『ぼくらが漁師だったころ』あらすじ&内容・感想までを紹介!

『ぼくらが漁師だったころ』のあらすじ・内容

舞台は1990年代ナイジェリア

『ぼくらが漁師だったころ』は、1990年代のナイジェリアの町・アクレを舞台に、ひとつの家族の人生が描かれる物語です。

主人公は一家の四男ベンジャミン(9歳)。上には3人の兄がいて、長男が15歳、次男が14歳、三男が11歳でした。4人の絆は非常に強く、いつも一緒に過ごしています。

裕福な家庭で「釣り」にはまる子どもたち

父親は銀行員としてはらたき、ナイジェリアでは〈特権階級〉と言われるほど家庭は裕福でした。彼は子どもたちを医者や弁護士、大学教授にする未来をいつも夢見ていました。

とはいえ遊び盛りの子どもたちは、あるとき「釣り」の面白さにどっぷりとはまり、立ち入り禁止の「呪われた川(オミ・アラ川)」にまで行って釣りをするようになります。そこで事件は起こるのです。

狂人アブルの予言をきっかけに物語が動き出す

いつものように釣りから帰る途中、アクレの町で有名な狂人――母親を陵辱し弟を刺し殺した「アブル」と川辺で出会い、彼は主人公の兄である長男・イケンナに向かって、怖ろしい予言を言い放ちます。そこから、主人公ベンジャミンの一家に、次々と不審なことが起こっていくのです。

・『ぼくらが漁師だったころ』の概要

物語の中心人物 ベンジャミン(9歳)
物語の
仕掛け人
アブル(男性の狂人・預言者)
主な舞台 ナイジェリア・アクレ町
時代背景 1990年代前半~2003年頃
作者 チゴズィエ・オビオマ
チゴズィエ・オビオマ(著),粟飯原文子(翻訳)

『ぼくらが漁師だったころ』を読んで分かること

  • 現代ナイジェリア史(1993年代〜2000年代前半)
  • ナイジェリアで使用される言語模様(イボ語・ヨルバ語・英語)
  • イボ族の信仰・思想(主としてキリスト教だが、土地の伝承や精霊などの思想も)

・物語のキーワード

現代ナイジェリア・少年心理・川・釣り・冒険・兄弟愛・狂人・予言・呪い・悲劇・キリスト教・イボ族・迷信・家族愛・猜疑心・運命・ビアフラ戦争・独裁政治・軍事政権・闘い・希望

『ぼくらが漁師だったころ』の登場人物

○ベンジャミン(主人公)

主人公で物語の語り手。通称「ベン」。9歳で四男。気が弱く、いつも兄たちの言うことに追従していたため、自分で何かを決めたり考えたりすることが少ない。生き物が好きで、物語の語りではしばしば動物を用いた格言的な形容をしている。自分のことは「蛾」であると言っている。

○イケンナ(長男)

アグウ一家の長男。15歳。弟思いで、長男として弟たちをいつも守っている。しかし、後述する狂人アブルと出会ってからは、次第に暗い性格へと変わっていく。ベンからは「ニシキヘビ・スズメ」と形容される。

○ボジャ(次男)

14歳。イケンナと同じ部屋を与えられているため、彼と一番仲が良い。そのぶん喧嘩も多く、2人の仲違いが物語を動かすきっかけにもなる。ベンからは「菌」と形容される。

○オベンベ(三男)

11歳。主人公のベンと一番年の近い兄弟で、同じ部屋を与えられている。序盤では精神的に幼かった彼だが、物語内で様々な経験をして、登場人物の中ではもっとも大きく成長する。ベンからは「捜索犬」と形容される。

○アブル

母親を陵辱し、弟を殺している狂人であり、物語の仕掛け人。預言者としての側面をもっており、彼の予言することはたいていその通りになる。アグウ一家の兄弟たちが彼に出会うことにより、物語は加速的に動き出す。

○父親

アグウ家の大黒柱。銀行員として働く。プジョーに乗っており、子どもたちは周りの人に〈特権階級〉だと冷やかされるほど大きな収入を得ている。厳格な教育で、子どもたちを成功させようと夢見ている。単身赴任のため週に一度しか家に帰れない。ベンからは「ワシ」と形容される。

○母親

イボ族出身の女性。キリスト教信者だが迷信深いところもある。家に夫が不在のため、子どもたちの横暴を抑えきらなくなる母親として描かれる。彼女の目を盗んで子どもたちは川釣りをしに行き、そこでアブルと出会い事件が起こり始める。ベンからは「鷹使い」と形容される。

『ぼくらが漁師だったころ』の感想

狂人アブルの迫力

主人公を含む4人の兄弟や、狂人のアブル、イボ語・ヨルバ語・英語を織り交ぜて話す両親など、短い物語にも関わらず登場人物がそれぞれ際立っていたところは本書の魅力。特にアブルの狂人ぶりは迫力があり、彼が町を徘徊している描写などは、本越しにも近づきたくない恐ろしさと嫌悪感を感じるくらいでした。

ナイジェリアの文化&近代史を家族史で表現する巧さ

近代化&西洋化されつつあるナイジェリアの文化と、呪術的かつ神秘的な土着思想が絡みながら物語が展開していくさまは、この物語最大の特徴です。また、主人公一家の家族史が、そのままナイジェリアの近代史を比喩的に表しているという構図も、ナイジェリアについてあまり深く知らない僕からすると興味深かった部分です。最初は「なぜ主人公が四男なんだろう?」と思っていましたが、読めば納得です。

『ぼくらが漁師だったころ』は国際的にも評価が高く、作者のデビュー作にしてブッカー賞の最終候補にもなった小説ということ。若きナイジェリアの才能に触れられる一作です。

チゴズィエ・オビオマ(著),粟飯原文子(翻訳)

小助(こすけ)

「気楽に文学を読む」がモットー。好きなジャンルは純文学。 文学作品の感想&解説記事、読書アイテムや読書法などを書いています。