尾崎一雄『暢気眼鏡』あらすじ・解説・感想まで!芥川賞初の短編集受賞作!

『暢気眼鏡』とは?

『暢気眼鏡』は第五回芥川賞を受賞した尾崎一雄の小説だ。

お金もなく職もない「私」と、その妻の芳枝。貧しくも暢気な二人の日常が描かれている。

ここではそんな『暢気眼鏡』のあらすじ・解説・感想をまとめた。

『暢気眼鏡』のあらすじ

主人公の「私」は、暢気な性格の妻・芳枝と暮らしている。

芳枝は生まれてこの方19年間、苦労の一つも知らずに育ってきたが、主人公と結婚したことで極貧生活を送ることになる。

しかし持ち前の暢気さで気楽に暮らし、貧しい生活を気にする様子もない。

そんな彼らの間に子どもが出来る。

貧しいので良かったとも言えないが、めでたいことなので良くないとも言えない二人は、なるようになると楽観しながら日々を送る。

ある夫婦の生活に視線を向けた、地に足の着いた日常物語。

・『暢気眼鏡』の概要

主人公
物語の
仕掛け人
芳枝
主な舞台 日本
時代背景 昭和
作者 尾崎一雄

-解説(考察)-

・芳枝のキャラクター

『暢気眼鏡』の見どころは、妻・芳枝のキャラクターだろう。

彼女が発する暢気さは、純真さや清らかさとも違い、また活発な明るさとも違う。

雲のように生きて、何事にもあまり切迫感がない。まさに「のんき」という言葉がぴったりの人物だ。

第五回芥川賞を受賞したのは、『暢気眼鏡』をはじめ、

  • 『猫』
  • 『芳兵衛』
  • 『ヒョットコ』
  • 『世話やき』
  • 『擬態』
  • 『燈火管制』
  • 『父祖の地』
  • 『五年』

という一連の短編小説群であり、いずれも主人公と芳枝の生活が描かれている。

様々な角度から「芳枝」という人物が描かれるのだが、そんな彼女の人物像が魅力的な短編集になっている。

・『暢気眼鏡』の日常感

暢気なのは芳枝だけじゃない。主人公の「私」もまた、なかなかの暢気者である。

ただこの主人公、妻の暢気さとは少し違う。

彼の場合の「暢気さ」は、未来に対して楽観的な態度に、その言葉があてがわれるだろう。

お金にだらしがなかったり、職業がないのに将来に対して決して悲観的ではないところなどに、彼の楽観性が見て取れる。

そんな彼と妻の芳枝が繰り広げる他愛のない日常感が、『暢気眼鏡』の見どころの一つだと言えるだろう。

・第五回芥川賞選評者の言葉

ここでは三名の選評をピックアップした。

選評者の言葉は全て文藝春秋『芥川賞全集一』から引用する。

・佐藤春夫

男女の主人公と女主人公の性格に凡庸でないものがあって為めに貧乏生活もジメジメした自然派小説から区別されるべき逸脱の趣があった。

・横光利一

人間の低い部分をこれほど長く持ち続け、これほど愚弄しつづけ、なお平身低頭にまで至らぬある人間の情けなさ、横着さ、他愛なさを、作者はくつくつ笑って眺めている。

・瀧井孝作

貧乏の苦みなどの自己主観を出さずに、明るく、サラサラと描いた所に、新味があると思った。

第五回の芥川賞選評を見ると、尾崎一雄の『暢気眼鏡』は瀧井孝作が推薦した作品であることが分かる。

とはいえ、川端康成も述べているように、この作品の入賞はほとんど満場一致という感じであったらしい。

以下がその川端康成の言葉である。

殆んど議論なく、尾崎氏の「暢気眼鏡」に決定したことは、以外に思った人もあるかもしれないが、委員の一人としては、当然であったような気がする。全く今度のように、談笑裡に委員達の気持が、一人の作家へ流れ落ちて行ったことは、初めてであると云っていい。

「他に有力な作品がなかったから」ということもあるようだが、文士達の選評からは『暢気眼鏡』が概ね好評を得て入賞したことが分かる。

ただし佐佐木茂索だけは、第五回の芥川賞を流してはどうかという意見を持っていたようだった。

-感想-

・「のんき」さ

「のんき」という言葉は良い言葉だと思う。

『暢気眼鏡』はほのぼのとした小説で、いわゆる日本文学らしいジメジメしたところが全くない。

清貧というのともまた違って、非常にさっぱりとした貧乏生活が「のんき」に描かれている。

こうした世界観を構築し得た尾崎一雄の手腕に、まずは目を見張るものがある。

短編集が芥川賞を受賞したのは、この第五回の尾崎一雄が初めてとなる。

それだけに、一連の「芳枝もの」として楽しむと、より味わいの深い作品でもあった。

中でも『猫』は面白い作品だったが、残念ながら下の岩波文庫には収録されていない。

もし芥川賞を受賞した一連の短編集である『暢気眼鏡』を読みたかったら、文藝春秋の『芥川賞全集一』をおすすめする。

尾崎一雄:暢気眼鏡・虫のいろいろ―他十三篇 (岩波文庫) 文庫 – 1998/9/16
冨澤有爲男:単行本 – 1982/2/19

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