『どんぐりと山猫』とは?
『どんぐりと山猫』は、宮沢賢治の初期作品です。
黄金色のどんぐりたちと山猫の裁判を通して、おかしな出来事が繰り広げられます。
ここではそんな『どんぐりと山猫』のあらすじ・解説・感想をまとめました。
-あらすじ-
ある秋の土曜日、主人公・かねた一郎のもとに、山猫からおかしな手紙が届きました。
手紙には「裁判をするから来てくれ」と書いてあったので、次の日一郎は山を登って山猫のもとへ向かいます。
山の深く、黄金色の草地が広がっている場所で山猫に会うと、そこへどんぐりたちがたくさんやってきます。
どんぐりたちは、この中で誰が一番偉いかを山猫に裁判で決めてもらおうとしているのです。
山猫が困っていたので一郎は山猫に助言をして、裁判は無事に解決します。
山猫は喜び、「名誉判事になってこれからも来てもらいたい」と言い、一郎はそれを快諾します。
それから山猫は、「手紙の言葉は”明日出頭すべし”でいいか」と尋ねますが、一郎は少し変だと思ってので、それだけは断ります。
山猫はお礼に黄金色のどんぐりを一升わたし、一郎を馬車で送り届けます。
家に近づくごとに、どんぐりは黄金色の輝きを失っていき、家に着いたときには普通の茶色に戻っていました。
そうして気がつくと、山猫の姿も馬車の姿も見えなくなっていました。
それから山猫からの手紙は来ませんでした。やっぱり、出頭すべしと書いてもいいと言えばよかったと、一郎はときどき思うのです。
・『どんぐりと山猫』の概要
主人公 | かねた一郎 |
物語の 仕掛け人 |
山猫 |
主な舞台 | 家→山の中→家 |
季節 | 秋 |
作者 | 宮澤賢治 |
-解説(考察)-
ここでは、『どんぐりと山猫』の
- 色彩描写・黄金色の役割とは?
- 山猫はなぜ「明日出頭すべし」を提案したのか?
について解説と考察をしていきます。
物語がどう描かれているかを知りたい方は解説1を、内容についての考察が知りたい方は解説2だけを読んでもらっても結構です。
・解説1 黄金色の役割とは?
まずは、物語の描写のポイントを解説します。
『どんぐりと山猫』で特徴的なのは、山奥にある黄金色の風景です。
どんぐりたちも黄金色なので、物語の見せ場は輝きで満ちています。
しかし、この見せ場(黄金色)にたどり着くために、物語の色彩は様々に変化しています。
以下が物語で描かれる色の順番です。
- 栗の木が落とす実の茶色
- 笛ふきの滝の水色と岩肌の白色
- 楽隊をしているキノコの白色
- りすとクルミの木の緑色
- かやの木と暗い道の黒色
- ぱっとひらけた草地の黄金色
この5の場面から6の場面への色彩の移り変わりは見事で、
というふうに、黄金色が際立つように工夫されています。
ちなみに一郎は黄金色のどんぐりをもらって帰りますが、このどんぐりは家に帰ると元の茶色にもどります。
ですのでこの黄金色は、
- 特別な場所を表す記号としての役割
もあるといえるのです。
このように見ると、宮沢賢治は『どんぐりと山猫』で黄金色という色彩を用いて、物語に特別な幻想性と神秘性を加えていることが分かります。
また、
- 栗の実
- きのこ
- りす
など、秋を感じさせるキャラクターがぬかりなく散りばめられていることも、作品の雰囲気を高めることに繋がっています。
・解説2 山猫はなぜ「明日出頭すべし」を提案したのか?
次は物語の内容を考察していきます。
物語の終盤、山猫は一郎におかしな提案をします。
「それから、はがきの文句ですが、これからは、用事これありに付き、明日出頭すべしと書いてどうでしょう。」
つまり、名誉判事となった一郎を次回招待するときに、「明日出頭すべし」と手紙に書いていいかという提案です。
一郎はその提案を、
「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方がいいでしょう。」
と断ります。
そうした返事に、山猫は「いかにも残念だ」という様子を見せています。
なぜ山猫は、このような手紙の文言にしようと思ったのでしょうか?
僕はこれを、
- 山猫が一郎を利用したかったから
だと考えています。
「明日出頭すべし」というのは、上から目線の命令口調です。
そんな少し高圧的な文章を、一郎は受け入れることが出来ませんでした。利用する・利用されるという関係をきらったともいえます。
もし彼が、山猫の提案に「いいよ」と答えていたらどうなったのでしょうか?
おそらく彼は、第二の馬車別当になっていたと思います。
馬車別当は山猫の子分で、下手な文章の手紙を書いた彼です。
身なりはぼろぼろで、山猫の吸うたばこを欲しいと思いつつも涙を流して我慢し、山猫の指図通りに動きます。
つまり彼は、山猫に利用される立場なのです。
ですので、一郎がもし山猫の「明日出頭すべし」を受け入れていたら、
- 彼も馬車別当と同じく利用される人間になっていたのではないか
というのが僕の考えです。
これは想像ですが、馬車別当は一郎と同じように、子どもの頃に山猫にそそのかされました。
そして彼は山猫のもとへ行き、次第に上下関係をつくられ、以来ずっと馬車別当として仕えているのではないかと思います。
彼が文字を書けないことはまだしも、性格にどこか幼さが残っている理由はそうした点にあるのかもしれないと考えます。
主人公の一郎は物語の最後に、
やっぱり、出頭すべしと書いてもいいと言えばよかった
と思いますが、僕は彼の判断が間違っていたとは思えません。
たしかに黄金色の原っぱは素敵な場所でしたが、それは彼が客人として行ったからだったのではないでしょうか。
-感想-
・おかしな出来事
『どんぐりと山猫』を読んだことない人に、この物語を紹介するとしたら、
と僕は言います。
黄金色のちっちゃいどんぐりが、赤いパンツをはいてるんです。かわいいですよね。
彼らは誰が一番偉いかを張り合っていて、
「一番背の高い人が偉いから、背の高い僕が偉いんだー!」
とか、
「大きいのが偉いんだー!」
とか、口々に叫んでいます。まさにどんぐりの背くらべ。
こんな様子を宮沢賢治は多少風刺的に描いているのですが、まあそんなことはあまり考えなくてよいでしょう。
この愛すべきどんぐりたちと、ちょっとおかしな山猫。森の様子、黄金色の風景。
そんなのがこの物語の魅力だと思います。
もし読んでなかったら読んでみて下さい。黄金色にきらきらしている小説です。
以上、『どんぐりと山猫』のあらすじ・考察・感想でした。
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