『絵のない絵本』とは?
『絵のない絵本』は、童話作家アンデルセンによる短編小説です。
月から聞いた話を「わたし」が話すという形で、全三十三個の短い話が物語られます。
ここではそんな『絵のない絵本』のあらすじ・感想をまとめました。
『絵のない絵本』のあらすじ
『絵のない絵本』は、三十三の話が、それぞれ1.2ページあるだけのごく短い物語です。
そのため、ここではあらすじの代わりに、それぞれの話にタイトルを付けました。
タイトルを見て、どんな内容かザッと確認してみて下さい。
- 第一夜:インド娘の恋愛
- 第二夜:少女と大人の誤解
- 第三夜:狭い小路の出来事
- 第四夜:ドイツの喜劇
- 第五夜:パリの革命と芸術
- 第六夜:ウプサラ(スウェーデン)の詩人
- 第七夜:森と少女と芸術性
- 第八夜:「わたし」と月
- 第九夜:グリーンランドの海
- 第十夜:ある老嬢の死
- 第十一夜:婚礼の祝宴
- 第十二夜:ポンペ―(イタリア)の光景
- 第十三夜:編集者の家
- 第十四夜:森にある二軒の農家
- 第十五夜:リューネブルク(ドイツ)の荒野
- 第十六夜:ある道化師
- 第十七夜:小さい女の子の喜び
- 第十八夜:ベネチアの広場
- 第十九夜:才能のない俳優
- 第二十夜:ローマの娘
- 第二一夜:アフリカを行く隊商
- 第二二夜:少女と人形
- 第二三夜:チロル(オーストリア)の尼僧院
- 第二四夜:コペンハーゲン(デンマーク)のベルテル
- 第二五夜:フランクフルト(ドイツ)の光景
- 第二六夜:煙突そうじの小僧
- 第二七夜:中国人の悲恋
- 第二八夜:凪いだ海
- 第二九夜:スウェーデンの王たち
- 第三十夜:国道沿いの旅館
- 第三十一夜:田舎町の熊使い
- 第三十二夜:牢獄の囚人
- 第三十三夜:女の子の祈り
それぞれの話のジャンルをザッと大別すると、
- 恋愛
- 芸術
- 悲劇と喜劇
- 日常の出来事
- 子どもの気持ち
などに分けられると思います。
場所は主にイタリアやドイツなどのヨーロッパ。遠くにはインドや中国などの話もあります。
・『絵のない絵本』の概要
物語の 仕掛け人 |
月の話を聞かす「わたし」 |
主な舞台 | ヨーロッパ |
時代背景 | 19世紀 |
作者 | アンデルセン |
-感想-
・月と語り手
この物語は、月から聞いた話を「わたし」が語るという形になっています。(例外的に第八夜だけ月は現れず、代わりに「わたし」と月の関係が語られます。)
月は空からなんでも見られるので、色々なことを知っており、物語は国境や時空を飛び越えていきます。
こうした超人的な話者を置くことで、作者は自由に動き回れる視点を可能にしているのです。
似たような語りの構造に、「神の視点」というものがあります。
「神の視点」は物語を自由自在に動くことができるので、誰の心情でも、どんな場面でも、つぶさに観察して語ることができます。
『絵のない絵本』の「月」は、この「神の視点」ほど自由ではありません。
雲に覆われると町の様子は見えなくなってしまいますし(第二十一夜)、月の光が届かないところは見られません(第三十二夜)。
人の視点よりは自由ですが、神の視点よりは不自由なのです。
このような「月」が話者であるため、自由な物語の中にも人間味が生まれ、話が教訓的になりすぎないバランスが保たれているように感じます。
・「第五夜」が好きだった
全三十三夜のうち、僕が好きだったのは第五夜です。
パリの七月革命のとき、その玉座ではひとりの勇敢な少年が大人に交じって戦っていました。
しかし、剣はその少年の身体を貫き、少年は死にます。
人々は傷ついた少年を玉座の上に横たえて、傷口を赤いビロードで巻きました。その横には三色旗が銃剣の先ではためいています。
戦っている人々と、玉座の上に横たわる少年。その隣にある銃剣と三色旗。それがまるで芸術的な絵のようだ、というお話しです。
『絵のない絵本』には、こうした芸術的な話から、身近な日常生活の喜劇や悲劇、あるいは恋愛の物語が1.2ページで紡がれます。
全部で三十三夜もあるので、お気に入りの話を探すのも面白いと思います。
以上、『絵のない絵本』のあらすじと考察と感想でした。
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