源氏物語

源氏物語「蛍」巻のあらすじ!有名な光源氏の「物語論」を分かりやすく解説!

2022年6月28日

『源氏物語』第26帖「蛍」のあらすじ

光源氏:36歳

玉鬘を訪ねる蛍兵部卿宮

光源氏のアプローチを厭う玉鬘は、彼から逃れるために夫を探しても良いと思い、蛍兵部卿宮を気にかけます。

思わぬ良い返事をもらった蛍兵部卿宮は、るんるんで玉鬘邸へ足を運びます。

その夜、光源氏は玉鬘のいる部屋に蛍を放って幻想的な美しさを演出し、蛍兵部卿宮の気持ちを揺すぶることに成功したのでした。

花散里邸に泊まる光源氏

5月5日には、花散里の御殿で、伝統行事である騎射が催されました。

用意を手伝ってくれた花散里に対して感謝のしるしとして、光源氏は花散里邸に泊まります。

しかし、もはや中年である二人の間には何事もなく、互いの布団で眠りにつくのでした。

光源氏の物語論

梅雨になると、六条院の女君たちは絵物語で気を紛らわせます。

なかでも玉鬘は物語に夢中になりますが、そんな彼女に光源氏は自身の物語論を展開します。

それから明石の姫君を養育している紫上に対しても、教育上よくないものは見せないように聞かせるのでした。

頭中将(内大臣)と玉鬘の再会フラグ

撫子の姫君(玉鬘)のことを忘れられないでいる頭中将は、彼女のことを夢にまで見ます。

その夢を占わせると、「長年知らずにいた彼女を、誰かが養女にしているかもしれません」というので、一体どういうことだろうと思い、訝しがるのでした。

『源氏物語』「蛍」の恋愛パターン

玉鬘―蛍兵部卿宮

  • 蛍兵部卿宮:熱心に文を送り続け、ようやくのことで好感触な返事が来たため玉鬘邸を訪ねる
  • 玉鬘:迫ってくる光源氏が厭わしく、現状を打開するために夫を探してもよいという気になる

『源氏物語』「蛍」の感想&面白ポイント

「蛍」巻の面白いポイントはは大きく二つあります。

  • 蛍兵部卿宮と玉鬘の関係
  • 光源氏の物語論

この二つです。

まずは蛍兵部卿宮と玉鬘の関係を見ていきます。

蛍兵部卿宮と玉鬘のやりとり

光源氏の弟である蛍兵部卿宮は、博学多才な光源氏が認めるほど文化文芸に精通している風流な人ですが、一方でたいそうな遊び人でもあります。

そんな彼が今熱心なのは、六条院にいる美しい玉鬘。

何度も手紙を送っては会いたいことを伝え、ようやくのことで好感触な返事をもらいます。

蛍兵部卿宮
ああ、もう五月雨になってしまいました。こんなにも長く想い続けているのにお返事をくれないなんて・・・
(長いって、まだ数ヶ月しか経っておりませんわ・・・)
玉鬘(成人)
蛍兵部卿宮
ちょっとだけでも近くに寄ることをお許しいただければ、思っていることなどを伝えて少しはスッキリするのですが・・・
光源氏
(手紙を見て)蛍兵部卿宮がそんなことを言っているのか、まあ会ってあげても良いだろう
・・・
玉鬘(成人)
光源氏
手紙のお返事くらい差し上げるものだよ。嫌なら私が代わりに書いてあげよう。すらすらすらっと、ほらできた
蛍兵部卿宮
えっ、玉鬘さまから初めて返事きた!やったー
光源氏
(ふふふ、蛍兵部卿宮宮はどんな反応するんだろう、ワクワク)

光源氏は蛍兵部卿宮の口説き方を見たいので、勝手にデートの場を設定します。

玉鬘も玉鬘で、想いを寄せてくる光源氏が厭わしかったので、いっそのこと蛍兵部卿宮の妻になってもいいかなと考えています。

とはいえ一番張り切っているのは光源氏。

どんな趣向を凝らして蛍兵部卿宮をもてなそうかワクワクしています。

▽ワクワクする光源氏が描かれる本文

源氏の君はよくないことなのにワクワクして、蛍兵部卿宮を待ちわびているも、そうとは知らない蛍兵部卿宮は珍しい返事を喜んで、たいそうこっそりとやって来た。

(殿はあいなくおのれ心化粧して、宮を待ちきこえたまふも、知りたまはでよろしき御返りのあるのをめづらしがりて、いと忍びやかにおはしましたり)

『源氏物語「蛍」』

光源氏が玉鬘よりもずっと心ときめかしてこの日を楽しみにしている様子はユーモアがあり、笑える場面です。

語り手も彼の様子を「もはや親ではなく、ただの出しゃばりの人だ」と、少しイジっています。

▽光源氏をイジる語り手

十分に心づかいをして、空薫物を上品に香らせ、玉鬘の世話などをしている様子は、もう親というものではなく、むしろ出しゃばりの人のようにもなっているが、そうは言ってもやはりしみじみとした趣はある

(いといたう心して、そらだきもの心にくきほど匂はして、つくろひおはするさま、親にはあらで、むつかしきさかしら人の、さすがにあはれに見えたまふ)

『源氏物語「蛍」』

そしてこのクライマックスが、奥へ下がった玉鬘の部屋に蛍を放つ場面です。

とても神秘的で『源氏物語』のなかでも有名なワンシーンになっており、この巻名「蛍」の由来にもなっています。

▽光源氏が蛍を放つ有名なシーン

源氏の君が几帳の薄い布を一枚お掛けになるのと同時に、何かがパッと光り、玉鬘は突然のことにロウソクを点けたのかと思った。光源氏が蛍を薄い布にたくさん捕まえておいて、光が見えないように隠していたのを、さりげなくお放ちになったのだ。暗かった部屋が蛍の光に照らされてにわかにほの明るくなったので、驚いて扇でお隠しになった玉鬘の横顔には、たいそう趣深い美しさがある。

(御几帳の帷子を一重うちかけたまふにあはせて、さと光るもの、紙燭をさし出でたるかとあきれたり。蛍を薄きかたにこの夕つ方いと多くつつみおきて、光をつつみ隠したまへりけるを、さりげなくとかくひきつくろふやうにて。にはかにかく掲焉に光れるに、あさましくて扇をさし隠したまへるかたはら目、いとをかしげなり)

『源氏物語「蛍」』

夕闇のなか蛍の光に照らされる部屋と、それに驚いて扇で顔を隠す玉鬘。

奥ゆかしい情緒のあるこの一場面は、これも光源氏の趣向の一つなのでした。

光源氏
蛍の光が見えたら、蛍兵部卿宮もこの部屋を覗きにやって来るだろう。そこで玉鬘の美しい顔を見て惚れ惚れするのだ。あの男の心を惑わしてやろう。ワクワク

彼の思惑通り、これを見た蛍兵部卿宮はいっそう玉鬘への想いを募らせます。

蛍兵部卿宮は、かすかだが、すらりとした体つきで横になっている玉鬘の美しい姿が目に焼き付き、十分に見られなかったのが残念に思われ、このことがいつまでも心に残るのだった。

(ほのかなれど、そびやかに臥したまへりつる様体のをかしかりつるを、飽かず思して、げにこのこと御心にしみにけり)

『源氏物語「蛍」』

この後、玉鬘と少しだけ歌を詠みあってから、心残りながらも家に帰った蛍兵部卿宮。

今後どのような進展があるのだろうと読者の気を揉ませながら、物語は二人の恋愛模様から離れてゆきます。

光源氏の「物語論」

長雨の季節、六条院の女性たちは物語を読んで日を送っていました。

ここで語られるのが、光源氏の有名な「物語論」です。

『源氏物語』には、作者の意見が反映されていると考えられる「物語についての考察」が随所(第17帖「絵合」巻など)に見られるのですが、「蛍」巻ほど量的にも質的にも語られる箇所はなく、それゆえ「蛍」巻の物語論は有名になっています。

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基礎知識として、平安時代の「物語」は「そらごと(虚構)」として、女性の読むものだとされていました。

その対となるのが「漢籍・史籍」であり、そこには「まこと(事実)」が書かれていて、男性が読むものだとされています。

こうした背景があるため、光源氏が物語を読んでいる玉鬘に向かって「女性たちは物語が本当に好きだよね〜」とディスるところから物語論は始まり、その後に持論が展開されてゆきます。

光源氏の意見はこんな感じです。

  1. 物語はたしかに暇つぶしにはいい
  2. 面白い物語を読んでつい物思いに沈んでしまう、そんな女性には心惹かれるものがある
  3. レトリックによっては思わず引き込まれるところもある
  4. ふと感心させられるようなことが書いてあることもある
  5. 物語には史実に書かれていないことも書かれてあるのかもしれない
  6. ありのままでないとしても、人物や良し悪しに関わらず、人の生き様のなかで思わず後世に伝えたくなるようなことが物語となる
  7. 作者の意図が絡む虚構は得てして都合の良いにものになるけれど、それもまたこの世の出来事だろう
  8. 100%の虚構はあり得ず、作られた物語のなかにも真実はある

物語を「虚構」だとした上で、その中にある真実性に触れています。

かなり長いですが、最初から最後までの流れを本文付きで載せておきます。玉鬘の軽妙な返しが見どころです。

光源氏の女性ディス

「ああ、女性というものは人に欺かれようとして生まれてきたものなんだね。物語の中に本当のことはとても少ないのに、それを知りつつこのような取りとめのない話に心を奪われてしまったりなどして、この暑い五月雨に髪が乱れるのも構わずに書き写していらっしゃるのだから」と、お笑いになるものの、

(あなむつかし、女こそものうるさがらず、人に欺かれむと生まれたるものなれ。ここらの中にまことはいと少なからむを、かつ知る知るかかるすずろごとに心を移しはかられたまひて、暑かはしき五月雨の、髪もみだるるも知らで書きたまふよとて、笑ひたまふものから)

1.暇つぶしには良い。2.物語を読み物思いに耽る女性の姿も良い

また、「このような古物語などがあれば、多少この五月雨のいとまを凌げるのも事実ですね。それにしても、可愛らしいあなたがこうした作り物の中に、たしかにこんなこともあるだろうとしみじみ心に響き、それっぽく書かれてあるようなことが虚構であると分かっていながらも、心動かされて物思いに沈んでいる様などを見ると、心惹かれるものがありますよ」

(また、かかる世の古ごとならでは、げに何をか紛るることなきつれづれを慰めまし。さても、このいつはりどもの中に、げにさもあらむとあはれを見せ、つきづきしくつづけたるはたはかなしごとと知りながら、いたづらに心動きらうたげなる姫君のもの思へる見るにかた心つくかし。)

3.レトリックによっては引き込まれたり、4.ふと感心したりすることもある

「またそんなことはあるわけがないと思いながら、劇的に書かれた場面などには目を奪われて、落ち着いてくるとつまらなくもなるが、ふと興のそそられることがあったりもします。このごろ明石の姫君の女房などが読んでいるのを立ち聞きしたりもしますが、巧みな物言いの人もいるようですね。そらごとを言い慣れている口からの出まかせだろうと思うのですが、どうなのでしょうか」とおっしゃると、

(またいとあるまじきことかなと見る見る、おどろおどろしくとりなしけるが目おどろきて、静かにまた聞くたびぞ憎けれど、ふとをかしきふしあらはなるなどもあるべし。このごろ幼き人の女房などに時々読まするを立ち聞けば、ものよく言ふ者の世にあるべきかな。そらごとをよくし馴たる口つきよりぞ言ひ出だすらむとおぼゆれど、さしもあらじやとのたまへば、)

5.物語には史実にない本当のことが書かれてあるかもしれない

(玉鬘は)「おっしゃるとおり、偽りごとに慣れている人は、そのように汲み取るのでしょう。私には本当のことのようにしか思えないのですけれど」と言って硯を押しやると、「まったく興醒めなことを言ってしまいましたね。神代より世にあることを記しているものが物語と言います。日本紀などはただの一面に過ぎないようです。物語にこそ道理にかなって詳しいことが書かれてあるのでしょう」と言ってお笑いになる。

(げにいつはり馴たる人や、さまざまにさも酌みはべらむ。ただいとまことのこととこそ思うたまへられけれ、とて硯を押しやりたまへば、骨なくも聞こえおとしてけるかな。神代より世にあることを記しおきけるななり。日本紀などはただかたそばぞかし。これらにこそ道々しくくはしきことはあらめとて笑ひたまふ。)

6.物語の始まり・7虚構の中の事実

「その人の身のうえ話だと言ってありのままに書かれることこそありませんが、良いことでも悪いことでも、世を生きる人の有様の面白い話を、またこれは後世にも言い伝えたいと思うようなことごとを、自分だけの心にはどうしても閉まっておけなかったのが物語の始まりだといいます。登場する人を良い人物として語ろうと思ったら、その人の良い点ばかりを抜き出すし、読者を楽しませようと思ったら、奇想天外で珍しいことばかりを取り集める、ですがそれも原点を辿ればみなこの世で起こったことなのです。」

(その人の上とてありのままに言ひ出づることこそなけれ、よきもあしきも、世に経る人のありさまの見るにも飽かず聞くにもあまることを、後の世にも言ひ伝へさせまほしきふしぶしを、心に籠めがたくて言ひおきはじめたるなり。よきさまに言ふとては、よきことのかぎり選り出でて、人に従はむとては、またあしきさまのめづらしきことをとり集めたる、みなかたがたにつけたるこの世の外にことならずかし。)

8.作られた物語のなかにも真実はある

「異国の話も、同じ大和国の話でも昔と今とでは違いがあり、また内容には深い浅いもありますが、その全てを作り事だというのは無理があるでしょう。仏の教えにも方便があって、悟りがない者は「あちこちで言っていることが違う!」と騒ぐでしょう。方便は方等経(経典)の中に多いのですが、煎じ詰めてゆけば一つのことを言っているのであって、悟りと煩悩の隔たりは、善悪の隔たりと同じようなものなのです。よく言えば、何事も無益ではないことになります。物語だってそうですね」と物語を格別なもののように説明なさる。

(他の朝廷のさへ作りやうかはる、同じ大和の国のことなれば昔今のに変るべし、深きこと浅きことのけぢめこそあらめ、ひたぶるにそらごとと言ひはてむも事の心違ひてなむありける。仏のいとうるはしき心にて説きおきたまへる御法も方便といふことありて、悟りなき者はここかしこ違ふ疑ひをおきつべくなん。方等経の中に多かれど、言ひもてゆけば一つ旨にありて、菩提と煩悩との隔たりなむ、この人のよきあしきばかりのことは変りける。よく言へば、すべて何事もむなしからずなりぬやと、物語をいとわざとのことにのたまひなしつ。)

物語論から離れて玉鬘を口説く

「さて、こうした古物語のなかに、私のように真面目な愚か者の話はありますか。物語に出てくるどんなにそっけない姫君でも、あなたのようにつれなく知らぬ顔をするような方はいないでしょう。では私たちのことを珍しい物語にして世に伝えさせましょう」と、距離を近づけて口説くので、玉鬘は着物に顔を引っ込めるようにして、「ただでさえこのように珍しいこと(父親が娘に言い寄るなんてこと)は、勝手に世間の語りぐさとなってしまうでしょう」とおっしゃると、光源氏は「珍しいこと(自分がつれない態度だ)と思っているのですね。私はこのような珍しいことが好きなのですよ」と話をすり替えながら、寄っていき戯れている。

(さて、かかる古事のなかに、まろがやうに実法なるしれものの物語はありや。いみじくけ遠き、ものの姫君も、御心のやうにつれなくそらおぼめきしたるは世にあらじな。いざたぐひなき物語にして世に伝へさせんと、さし寄りて聞こえたまへば、顔をひき入れて、さらずとも、かくめづらかなることは、世がたりにこそはなりはべりぬべかめれとのたまへば、めづらかにやおぼえたまふ、げにこそまたなき心地すれとて、寄りゐたまへるさまいとあざれたり)

歌の応酬、玉鬘に厳しい一手をもらう

(光源氏)「”思いあまって古い書物を辿ってみるけれど、親に背いた子の例はありませんでした”親不孝は仏の道でも特に悪いこととされているのですよ」とおっしゃるが、玉鬘は顔もあげないので、髪を掻き撫でてつつ恨み言を重ねていると、やっとのことで「”昔の書物にあたってみても、たしかにこのような親心は世の例にないことでした”」と返すので、源氏の君は恥ずかしくなって、これ以上の大それたこともできない。一体これからどんな御仲になろうとしているのであろうか。

(「思ひあまり昔のあとをたづぬれど親にそむける子ぞたぐひなき」不孝なるは仏の道にもいみじくこそ言ひたれとのたまへど、顔ももたげたまはねば、御髪をかきやりつついみじく恨みたまへば、からうじて「ふるき跡をたづぬれどげになかりけりこの世にかかる親の心は」と聞こえたまふも、心恥づかしければ、いといたくも乱れたまはず。かくしていかなるべき御ありさまならむ。)

以上が玉鬘と光源氏の対話を通して語られる「物語論」です。

小助
玉鬘の上手なかわしかたが憎いですね。

光源氏の教育指針

物語論はこれで終わりですが、次は明石の姫君の教育的観点から、どの本を読ませるかといった源氏の持論が語られます。

  • 色恋の物語は読み聞かせない方が良い→それが普通の恋愛だと勘違いしては困るから
  • 継母の意地悪な昔話も聞かせない方が良い→継母は意地悪なものという先入観を持ってしまうから

上記のような持論です。

明石の姫君を養育している紫上は、源氏の意見に賛成しながらも、彼女なりの論も展開します。

▽紫上の持論

(紫上)浅はかに物語の恋を真似をするような人はたしかに見るに堪えません。『宇津保物語』の藤原の君の娘は、浮わついたところもなく過ちもありませんが、真面目すぎる口ぶりなどは女性らしいところがなく、それはそれで人並みというものでしょうね。

(心浅げなる人まねどもは見るにもかたはらいたくこそ。宇津保の藤原の君のむすめこそ、いと重りかにはかばかしき人にて、過ちなかめれど、すくよかに言ひ出でたるしわざも女しきところなかめるぞ、一ようなめる)

小助
浅はかな色恋はみっともないが、適度な恋愛がないのも女性としてどうか、と言っていますね。

こうした箇所は、当時の物語がどのように受容されているかが見えます。

物語は女性たちの教科書として、あるいは反面教師として機能していたことが窺えます。

紫上は明石の姫君の継母なので、光源氏が継母の古物語を姫君の目に入らないようにしているところは、彼の抜かりなさを感じますね。

玉鬘と頭中将との再会フラグ

「蛍」巻のラストは、頭中将がかつて失くしてしまった娘の夢を見て、それを占わせる場面で終わります。

『源氏物語』の世界観では、思念が強いと相手の夢枕に立つことがあるので、この場合は玉鬘が頭中将(右大臣)に会いたいと強く思っていたことが考えられます。
小助
光源氏の懸想が煩わしいので、父の元へ逃げたいという想いが募ったのでしょう。

占者は、「もしかして、長年忘れていた御子をどこかの人が養子にしている、、、そのようなことをお聞きになることはございませんか」と言い、玉鬘のことを言い当てます。

頭中将は兼ねてから玉鬘のことが気になっていたので、余計に頭に残ることになります。

はたして玉鬘は誰かのものになるのか、それとも頭中将の元へ帰り、まったく違う展開が待っているのか。

読者の期待をそそるかたちで「蛍」巻は幕を閉じます。

『源氏物語』「蛍」の主な登場人物

光源氏

36歳。玉鬘と戯れ、物語論を展開する。

玉鬘

光源氏の接近を厭わしく思い、状況を打開するため蛍兵部卿宮の妻となることも視野に入れる。

田舎暮らしが長かったため、都に来て物語の楽しさに目覚めるも、光源氏に茶々を入れられる。

蛍兵部卿宮

光源氏の弟。玉鬘にゾッコン。

彼女に何度も手紙を送り、ようやく返ってきた手紙が光源氏の代筆であったことは知らない。

花散里

騎射の手伝いをして、源氏に喜ばれる。

その晩、源氏が花散里邸に泊まるも、布団を共にはしない。

紫上

明石の姫君に聞かせる物語は教育的に何が良いか源氏と話し合う。

頭中将(右大臣)

夕顔とその遺児のことが忘れられず、夢にまで見る。

占者から「娘が養子になっている可能性」を聞かされ訝しむ。

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