冨澤有爲男『地中海』のあらすじと感想!第四回芥川賞受賞作

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『地中海』とは?

第四回芥川賞を受賞した冨澤有爲男の『地中海』。

パリに住む画家学生の主人公と、人妻である桂夫人の許されざる恋を描いた物語になっている。

ここではそんな『地中海』のあらすじ・解説・感想をまとめた。

この記事を読んで分かること

  • 『地中海』のあらすじ・概要
  • ・解説1 風景の描写
  • ・解説2 児島のキャラクター
  • ・第四回芥川賞選評者の言葉
  • 『地中海』の感想 ~冨澤有爲男の他作品にも触れたくなる一篇~



『地中海』のあらすじ

主人公の星名はパリで画家の勉強をしている青年だ。

彼はという夫人に熱を上げており、彼女をどうすれば攻略できるのか知人の児島に相談する。

数学者の児島は女慣れしているわけでもないが、女性を熟知しているようなアドバイスを星名に授ける。

半信半疑の星名だったが、児島の言う通りにすると夫人との関係はみるみるうちに親密なものになっていった。

夫には休養という名目で長い旅行に出かける二人だったが、旅も終わりだという頃、二人の部屋に夫の桂が現れる。

桂は真摯な態度で、しかし憎悪と軽蔑に心を燃やしているらしく、星名に早撃ちの決闘を申し出る。

地中海の気持ちの良い自然を背景に、主人公と夫人の許されざる恋愛が自由な筆致で描かれる作品。

・『地中海』の概要

主人公 星名
物語の
仕掛け人
児島
主な舞台 パリ→カンヌ
時代背景 近現代
作者 冨澤有爲男



-見どころ・解説(考察)-

・風景の描写

『地中海』は初め、パリの描写から始まる。

十一月、雨が来た。既に五日間巴里は深い雲煙の中にあった。

冨澤有爲男『地中海』

作中のパリはいつも霧や煙に覆われていて、パッとしない。その様子はまるで主人公の心情をそのまま写し出しているようにも見える

後半になると、その風景はパリからカンヌへと移されていく。

カンヌはフランスの南端に位置する街で、地中海に面している。

作中、ここでの風景は、パリに比べると鮮やかに描き出されていることが分かる。

蒼い広い空と、オリーブの銀白色の輝きと、柔らかな牧草とに囲まれながら僕達は誰にも遠慮することのない全くふたりきりの時間を送った。

冨澤有爲男『地中海』

このように『地中海』では、風景描写の変化を登場人物の心情の変化に当てはめながら物語が進行していく。

こうした丁寧な構成が、この作品の見どころの一つだろう。



・児島のキャラクター

『地中海』は登場人物の個性が強いことも魅力の作品だ。

紳士の桂、その夫人であり主人公が好意を寄せる桂夫人、数学者の児島に厳格な広尾大佐。

それぞれのキャラクターが際立っており、作品をより一層濃いものにしている。

なかでも児島は『地中海』の重要な登場人物であり、強烈な個性の持主だ。

彼は預言者としての役割を担っており、主人公の行動や思考を導く者として描かれている。

また、物語のストーリー上でも重要な立ち位置にいる。

こうした児島を含めた登場人物たちの個性の描かれ方も、『地中海』という作品の魅力となっている。



・第四回芥川賞選評者の言葉

ここでは三名の選評をピックアップした。

選評者の言葉は全て文藝春秋『芥川賞全集一』から引用する。

・横光利一

この作は人々をも共に作者と楽しましめる腕を十分に信じて後の悠然とした仕事である。このような作者の態度は、生活に対して眼がなくては出来ぬことと思う。

・瀧井孝作

現実直写のつよい文体で、事柄がハッキリ簡潔に性格に描いてあり空虚な箇所が少しもなく、一と息に読み通せた。作品の構成も抜目がなく、(中略)結構だと思った。

・小島政二郎

間然するところのない描写小説の傑作だと思う。(中略)調和の美と、力の美とを併せ持っている見事さ。その中に生かされている作中人物の個性も、如実である。

第四回芥川賞は、石川淳『普賢』と冨澤有爲男『地中海』の二作同時受賞だった。

選評者の文士たちは――川端康成を除いて――、この二つの作品を強く推していたことが選評からうかがわれる。

特に小島政二郎は『地中海』を絶賛しており、佐藤春夫、横光利一、久米正雄、瀧井孝作も『地中海』に高い評価を与えた。

冨澤有爲男は国内外を飛び回り、1970年の六十八歳で没するまで精力的に筆を執り続けた。



-感想-

・冨澤有爲男の他作品にも触れたくなる一篇

第四回芥川賞を受賞した石川淳と冨澤有爲男の二人を並べたときに、石川淳の知名度の方が高いことは客観的な事実だろうと思う。

僕なんかはこの芥川賞全集を手にしていなかったら、冨澤有爲男という作家に出会うことはなかったかもしれない。

それだけに、この『地中海』に出会えた喜びは大きい。

パリの霧景色、カンヌ近辺の自然、登場人物の個性。それらがきれいに調和し、一つの完成された物語を生み出している。

残念ながら彼の作品はほとんどが古書となっており、入手しづらい現状にある。

しかし、後年の代表作である『白い壁画』や『人喰鮫』など、探し出してでも読んでみたいと思わせるの面白さが、『地中海』にはあった。

『地中海』という小説は、良い意味で日本離れしている。海外古典文学が好きな人などは気に入る作品だと思う。

冨澤有爲男:単行本 – 1982/2/19

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