源氏物語

源氏物語「篝火」あらすじ&和歌の現代語訳まで!玉鬘が光源氏を見直した理由とは?

2022年7月1日

『源氏物語』第27帖「篝火」のあらすじ

光源氏:36歳

頭中将を批判する光源氏

光源氏は近江君を軽率に扱う頭中将を批判します。

玉鬘はそんな近江君と自身を引き比べ、光源氏の深い思いやりに感謝するのでした。

光源氏、危うく一線を超えそうになる

秋になり、風が涼しく吹き出す頃、光源氏は玉鬘のもとへ足繁く通います。

次第に心を許し始めた彼女と接近する機会に恵まれますが、光源氏はなんとか自制し、あと一歩を踏み出しません。

頭中将の息子たちと音楽を奏でる篝火の夜

その日の帰り、夕霧の屋敷から良い音が聞こえてきて、柏木と弁少将が来ていることを知ります。

光源氏は彼らを誘い、涼しげな篝火のなか、管弦の遊びに興じるのでした。

『源氏物語』「篝火」の恋愛パターン

光源氏―玉鬘

  • 光源氏:玉鬘のもとへ足繁く通うも、最後は自制する
  • 玉鬘:次第に光源氏の人となりが分かり出し、少しずつ気を許し始める

『源氏物語』「篝火」の感想&面白ポイント

玉鬘の心理遷移

「篝火」巻では、これまで光源氏を拒んでいた玉鬘が、少しだけ好意的になる様子が描かれます。

そうなった理由は、頭中将(内大臣)が近江君にした仕打ちを聞いたこと。

彼は前巻の「常夏」で、身分の低い女性との間に生まれた子である近江君を引き取りました。

しかし、彼は近江君がはしたなく、頭も良くない娘であることを知ると、明らかにぞんざいに扱い、彼女は笑いものとなったのでした。

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玉鬘は頭中将の娘であり、現在はその真実を隠して光源氏に庇護されていたので、いつかは父に会いたいと思っていました。

ですが、近江君の噂を聞くと、光源氏に世話をしてもらい六条院で過ごしている自分がどれだけ恵まれているのかを悟ります。

父の頭中将に娘であることを名乗り出しても、良く扱ってもらえるという保証はありません。

光源氏もその可能性を考えていたので、すぐには玉鬘と頭中将を会わせず、良い縁談でも決めてから打ち明けようと思っていたのでした。

こうした経緯から、これまでは光源氏に嫌悪感を抱いていた玉鬘ですが、「篝火」巻では少しだけ気を許しています。

玉鬘(成人)
言い寄ってくるだけの嫌なおじさんと思っていましたが、私のことをよく考えてくれていたのですね・・・

▽「玉鬘が光源氏の思いやりの深さに気づくシーン」本文

近江君がぞんざいに扱われていることを聞くと、「ああ、たとえ親であってもその人となりを知らずにお側に参ったなら、そのような恥ずかしいことにもなるのですね」と玉鬘は自身の幸せを思い知り、玉鬘の女房である右近も今の状況がどれだけ恵まれているかを聞かせるのだった。

(かかるにつけても、げによくこそと、親に聞こえながらも年ごろの御心を知り聞こえず馴れたてまつらましに、恥ぢがましきことやあらまし、と対の姫君思し知るを、右近もいとよく聞こえ知らせけり)

『源氏物語「篝火」』

なんとか自制した光源氏

そんなことなので、以前にも増して玉鬘と仲良くする光源氏。

光源氏
あれ?なんか最近ガード緩くなってる・・・?

ついには、二人で琴を枕にするという大胆さを見せます。

琴は固そうですが、それを除けば一番楽しい瞬間です。

若かりし光源氏なら問題が起こっていたかもしれませんが、彼はもう36歳。

それに世間体的には玉鬘とは親子であり、このことが外に漏れたら世間の不評は免れません。

なんとか自制して立ち上がり帰ろうとしますが、玉鬘の美しさに引かれて帰る決心が着きません。

帰りたくないなぁ〜と思いながら、ちゃっかり玉鬘の髪を掻き撫でつつ、ぐずぐずしています。

小助
夢中になっている恋人の家から帰りたくない人間の心理は、1000年前から変わらないようです

歌を詠んで恋情を訴えるも、「人に見られたらなんて思われるか分かりませんよ」という言葉に、ついに立ち上がります。

隙がありすぎる玉鬘

玉鬘はこのとき22歳。いまだに経験のない彼女ですが、隙がありすぎて危なっかしいです。

20歳までは九州の田舎で箱入り姫として乳母たちに大切に育てられ、21歳からは光源氏の庇護下で暮らしているからですね。

六条院に玉鬘を求めてくる男性たちも多くいますが、ほとんどは手紙の返事すらもらえない状況。

ただし、光源氏だけは恋心を持ちながら頻回に会いにくるので、玉鬘が持つ「男性」のイメージは、中年の光源氏で構成されていることでしょう。

彼がいまだに美男子であるとはいえ、かつての欲はどこへやら、中年の光源氏はすっかり落ち着いたおじさんになっています。

もちろん、玉鬘が世間体的には娘であることも抑制になっており、若い男性と比べると彼女に対する勢いは比べものにならないでしょう。

そんな光源氏とばかり過ごしているのですから、玉鬘の男性に対する隙は自然と大きいものになっていくことが考えられます。若く衝動的な男性が現れた場合、その危険度はかなり増すでしょう。
小助
現代の感覚なら、髪を撫でられている状況などは、もう少し危機感を覚えたほうが良い場面ですよね

どれだけ好機が訪れても何も起こらない状況を見て、

玉鬘(成人)
噂に聞くより、男性は案外怖くないのかも・・・

なんて思っている可能性があります。

例えば空蝉などは、若い頃に一瞬の隙をつかれて光源氏に襲われました。そのため、夫の伊予介が亡くなり、その隙に迫ってきた義理の息子に危険を感じたとき、すぐに出家しています。

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それに加えて、玉鬘は都へ来てから田舎であまり読めなかった物語に熱中しており、恋愛の多くを物語から学んでいると察せられます(玉鬘の周りには恋慣れた女房がいません)。

物語は「そらごと」の書物だと光源氏が言ったように、全ての恋愛が美しいものではなく、現実はいつでも残酷です。

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「篝火」巻で描かれる篝火の炎は、玉鬘の美しさを浮かび上がらせる趣がある一方で、彼女に迫る危険の象徴としても燃えているように思います。

次巻の「野分」は、光源氏の息子・夕霧の視点から、六条院にいる女性たちが描かれてゆきます。

『源氏物語』「篝火」で詠まれる和歌

篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬほのほなりけれ(光源氏)1a

(光源氏)篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬほのほなりけれ

意訳:篝火とともに立ち上る恋の煙は、いつまでもあなたを想い続ける私の恋の炎なのです

玉鬘の髪を掻き撫でながら、それ以上の行動は起こさない光源氏。

小助
周囲の目が憚られるも、立ち去りがたく思っているときに詠んだ歌です。

この歌の後に、「いつまで待たすのですか。なんでもないようにしていますが、私は苦しく思っているのですよ(いつまでとかや。ふすぶるならでも、苦しき下燃えなりけり)」と続きます。

行く方なき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば(玉鬘)1b

(玉鬘)行く方なき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば

意訳:篝火とともに立ち昇る煙とおっしゃるなら、この大空でお消しになってください

光源氏の歌(1a)への返歌。拒み続けることしか選択肢がない玉鬘は、源氏の恋情を受け流します(光源氏は世間体的に実父)。

歌の後には、「そんなことを言うと人が訝しみますよ(人のあやしと思ひはべらむこと)」と続きます。

秋の涼しい風のなか、情趣豊かに交わされる「篝火」の歌。

背景に焚かれる篝火は、ほのかに照らし出される玉鬘の美しさを浮かび上がらせつつ、静かに燃え上がる源氏の恋情を象徴します。

『源氏物語』「篝火」の主な登場人物

光源氏

36歳。頭中将(内大臣)の近江君の扱いを批判する。

玉鬘と良い雰囲気になるも自制する。

玉鬘

頭中将による近江君の扱いを聞き、自身の幸福を顧みる。

その分、光源氏に親しみを持つようになる。

夕霧

柏木や弁少将と管弦の遊びをしていたところ、光源氏に誘われて一緒に奏でる。

柏木

夕霧の住居で管弦の遊びをしていたところ、光源氏に誘われる。

玉鬘を実の姉とは知らず、緊張してしまう。

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