『ゲド戦記』の「真の名」とは?
ジブリ版『ゲド戦記』の後半で、クモがアレンから真の名を引き出す場面があります。
原作の「真の名」の設定を知らない人は、少し意味が分からないシーンですよね。この記事では、そんな「真の名」について詳しく説明していきます。
・「太古の言葉」=そのものの本当の姿を表す言葉
まず知っておかなければいけないのが、ゲド戦記の世界にある「太古の言葉」についてです。
「太古の言葉」はそのものの本当の姿を表す言葉で、その言葉を使うとを対象をコントロールすることができます。
例えば、石は太古の言葉でトークと言います。人間の言葉で「石よ動け!」と言っても石は動きませんが、太古の言葉を使うとそのものの力をコントロールできるので、石を動かすことができるというわけです。
ゲド戦記の魔法使いは、この太古の言葉を習得することで魔法を使うことができる、という設定になっています。
これをそのまま人間に当てはめたものが「真の名」です。
・「真の名」=その人自身が生まれながらにして持っている本当の名前
「真の名」は親につけられた名前ではなく、その人自身が生まれながらにして持っている本当の名前です。成人すると同時に、魔法使いや村のまじないに見極めてもらうことで知ることができます。
教えてもらった「真の名」は、基本的に誰にも明かすことはありません。「真の名」を明かしてしまうと、その人自身をコントロールされてしまい、非常に危ないからです。
ジブリ版『ゲド戦記』では、クモという魔法使いがアレンの「真の名」を引き出す場面があります。「真の名」を知られてしまったアレンは、実際にクモに心をコントロールされてしまいました。
親しい人には「真の名」を明かすことも
一方で、生涯をともにするパートナーなどには「真の名」を明かすこともあり、その行為は相手に最大級の信頼を伝える証となります。アレンがテルーに「真の名」を明かす場面などがそうですね。
それから、この物語に出てくるゲドも、いつもは通称の「ハイタカ」を名乗っています。アレンと最初に出会ったときも、「ハイタカと呼んでくれ」と言っています。
ストーリーの中盤では、そんなハイタカに向かって、金髪の女性テナーが「ゲド」と真の名で呼びかけるシーンがあります。これは、ゲドがテナーに真の名を明かしているということが分かるので、2人はただの友達以上の関係であることが読み取れるわけです。
・要するに「真の名」とは?
ここまでをまとめると、「真の名」とは
- 人間が生まれながらにして持っている本当の名前で、
- 知られてしまうとその人自身をコントロールされてしまう。
- 成人すると魔法使いから教えてもらい、基本的には誰にも明かすことのない名前
となります。
この「真の名」の設定を知っておくだけで、ゲド戦記の物語はより分かりやすくなると思います。
・『ゲド戦記』のテーマとは?
『ハウルの動く城』や、ディズニー映画『アナと雪の女王』など、大ヒットしたアニメ作品には「自分の本当の姿を認めて生きる」という共通のテーマが見えます。
『ゲド戦記』の「真の名」を通して描かれるものも同じようなテーマですが、『ゲド戦記』が少しだけ違うのは、「本当の姿が一番素敵なんだ」ということを言っているわけではないところにあります。
ジブリ版『ゲド戦記』の冒頭にも出てきますが、ゲド戦記の世界観をずばり言い表す短い詩があるんですね。少し引用します。
ことばは沈黙に
光は闇に
生は死の中にこそあるものなれ
飛翔せるタカの
虚空にこそ輝ける如くにアーシュラー・K・ル=グウィン『ゲド戦記Ⅰ-影との戦い』清水真砂子訳
この日本語訳も素晴らしいんですが、内容的には、二つは対立するものではなく、それぞれを全きものと認めて乗り越えていくということが言われているように思います。
これを「真の名」のテーマに当てはめると、本当の自分も、そうでない自分も、どちらもそれぞれの中に自分がある。どちらが良くて、どちらが悪いということではない、というわけです。
偽りの自分を捨てて、本当の自分をさらけ出そう!というテーマが多いなか、そのもう一歩先を行っているようなテーマが、『ゲド戦記』にはあるように思います。
以上、『ゲド戦記』の「真の名」についてお話ししてきました。このブログではほかにも『ゲド戦記』関連の記事をまとめてあるので、興味のある方はそちらもご覧ください。