又吉直樹

小説『火花』を3つのポイントで考察!作品の感想と概要まとめ

2019年9月9日

『火花』とは?

『火花』は又吉直樹さんの芥川賞受賞作です。

お笑い芸人である主人公と先輩の神谷を通して、まっすぐに生きる人間の姿が描かれています。

ここでは、『火花』の考察と感想を書きました。

それではみていきましょう。

-概要-

主人公 徳永(後輩)
物語の
仕掛け人
神谷(先輩)
主な舞台 東京
時代背景 現代
作者 又吉直樹

-考察-

ここでは、

  1. 物語の設定
  2. 全体の構成
  3. 冒頭と結末の仕掛け

の三点をメインに考察していきます。

まずは物語の設定からみていきましょう。

ポイント1 物語の「伝記」設定

『火花』は主人公と神谷の芸人人生が描かれる物語ですが、そのストーリーとは別に、

主人公が先輩・神谷の伝記を書く

という設定があります。以下はその引用です。

「俺のことを近くで見てな、俺の言動を書き残して、俺の伝記を作って欲しいねん」
「伝記ですか?」
「そや、それが書けたら免許皆伝や。」

『火花』は主人公の視点を通してずっと、先輩である神谷のことが描かれています。

主人公の恋人や生活のことにはあまり触れず、神谷の恋人や生活についての内容が物語の大半を占めます。

つまり、『火花』という物語を一歩引いて読むと、

先輩・神谷の伝記小説

であるという設定が浮かび上がってくるようになっています。

こうした「伝記」の設定も、『火花』の特徴だといえます。

ポイント2 作品全体の構成

次は作品の構成について見ていきます。

この物語は、

  1. 主人公が熱海で先輩と出会い
  2. 東京で芸人として生き
  3. 熱海へ先輩と旅行する

という流れで終わります。つまり、

  • 熱海→東京→熱海

という作品構成になっていることが分かります。

これは比較的よく使われる伝統的な構成でしょう。

代表的なのは、昔話の『桃太郎』です。桃太郎の話は、

  • 村→鬼ヶ島→村

という構成になっています。

この「A→B→A」という構成は物語が分かりやすく展開するので、読者が受け入れやすいというメリットがあります。

『火花』もそうした構成を踏襲しており、読みやすい物語になっています。

ポイント3 冒頭と結末の音描写

最後のポイントでは、物語のちょっとした仕掛けを見ていきます。

『火花』の冒頭はこのような文章から始まります。

大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。

これは作者である又吉さんも言っていますが、

芸人は出囃子でステージに上がるので、作品の冒頭も、それを連想させる音の描写で始まっている

という物語の仕掛けがあります。

また、『火花』の最後はこのような場面とともに終っていきます。

神谷さんの言葉を無視して、ジャマイカの英雄はエビシンゴノビーオーライと世界に向かって唄い続けている。

これはボブ・マーリーのCDが流れているのですが、冒頭と同じく、

  • 音の描写

で物語が終わっていることが分かります。

このように、物語の始まりと終わりを音の描写にすることで、

芸人のステージの「あがり」と「さがり」

を表しており、作品が芸人の物語であることを暗に示す仕掛けになっています。

作者が芸人である又吉直樹さんならではの仕掛けであり、『火花』という作品の特徴ともいえるでしょう。

 

以上、3つが作品のポイントでした。

見てきたように、『火花』は作品の設定や構成・仕掛けなどに工夫が凝らされていました。

そうした細分まで面白い作品です。

-『火花』の感想-

僕が『火花』を読んで面白いと感じたことは3つあります。

  1. 随所に見られるユーモア
  2. 芸人を通した人間についての省察
  3. 主人公の内面の描き方

これらについて、ひとつずつは言いませんが、いずれも又吉直樹さんの感受性に触れられる部分です。

また、先輩・神谷の彼女とのやりとりや、主人公たちの最後の漫才など、内容的にみどころのある場面もたくさんあります。

読んでいてクスッと笑ってしまうこともしばしばですし、いい言葉や文章もたくさんあります。

ちなみに、ポイント3の解説で引用した、

「エビシンゴノビーオーライ(Everything's gonna be all right.)」

は、「すべてうまくいく」という意味です。

主人公は芸人として一度敗北してしまいますが、それでも人生は続いていきます。

生きている限りバッドエンドはない。

最後に主人公が述べる言葉には強度があります。

と同時に、そうであって欲しいという願いのようにも響きます。

以上、『火花』のあらすじと考察と感想でした。

この記事で紹介した本