『源氏物語』「帚木」の簡単なあらすじ&感想!和歌の意味から登場人物相関図まで!

2021年10月5日

『源氏物語』第2帖「帚木」のあらすじ

光源氏:17歳夏(5月頃)
「桐壺」の巻から5年後

「物忌」のメンズトーク

光源氏17歳の夏。ある「物忌(凶日には家から出ずに籠もる習慣)」の日の出来事です。

光源氏は友人たちと夜勤をしながら、理想の女性について語り合っていました。

女の「上・中・下」

光源氏の親友である頭中将は、「女には『上・中・下』の品がある」といいます。

さらに話は、良き妻の条件や、どんな女がいやな女か、などへ移り、男たちは女について語り明かします。

空蝉との逢瀬

その翌日、光源氏は紀伊の守の邸へ行きます。

そこにいた空蝉という人妻を見て、この人は「中の品」かな、などと考えているうちに、心が引かれていきます。

そしてその晩、光源氏は空蝉の寝床に忍び込み、なかば強引に契りを結ぶのです。

空蝉を忘れられない光源氏

その後も、光源氏は空蝉を忘れられず、なんども手紙を書きます。

しかし、人妻であるとわきまえている空蝉は、光源氏になびきませんでした。

再訪があったときにも、侍女の部屋に隠れて、会おうとはしなかったのです。

『源氏物語』「帚木」の恋愛パターン

光源氏―空蝉

  • 光源氏:空蝉に思いもよらず拒否され、それゆえに本気になってゆく
  • 空蝉:源氏との個人的な恋よりも、身分や妻としての立場という形式にこだわってなびかない

『源氏物語』「帚木」の感想&面白ポイント

メンズトーク「雨夜の品定め」

「帚木」の巻で面白いのは、やはり「雨夜の品定め」の場面。

光源氏・頭中将・左馬頭・藤式部丞

の4人が、メンズトークに花を咲かせます。

主題は「理想の女性」について。

女性のランクを上中下に分けたり、それぞれの体験談を話したりと、好き放題に話しています。

実は勤務中

会話だけを聞いていると、男4人が集まって恋バナをしているような場面。

ですが、実は4人とも勤務中。

当時の公務員は夜勤が多かったので、仕事をしながら話していたということになります。

  • どんな女性が「上・中・下」に分類されるか
  • どんな女性を妻にすべきか

といった内容は別記事でまとめてあるので、「雨夜の品定め」について詳しく知りたい方はそちらもご覧ください▽

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『源氏物語』「雨夜の品定め」上・中・下の女を徹底解説!

欲求不満な光源氏

さて、夜勤も終わった翌朝、久しぶりの晴天です。

女性たちの話で気分が高まったのか、光源氏は妻・葵の上を求めようとします。

しかし、「方違え(方角を占い、悪い方へは行けないという当時の風習)」で夜を共にできなかった源氏は、さらに欲求が募るんですね。

空蝉との出会い

そうして紀伊の守の邸へ行くのですが、そこにいたのが空蝉という美女。

彼女は人妻でしたが、源氏はそんなことを気にせず(というか人妻好きなところもあるので)、空蝉となかば強引に契りを交わします。

空蝉は光源氏が自分を求めてくると、

こうして無理強いなさるのを、思いやりなく情けないお仕打ちだ。(かくおし立てたまへるを深く情なくうし。)

『源氏物語「帚木」』

と思って、辛い気持ちになっています。

さらに行為が終わると、

空蝉は本当につらい思いで、光源氏が無理矢理したことをあまりのことと思って泣く。(まことに心やましくて、あながちなる御心ばへを、言う方なしと思ひて泣く。)

『源氏物語「帚木」』

とあるように、源氏が無理矢理行為に及んだことを辛く悲しく思っています。

現代なら強姦

もう分かるように、「帚木」での源氏の行為はほとんど強姦で、両者の合意のもとでは行われていません。

ちなみに、そのことは源氏自身も理解しています。

げにいとほしく心恥づかしけはひなれば(〈空蝉の辛そうにしている態度は〉源氏も恥ずかしくなるほどの態度なので)

『源氏物語「帚木」』

この「心恥づかし」というところが、光源氏が自身の行為を恥ずかしいことだと自覚していることを表します。

嫌がっている相手を無理強いして、行為のあとは彼女がさめざめと泣いている。

ほとんど最悪なシチュエーションですが、光源氏はこのような態度の空蝉に、一層心を惹かれていきます。

光源氏が捕まらないのは身分が高いから

現代でいうところの「姦通罪」は、当時の平安時代にもあったことが確認されています。

当時の法令集である『養老律』には、「夫を持つ女性との姦通は懲役二年」と書かれているのです。

しかし、光源氏は罰せられておらず、なんだったら空蝉を部屋から連れ出すときに、「中将」という名の女房と話しているんですね。

「朝になったら迎えに来てね(あかつきに御迎へにものせよ)」

『源氏物語「帚木」』

今からあなたの主人の奥さんと不倫するから、明日になったら迎えに来てね、と言っているわけです。

現代の倫理観からするとあり得ません。

家の主人の妻を他人が連れて行ったのにも関わらず、中将はなにも言えません。

それは光源氏が身分の高い人間だからです。実際に、姦通罪で貴族が裁かれた例もありません。

今後もさまざまな女性と密通をしていく光源氏ですが、そんなことができたのは、当時の社会常識が、現代とは違っているからでしょう。

「初戦敗退」空蝉の拒絶

その後もアタックを繰り返す光源氏ですが、結局空蝉は彼の手には落ちません。

空蝉は彼との恋よりも、自分の身分や人妻という立場をわきまえて、光源氏の再訪をことごとく拒否するんですね。

「世になくきよらなる玉の男御子(この世のものとは思えないほど清らかで美した玉のような男の子)」

として生まれた光源氏。人生ではじめて受けた拒絶です。

このときすでにプレイボーイとして名を馳せていた源氏ですが、物語上では、女性との関係が描かれるのは空蝉が初めて。

なので、主人公・光源氏の初戦は敗退ということになります。

ぼくは『源氏物語』を、

超絶イケメンが数々の女性をたぶらかす話

と思っていたので、最初が実らぬ恋の話だったのは、意外な発見でした。

人妻としての空蝉

光源氏は、幼い頃から藤壺(父親の妻)に恋をしています。

「帚木」に登場する空蝉も、藤壺と同じく人妻の女性。

同じような境遇の相手に、燃えるものがあるのでしょう。

藤壺への欲求を解消するための行為も、「帚木」の回では見られるように思います。

小君と光源氏の男色関係

光源氏は空蝉へ手紙を渡すために、彼女の弟を雇い入れて手元に置きます。

小君と呼ばれる少年は、源氏のために賢明に手を尽くしますが、空蝉の心はつれないものです。

心をくじかれた源氏は、小君で淋しさをまぎらわせようとします。

「よしあこだにな棄てそ」とのたまひて、御かたはらに臥せたまへり(「まあいい、せめてお前だけでも私を見捨てないでおくれ」とおっしゃって、おそばにお寝かせになった)

『源氏物語「帚木」』

当時、男色は珍しいものではなかったようなので、光源氏が空蝉の弟と肉体関係を持っていたとしても不思議ではありません。

平安時代の物語文学は、男女の夜の関係を直接的に描く作品が多かったのですが、『源氏物語』は例外的に、直接的な描写がありません。

そのため想像でしか語ることができませんが、続く第三帖「空蝉」でも、光源氏と小君の関係を匂わせる場面があります。

そちらの方が露骨ですが、「帚木」での男色的な場面も艶めかしい雰囲気になっています。

『源氏物語』「帚木」で詠まれる歌

「帚木」で詠まれる歌は以下の通り。

  1. 手を折りてあひ見しことを数ふればこれひとつやは君がうきふし
  2. うきふしを心ひとつに数へきてこや君が手を別るべきをり
  3. 琴の音も月もえならぬ宿ながらつれなき人をひきやとめける
  4. 木枯らしに吹きあはすめる笛の音をひきとどむべきことの葉ぞなき
  5. 山がつの垣は荒れるともをりをりにあはれはかけよ撫子の露
  6. 咲きまじる色はいづれと分かねどもなほとこなつにしくものぞなき
  7. うち払ふ袖も露けきとこなつに嵐吹きそふ秋も来にけり
  8. ささがにのふるまひしるき夕暮にひるま過ぐせと言ふがあやなさ
  9. 逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならばひるまも何かまばゆからまし
  10. つれなきを恨みもはてぬしののめにとりあへぬまでおどろかすらむ
  11. 身のうさを嘆くにあかで明くる夜はとりかさねてぞ音も泣かれける
  12. 見し夢をあふ夜ありやと嘆くまに目さへあはでぞころも経にける
  13. 帚木の心をしらで園原の道にあやなくまどひぬるかな
  14. 数ならぬ伏屋に生ふる名のうさにあるにもあらず消ゆる帚木

それぞれの意訳や、歌の意味をまとめました。

1.「手を折りてあひ見しことを数ふればこれひとつやは君がうきふし」の意訳&意味

左馬頭→指を噛んだ女

意訳:指を折って私たちが会った歳月を数えてみると、あなたの悪い癖はこれひとつ(指を噛んだこと)ばかりではない

紀有常の歌「手を折りてあひ見しことを数ふれば十と言いつつ四つは経にけり」を引いた歌。

指を噛まれたことから、指を折って数えてみても痛みを感じて、女の悪癖をほかにも思い出されることから連想しています。

2.「うきふしを心ひとつに数へきてこや君が手を別るべきをり」の意訳&意味

指を噛んだ女→左馬頭

意訳:あなたの浮気でつらかったたび、私の胸にその回数を数えてきましたが、あなたの手を噛んだ今度こそは、あなたと別れなければならないのでしょう

自分の欠点を指折り数える夫に対して、その手を噛むことで、もう指を折って数えることはできない(これから私の欠点を数えなくてすむし、私も辛いことが増えることはない)、だからこの時こそお別れなのでしょう。という意味。

身体的な行動と心の揺れ動きが重なっていて、さらに相聞歌を引用しているので、多層的になっています。

3.「琴の音も月もえならぬ宿ながらつれなき人をひきやとめける」の意訳&意味

殿上人→琴の女

意訳:琴の音も月も美しく見えるお宿ですが、薄情な人を引き留めることはできたのでしょうか。

このような風情ある宿に引き留められないなんて、冷淡な男ですね、と自分のことを諧謔的に言っています。

「ひきやとめける」は、「弾き」とめると「引き」とめるを掛けている言葉。

左馬頭の「こんな男女がいたよ」という話の中に出てくる人物たちで、メインの人々ではありません。

4.「木枯らしに吹きあはすめる笛の音をひきとどむべきことの葉ぞなき」の意訳&意味

琴の女→殿上人

意訳:木枯らしの音に合わせるように吹くあなたの見事な笛の音を、引き留めるような琴の音や言葉はありません。

憎らしさをこめての返歌。「ことの葉」は言葉と琴の音がかけられています。

二人は色っぽいやりとりに夢中ですが、横でその様子を見ている左馬頭は冷めている、という場面です。

5.「山がつの垣は荒れるともをりをりにあはれはかけよ撫子の露」の意訳&意味

夕顔(常夏)→頭中将

意訳:山仕事をする人の家の垣根は荒れていても、なにかの折々には情けの露をおかけください、そこへ咲く撫子の花に。

「山がつ」は山の仕事を生業とする身分の低い人で、夕顔自身を卑下して言っています。

「撫子」は子どもを例えていて、私と子どもをたまには訪ねて来て下さい、と切に願っている様子がうかがえます。

6.「咲きまじる色はいづれと分かねどもなほとこなつにしくものぞなき」の意訳&意味

頭中将→夕顔(常夏)

意訳:様々に咲いている花の色は、いずれが美しいのか分かりかねますが、それでもやはり、常夏(あなた)に及ぶものはないでしょう。

相手が撫子(子ども)のことを持ち出したので、まずは母親(常夏)のことを気にかけて詠んだ歌です。

ちなみにこの相手は夕顔といって、後に光源氏との恋も育まれる相手。その子どもの玉鬘(ここでは撫子と表現されている)とも、源氏は関係を持ちます。

7.「うち払ふ袖も露けきとこなつに嵐吹きそふ秋も来にけり」の意訳&意味

夕顔(常夏)→頭中将

意訳:塵を払う袖までも涙で濡れて露っぽいのに、夏が過ぎて嵐まで吹く秋が来たら、あなたに飽きられるのでしょう

頭中将の正妻は、右大臣の四の君。

愛人である夕顔は、四の君に脅迫されていることを、「嵐吹きそふ」でほのめかしています。

そのため、正妻の力に押されてあなたは会いに来なくなるのでしょう、という意味とも重ねられています。

8.「ささがにのふるまひしるき夕暮にひるま過ぐせと言ふがあやなさ」の意訳&意味

藤式部丞→にんにくの女性

意訳:私が夕暮れに来るのは蜘蛛の動きで分かっていたでしょうに、昼間(蒜〈ニンニク〉の臭いが消えるまでの間)を過ごせというのは道理が通りません

「ささがに」は小蟹のこと。転じて蜘蛛を表す枕詞です。

中国古来の俗習では、蜘蛛が巣を張ると思い人が来るというものがあり、そのことを引いています。

9.「逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならばひるまも何かまばゆからまし」の意訳&意味

にんにくの女→藤式部丞

意訳:夜ごとに会っている仲ならば、どうして昼間に会うのが恥ずかしいのでしょうか。にんにくの臭いがするときだってお会いするでしょうに。けれども私たちはそような仲ではないのですから、昼間に会うのは恥ずかしいのです。

「ひるま」は「昼間」と「蒜〈にんにく〉間」をかけた言葉です。

あまり趣のない滑稽な歌で、話を聞いていた頭中将や左馬頭などからは、「うそだうそだ」と笑いながらはやし立てられています。

10.「つれなきを恨みもはてぬしののめにとりあへぬまでおどろかすらむ」の意訳&意味

光源氏→空蝉

意訳:あなたの薄情さを恨んでも、恨みきる間もなく朝がきて、鶏がまでが物も取り合えぬほど慌ただしく、私の目を覚まさせるのであろう

「とりあへぬ」は「鶏」と「取り」がかけられています。

5月の朝なので、空が白みはじめるとどんどん明るくなってゆく様を表しています。

11.「身のうさを嘆くにあかで明くる夜はとりかさねてぞ音も泣かれける」の意訳&意味

空蝉→光源氏

意訳:我が身の辛さを嘆き尽くす間もないのに、空が明るくなってきて、鶏の声に重ねて、私も泣かずにはおられません

光源氏に強引に迫られ、辛く思って泣いている心境を歌ったもの。

「あかで」は「飽かで」と「明かで」がかけられています。

12.「見し夢をあふ夜ありやと嘆くまに目さへあはでぞころも経にける」の意訳&意味

光源氏→空蝉

意訳:あなたと過ごした夜のように、また会える夜があるだろうかと嘆いている間に、眠れぬまま幾日も過ぎてしまいました

「目が合う」は目を閉じる(眠る)という意味で、あなたに会えないし、だから目も合わない(眠れない)と「あう」を使っています。

「見し夢」は共に過ごした夜のことをほのめかしていますが、他人が見ても分からないようになっています。

13.「帚木の心をしらで園原の道にあやなくまどひぬるかな」の意訳&意味

光源氏→空蝉

意訳:帚木のように近寄ったら消えてしまうあなたの心を知らずに、園原の道に迷ってしまったのでしょうか

坂上是則の「園原や伏屋に生ふる帚木のありとて行けど逢はぬは君かな」という歌を引いています。

遠くからは見えるのに、近寄ったら見えなくなるという長野県の園原伏屋にある「帚木」の伝説を、空蝉のつれない心にたとえています。

14.「数ならぬ伏屋に生ふる名のうさにあるにもあらず消ゆる帚木」の意訳&意味

空蝉→光源氏

意訳:みすぼらしい伏屋の生まれと言われるのが辛いので、いるにもいられず消えてゆく帚木(わたし)です

源氏が引用した歌にゆかりのある「伏屋」を、みすぼらしい家(=身分の低い者が暮らす家)にすり替えて、自分の身の低さに転じさせて詠んだ歌です。

身分を嘆いたこの歌は、前半部の「雨夜の品定め」で話されていた「中の品」である女性の声として、この巻末で響きます。

『源氏物語』「帚木」の主な登場人物

光源氏

このとき17歳。初恋の空蝉と、半ば強引に関係を持ちます。

空蝉

紀伊の守の後妻。光源氏にせまられ、一度は身体を許してしまいます。

小君

空蝉の幼い弟。光源氏に気に入られ、男色関係もほのめかされます。

頭中将

光源氏の親友。「雨夜の品定め」で、女の「上・中・下」論を繰り広げます。

左馬頭

恋愛経験豊富な男性。「雨夜の品定め」で語らう四人のうちの一人。作中では一番おしゃべりな人です。

藤式部丞

「雨夜の品定め」で語らう四人のうちの一人。少し滑稽な話をして、みんなから面白がられます。

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