宮澤賢治

『注文の多い料理店』あらすじと内容要約!解説&感想も!山猫は心理学を使っていた?

2019年9月30日

『注文の多い料理店』とは?

『注文の多い料理店』は、宮沢賢治が生前に出版した唯一の童話集「注文の多い料理店」の名を冠した、彼の初期の代表作です。

西洋紳士の格好をした二人組のハンターが、山奥で見つけた注文の多い料理店で怖ろしい目にあう物語が描かれます。

子どもから大人まで楽しめる、ミステリーとサスペンスの要素が強い作品です。

ここではそんな『注文の多い料理店』のあらすじ・解説・感想をまとめました。

『注文の多い料理店』のあらすじ内容

東京から来た二人の若い紳士が、趣味の狩猟をするため山に来ています。

しかしだんだん山奥へ入って行くと、付き添いの猟師はどこかへ行き、連れてきた犬は死んでしまいます。

心細くなった二人は下山しようとしますが、途中にあった西洋料理店を目にして入ることにします。

しかしその店は、化け物の山猫がオーナーで、客を料理する怖ろしい料理店でした。

二人の紳士は恐れおののきますが、逃げようとしても扉が開きません。

そこへ死んだはずの犬が勢いよく入ってきて、奥の扉を突き破ります。

すると店は消えて彼らは助かりますが、恐怖にゆがんだそのは、東京に帰っても戻ることはありませんでした。

・『注文の多い料理店』の概要

主人公 二人の若い紳士
物語の
仕掛け人
山猫
主な舞台 山奥
時代背景 1921年頃
作者 宮澤賢治

-解説(考察)-

ここでは、『注文の多い料理店』について以下の二点を解説していきます。

  • 山猫が二人の紳士の足を引き止めた心理テクニック
  • 異世界と現実世界を繋ぐ「風」

物語では、二人の紳士が料理店に出された指示を言う通りに受け取る滑稽さが描かれています。

ですが、その指示を書いた山猫については、案外注目されることが少ないかもしれません。

僕は、その山猫が巧妙な手口で二人を操っていたのだと考えています。

そうしてそれは現代の心理学で説明がつきます。

まずはその心理学から見ていきます。

・山猫のテクニック

その1 フット・イン・ザ・ドア・テクニック

山猫が使ったテクニックのひとつは、フット・イン・ザ・ドア・テクニックです。

なんかいきなりかっこいいのが出ましたね。

これは相手の「Yes」を引き出す心理学のテクニックで、段階的要請法とも呼ばれます。

簡単に言えば、

  1. まずはすぐに出来ることをお願いしてYesをもらう。
  2. すると、次に面倒なことをお願いしてもYESをもらいやすい。

という心理テクニックです。

まずは書類のコピーを頼んでから、その次に本当にお願いしたかったことを言う。すると受け入れてもらえる確率が上がります。

これがフット・イン・ザ・ドア・テクニックです。

では『注文の多い料理店』を見てみましょう。

まず山猫は、二人の紳士にこんなことをさせます。

「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。」

簡単ですね。僕も言われたとおりにすると思います。

次には、

「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」

といいます。これも簡単ですね。

しかし次からが注目です。

  1. 「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」
  2. 「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」
  3. 「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」
  4. 「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」
  5. 「早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振ふりかけてください。」
  6. 「どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」

どうでしょうか?難易度が少しずつ高くなっているのが分かりますね。

最後の塩で、さすがに二人の紳士もおかしいぞと気がつきます。

ですが、もし山猫が最初から、「頭に瓶の中の香水をよく振ふりかけてください。」書くと、二人の紳士は言われたとおりにしたでしょうか?おそらくしないでしょう。

これは、最初に簡単なことをさせておいて、段階的に相手のYesを積み重ねているからこそ、受け入れさせることが出来ているのです。

これが山猫の使った、フット・イン・ザ・ドア・テクニックという心理学的なテクニックです。

その2 返報性の原理

次は物語を少しさかのぼって、二人の紳士が料理店に入る場面を見ていきます。

ここで山猫がみせるテクニックは、

  • 返報性の原理

というものです。

返報性の原理とは、

  • 人は他人に何か施してもらったとき、そのお返しをしようとする心理

のことです。

料理店の門の前には、

「どうぞご遠慮はいりません」

と書いてあり、料理のお金はとらないことを伝えています。

相手にそうしたメリットを与えてから、

「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」

と伝えます。こうすることで、相手にを返させるチャンスを与えているのです。

すると、もちろん二人はこれを了承します。ただでご飯が食べられるのなら、それくらいは我慢してあげようと思うのでしょう。

ですがこれも、最初から「うちは注文が多いから我慢してね」と言うと、訝しがられるかもしれませんね。

すまり最初に相手に恩を売ることで、こちらの要求を飲み込ませやすくしているのです。

こうした返報性の原理を山猫は巧みに用いています。

このようにみると、山猫が心理テクニックを用いてうまく二人の紳士を誘導していることが分かります。

多くの人は、この二人の紳士が素直すぎてまぬけだと思っているかもしれませんが、実は山猫の方が断りにくい状況をつくり出しているのではないでしょうか。

・異世界へ入るきっかけ

多くの古典的な構成の物語には、異世界と通常世界を繋ぐ役割を担うものがあります。

『浦島太郎』で言えば、助けた亀。

『千と千尋』で言えば、冒頭に出てきたトンネル

この『注文の多い料理店』では、がその役割です。

料理店である山猫軒が出現する前、以下のような描写があります。

風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。

どこか不気味な雰囲気ですね。

そうして山猫軒での騒動始まり、それがが終わると、また同じ描写があります。

風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。

つまり、

  • [現実世界]→風→[異世界の黒猫軒]→風→[現実世界]

というふうに、風が異世界と現実世界を繋いでいることが分かります。

宮沢賢治はこうした物語の構成がとても上手な作家です。

なので、他の作品を読むときにも参考にしてみると、物語が分かりやすくなったりもします。

面白い短編が多いので、他の作品もぜひ気軽に読んでみて下さい。

-感想-

・山猫のもくろみ。なぜ顔が戻らなかったのか?

『注文の多い料理店』、僕は好きです。特に山猫がいいですね。

作中で山猫は、子分から毒を吐かれます。

「親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」

たしかに子分の言うとおり、「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう」とは、あまり上手とは言えない書き方ですね。

しかし、あの頭が良くて狡猾な山猫が、そんなミスをするとは思えません。

だからきっと、彼はあえて人間を逃したのだと考えられます。

実は、『どんぐりと山猫』という作品にも、『注文の多い料理店』に出てくるような山猫が登場します。

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『どんぐりと山猫』では、山の奥でどんぐりたちをまとめている山猫の姿が描かれます。

その様子は、まるで山を守る主のようです。

鹿などを趣味で殺しに来た人間が山にいるのであれば、守り主がそれを追い返すのは当然です。

山猫ははじめから人間を喰うつもりはなく、遊び感覚で山の命を奪う二人の紳士を懲らしめるために、あのような仕掛けを張ったのではないでしょうか。

山の恐ろしさが伝われば、少しでも人間を山へ来させなくすることが出来ます。

その証拠に、二人の紳士の顔は東京に戻っても恐怖でしわくちゃになったままです。

彼らはその後の人生で、しわくちゃになった理由を何度も人に尋ねられ、そうして山での怖ろしい出来事を語るのです。

それが何よりも効果的であることを、山猫は考え抜いていたのだと思います。

頭がよくて狡猾な山猫。宮沢賢治作品の中でも特徴的なキャラクターです。

以上、『注文の多い料理店』のあらすじと考察と感想でした。

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