宮澤賢治

宮沢賢治『よだかの星』あらすじ・考察&感想!よだかが星になった理由も解釈&解説!

2019年9月29日

『よだかの星』とは?

『よだかの星』は、宮沢賢治の初期に書かれた短編です。

姿が醜いせいで周りから嫌われていた「よだか」という鳥が主人公になっています。

童話の形をとっていますが、権力についてや食物連鎖など、宮沢賢治が抱えていた問題も描かれています。

ここではそんな『よだかの星』のあらすじ・解説・感想までをまとめました。

-あらすじ-

主人公のよだかは醜い鳥なので、ほかの鳥から嫌われています。

強い鷹などは「俺の名前を勝手に使うな、名前を返せ!」と言うほどです。

よだかは自分の運命を悲しく思い、遠くへ行こうと思います。

ぐんぐんと空に向かって飛び、羽が凍り付くほど高くまで来たとき、よだかは力尽きます。

気がつくと、よだかは自分のからだが青く美しい光になって、静かに燃えているのを見ました。

そしてよだかの星は燃え続けました。今でもまだ燃えています。

・『よだかの星』の概要

主人公 よだか(鳥)
物語の
仕掛け人
主な舞台
作者 宮沢賢治

-解説(考察)-

・赤と青の対比

『よだかの星』で特徴的なのは、

  • 赤い山焼けの火

と、

  • 青白い星々の光

という赤と青の色の対比です。

作中で、赤い山焼けの火は「恐怖」を表していると考えられます。

その赤い火は鷹が登場した直後から描かれ、全部で五回の描写があります。

  1. 向うの山には山焼けの火がまっ赤です。
  2. 東の方だけ山やけの火が赤くうつって、ろしいようです。
  3. 山焼けの火は、だんだん水のように流れてひろがり、雲も赤く燃えているようです。
  4. 今夜も山やけの火はまっかです。
  5. もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません。

こうしてみると、2~3が炎のピークで、5に向かうにつれて勢いが収束していくことが分かります。

この2~3の場面は、

  • よだかが鷹に殺されることを考えると同時に、自分も虫を殺して食べていることに気がつく場面

で、生命の奪い合いに対する恐怖が読み取れます。

その恐怖を表現するかのように、山焼けの火は大きく燃えています

対して5の場面は、

  • よだかが星に向かって飛んでいく最後の場面

です。

そのとき山焼けの火は「たばこの吸殻くらい」の大きさで描かれており、よだかの眼下に小さく見えるだけです。

このように、鷹の存在や弱肉強食といった世の中の仕組みと関係して、恐怖が大きくなったり小さくなることを、山焼けの火の大きさで表していると考えられます。

 

一方で、星の青白い光は美しい色として描かれます。

その青白さは、恐怖や煩わしいことのない宇宙の世界を象徴する色です。

この世から離れたよだかは、自分自身も青白く静かに光るうつくしい星になります。

これらのことから、『よだかの星』は、

赤い世界から逃れて、青い世界に移る話

だと言えるでしょう。

こうした作品の色彩描写からみると、よだかが星になった理由は、

  • 赤い世界から逃れたかったから

だと考えることができます。

このように、『よだかの星』は赤と青の色の対比が特徴的な物語です。

・登場する鳥の特徴(写真付き)

『よだかの星』では、が物語世界の強者として登場します。

鷹は自らの力を盾に、どんな傍若無人な主張でも通そうとする暴君です。

その鷹を描くことで、強い者が支配する世界の様子を端的に表しています。

一方で、よだかは鷹に似ている弱い鳥です。

彼の仲間は川せみと蜂雀という、これまた小さく弱い鳥です。

蜂雀(ハチドリ)

川せみ(カワセミ)

見ると分かるように、彼らの特徴は色鮮やかで美しいことです。

けれどもよだかは、小さく弱いということは同じにしても、その姿は美しいとは言えない鳥です。

よだか(ヨタカ)

つまりよだかは、

  • 小さく弱い仲間の内でも疎外感を覚えてしまう存在

と考えることができます。

彼は孤独で、だからこそここではない遠くへ行こうと思ったのでしょう。

こうした鳥の姿から特徴をつかんで物語を創作した宮沢賢治。彼がいかに自然と親しんでいたかがよく分かります。

ちなみに、同じく宮沢賢治の作品『やまなし』でも川せみは出てきます。

どのように川せみが描かれているのか、関連して知りたい方こちらをどうぞ。

『やまなし』で宮澤賢治が伝えたかったことは何か?あらすじから解説まで!

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・食物連鎖

宮沢賢治の作品には、

  • 食物連鎖

主題としてよく出てきます。

『やまなし』や『注文の多い料理店』や『なめとこ山の熊』、そしてこの『よだかの星』もそうです。

生き物が生き物を食べるということは、彼自身が抱えていた問題でもあります。(ちなみに宮沢賢治はベジタリアンです。)

よだかはそうした食物連鎖のシステムに気がつくと、大声を上げて泣き出します。

ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。

彼は川せみや蜂雀にも、必要以上に生き物を殺して食べないようにと言います。

よだかにとって、それほどまでに食物連鎖という仕組みが哀しいものだったのでしょう。

だからこそ彼は無生命の惑星になり、生命の食物連鎖から逃れたかったのかもしれません。

そして最後、彼は星になりました。

こうしたよだかの願いが成就したからこそ、『よだかの星』は悲しい物語ではなく、最後には美しい物語としての雰囲気が漂っています。

-感想-

・強いよだか

鷹に「名前を変えたら生かしてやる」と言われて、よだかはすぐに死ぬことを決意します(名前を変更する選択肢などはじめから無かったかのように)。

みなさんはどうするでしょうか?僕だったら市蔵に名前を変えて生きるかもしれません。

でも彼はそうしなかった。ここによだかのプライドが見えます。

また、東西南北の星々に、「私をそこへ連れて行って下さい」と願います。

ですが星々はみな、よだかを手伝おうとはしません。

彼は仕方なくうなだれて、最後の力を使って星をめがけて飛んでいきます。

もちろん星には届きませんが、その姿からは彼の強い気持ちが伝わります。

つまり、よだかは決して弱くない、むしろ強い心の持ち主なのではないでしょうか。

力に屈しないよだかの姿に、美しい星の色が重なる。どても幻想的な物語です。

以上、『よだかの星』のあらすじと考察と感想でした。

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