『源氏物語』第11帖「花散里」のあらすじ
麗景殿女御と花散里
麗景殿女御という人物がいました。
彼女は桐壺帝の女御(妻のひとり)だった人で、今は光源氏の援助によって暮らしています。
その妹の花散里は、光源氏がかつて宮中あたりで逢瀬をかさねたこともあり、知らない人ではありません。
麗景殿を訪ねる源氏
光源氏が25歳の年。
5月20日頃、五月雨の空が珍しく晴れた日に、麗景殿を訪れようと思い立ちます。
麗景殿女御&花散里と語らう
今では通う人もいなくなった御殿には侘しさがありますが、さすがに麗景殿は美しく、二人で昔のことなどを語らいます。
そのあとには妹の花散里も訪ね、かつてのように心を通わせ会うのでした。
『源氏物語』「花散里」の恋愛パターン
光源氏―麗景殿女御&花散里
- 光源氏:桐壺院の女房だった麗景殿を久しぶりに訪ねる
- 麗景殿女御:懐かしい話をして、桐壺院のことなど語り合う
- 花散里:久しぶりの訪問に嬉しく、心を通わせ合う
『源氏物語』「花散里」の感想&面白ポイント
「五月雨の空がめずらしく晴れた雲間」という比喩
源氏のまわりから人がいなくなっていく第10巻「賢木」。
ついに京から追放される第12巻の「須磨」。
第11巻「花散里」は、そんな下り坂の物語の間に挿入される、ひとときの休息のような物語です。
そのことは、
五月雨の空がめずらしく晴れた雲間
(五月雨の空めづらしく晴れたる雲間)
という一文からも、比喩として表現されています。
そのため「花散里」の巻は、前後巻の陰気な雰囲気から少し解放された、ほがらかな一幕として挿入されています。
それが、麗景殿女御と花散里との語らいです。
麗景殿女御は4人いる!桐壺帝の麗景殿女御
ここで登場する麗景殿女御は、かつて桐壺帝の女御(妻のひとり)だった人です。
そのため『源氏物語』には、全巻中に4人の麗景殿女御(「麗景殿」に住む「女御の位」を与えられた女性)が存在します。
光源氏は彼女を訪れるために、中川沿い(空蝉の家などもこのあたり)にある邸宅へ行きます。
そして、桐壺帝時代のことなどを語り合い、当時のことを懐かしむのです。
橘の歌で昔を懐かしむ
ここで光源氏と麗景殿女御の二人は、漂ってくる橘の木の香りに誘われて、橘の歌を詠み合います。
(光源氏)橘の香を懐かしみほととぎす花散る里をたづねてぞとふ
意訳:懐かしいたちばなの香りに誘われて、ほととぎすは花散る里へとやってきました。
(麗景殿女御)人目なく荒れたる宿は橘の花こそ軒のつまとなりけれ
意訳:人が訪れることもなく荒れてしまったこの家ですが、橘の花だけが軒端に咲いて、ほととぎすを誘うよりどころとなったのでした
橘といって思い出されるのは、平安京内裏の紫宸殿のそばにある橘の木。
今は内裏を離れている麗景殿と、もうじき離れることになる光源氏の寂しい心情。
二人の懐かしく切ない想いが、内裏にある橘の木に重ねられているように思います。
登場していないのにチラつく弘徽殿女御の影
麗景殿女後が住んでいた「麗景殿」がある場所は、弘徽殿のちょうど西の対▽
今では麗景殿を退いて、中川あたりに住まう彼女。
そのため、麗景殿女御も光源氏と同じく、弘徽殿女御への対立心を持っていたと考えられます。
「花散里」で描かれる一幕は平和的ですが、やはり勝者としての弘徽殿女御の影がどこまでもチラついています。
中川とはどこか?
大正時代初期までは「今出川(古くは京極川)」という名前で存在していましたが、都市計画の中で消えてしまいました。
ただ、現在の京都にある「今出川通り」はこの川の名に由来します。
川こそ残っていないものの、名残から当時を偲ぶことはできますね。
初登場の花散里
姉妹というパターンは初めて
光源氏はこれまでに、さまざまなタイプの女性と遊んできました。
具体的には、以下のような人々です。
- 老女(源典侍)
- 少女(若紫)
- 夫人(空蝉)
- 人間違い(軒端荻)
- 義母(藤壺)
- いとこ(葵上)
- 叔母(六条御息所)
- 醜女(末摘花)
さらにここへきて、麗景殿女御&花散里という姉妹が登場します。
麗景殿女御は桐壺帝の女御だったので、光源氏が特に仲良くしたのは花散里ですが、姉妹が一緒に出てくる話はこれが初めて。
ちなみに、この花散里と光源氏は、物語の終盤に至るまで、末長くゆるい関係を保ち続けることになります。
さて、次の巻は「須磨」。ついに光源氏が京を離れてしまいます。
『源氏物語』「花散里」の主な登場人物
光源氏
25歳の夏。
右大臣側の権力が強くなり、煩わしいことが多くなってきたところ、心の休息を求めて麗景殿を訪ねる。
麗景殿
桐壺院の女御だった人。
現在は光源氏の経済的援助によって、なんとか身分相応の暮らしができている。
花散里
麗景殿の妹、三の君という呼び名もある。
かつて宮中あたりで光源氏と逢瀬を重ねたことがある。
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