査員ルーシーが、ヴァランティーヌの保護者に依頼されて、彼女の日常を監視する
  2. ある日ヴァランティーヌが失踪する
  3. ルーシーと相棒(ハイエナ)がヴァランティーヌを探す
  4. 様々な登場人物の視点から、ヴァランティーヌが失踪した理由が明かされていく
  5. 待ち受ける衝撃のラスト

この4の部分で、色々な人物の視点が入ります。

基本的には素行調査員のルーシーを軸に、ヴァランティーヌの身辺にいた人物が描かれていくかたちです。

ヴァランティーヌの身辺人物

  • フランソワ(父親)視点
  • ヴァネッサ(実母)視点
  • クレール(継母)視点
  • エリザベス(シスター)視点
  • ハイエナ(探偵)視点

そして最後はヴァランティーヌ本人の視点も描かれます。

始めのほうは登場人物が多くて、正直少し戸惑いました。笑

あらかじめ、色々な人物の視点から物語が構成だということを知っていれば、ずいぶんと読みやすいと思います。

レズビアン×階級闘争×宗教問題

作者が、フェミニズムのベストセラーエッセイ『キングコング・セオリー』の著者ということで、本書に関心を向けた人も多いでしょう。

フェミニズムの小説としては、『バカなヤツらは皆殺し』の方が訴求力が強かったように思いますが、『アポカリプス・ベイビー』ではレズビアンの関係性が描かれており、女性特有の問題を扱うという点は引き継がれています。

主人公ルーシーをサポートするハイエナという女性がレズビアンで、おもに彼女の女性関係が描かれます。

ハイエナによれば、普通の性的嗜好の女性は35歳が賞味期限なのだそう。

「それに、あんた三十五過ぎたでしょ。ヘテロの場合、それ賞味期限だよ」
「レズビアンはもちろん、もっとマシなわけ?」
「ほかのことと同様にね。そもそも年取ったビアンは輝いてるよ。肌は艶々で若々しく、腐った人生に痛めつけられていない。わたしらにとって三十五なんて始まりですらなく、序章のようなもの。最高潮は五十代になるころだ」

ヴィルジニ・デパント『アポカリプス・ベイビー』早川書房,p187

ほかにも、「ヘテロ愛は帯電線の囲いに放たれた牛と同じくらいノーマル」と言ったり、レズビアンの良さを滔々と語ります。

階級問題と宗教問題

性問題は作者デパントの得意分野。

本書の面白さは、そこに、

「階級闘争(ブルジョアVS労働者)」と「宗教問題(キリスト教VSイスラム教)」

というテーマを組み合わせているところでしょう。

ちなみに、失踪するヴァランティーヌはブルジョアの家庭で、裕福な暮らしをしています。

しかし、彼女が関わる友人たちは貧困層が多く、ヴァランティーヌはいつもどこかで疎外感を覚えているんですね。

日本でいうと、太宰治の『斜陽』のや『人間失格』の左翼活動の場面などに、似たような感情が描かれています。

さらに、終盤では宗教の問題も絡んできます。

あまり詳しくは書けませんが、起こった出来事だけで判断する危うさが、宗教絡みのラストでは描かれています。

このように『アポカリプス・ベイビー』は、性の問題を軸に、物語に政治的&宗教的な要素を入れて、小説世界を拡大しています。

『バカなヤツらは皆殺し』は性の問題を掘り下げながら、「愛の喪失」というテーマに迫っていく物語でした。

今作でも「愛の喪失」というテーマは継続されているものの、性の問題だけでなく、政治や宗教の観点からも物語が描かれている点に面白さを感じます。

現代フランスの抱える問題がよく見える小説でした。本国でベストセラーになっているのもうなずけます。

以上、『アポカリプス・ベイビー』のあらすじ&感想でした。

ヴィルジニー・デパント (著)/齋藤 可津子 (訳)

『アポカリプス・ベイビー』の登場人物

○ルーシー

調査会社に勤める30代の女性。

調査対象だった15歳の少女ヴァランティーヌが失踪し、パリ中を探し出すことになる。

○ハイエナ

裏社会の情報通で、凄腕の女性探偵。キレると「ホラー映画を地で行く」ような顔になる。

財界人・芸能人・政府高官にいたるまで、あらゆる人の情報を握り、尊敬されると同時に恐れられている。

○ヴァランティーヌ・ガルタン

15歳の少女。ある日突然失踪し、行方が分からなくなる。

○フランソワ・ガルタン

ヴァランティーヌの父親。職業は作家。

女性に目がなく浮気性で、娘とはあまり関わっていない。

○ヴァネッサ

ヴァランティーヌの実母。フランソワを捨てて金持ちと結婚する。

○クレール

フランソワがヴァネッサの次に結婚した妻。ヴァランティーヌとの仲はよくない。

『アポカリプス・ベイビー』を読んで分かること

  • 少年少女を通して見る現代フランスの諸問題

・物語のキーワード

ティーンエイジャー・レズビアン・極左・マルクス主義・資本主義・貧困・ブルジョア・セックス・テロ・警察組織・諜報機関・宗教問題

この記事で紹介した本
ヴィルジニー・デパント (著)/齋藤 可津子 (訳)