『源氏物語』第37帖「横笛」のあらすじ
女三の宮と若君
柏木が亡くなってから一年が経ち、彼が遺した息子の薫も大きくなりました。
49歳になった光源氏は、無邪気な薫の姿を見て、彼の将来に思いを馳せます。
夕霧と落葉の宮の対話
夕霧は柏木の遺言を守り、落葉の宮のもとへ通っています。
彼女の母・御息所は、柏木が残した由緒ある横笛を夕霧に贈ります。
雲居雁とのやり取り
落葉の宮のもとへばかり行っている夕霧を見て、妻の雲居雁は面白くありません。
夕霧は夕霧で、自分たちの関係に新鮮味がなくなっていることを感じます。
光源氏と夕霧の対峙
夕霧は笛のことを父の光源氏に話し、ついでに柏木との間に問題がなかったか探りを入れます。
夕霧は薄々、薫が柏木と女三の宮の息子であることに気づいているのです。
しかし、光源氏はしらばっくれて、ただ笛だけを預かろうと言うのでした。
『源氏物語』「横笛」の恋愛パターン
夕霧―落葉の宮
- 夕霧:騒がしい所帯を持つ自分とは対照的に、静かで風雅な暮らしの落葉の宮に心惹かれる
- 落葉の宮:柏木が亡くなってから1年も経つのに、丁寧に見舞ってきてくれる夕霧に感激する
『源氏物語』「横笛」の感想&面白ポイント
夕霧が落葉の宮に心惹かれてゆく
これまで一途な男として描かれてきた夕霧。
彼は光源氏の息子ながら、純愛を貫いた男でした。
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しかし、柏木の遺言通り落葉の宮もとへ通っていると、風流な彼女に次第に心惹かれていきます。
夕霧の邸は子どもも多く所帯じみているので、落ち着いた落葉の宮の邸がいっそう魅力的に感じるのでしょう。
つまり、
- 独身女性・落葉の宮の優雅な暮らし
- 母親・雲居雁の慌ただしい暮らし
が対比的に描かれているこの巻からは、家庭から日常から抜け出し、非日常を求めて浮気する夕霧の、現代にも通ずるような男性心理が読み取れます。
▽落葉の宮の暮らし
落葉の宮はくつろいだ感じで琴などを弾いていたところらしい。来客を知ってもその琴をしまうこともなく、夕霧を南の廂に入れさせた。端の方にいた女房が膝立ちで入って来る気配などもよく分かって、その衣ずれの音も、漂っている香りも、落ち着いて奥ゆかしく感じられる。
(うちとけしめやかに御琴どもなど弾きたまふほどなるべし。深くもえとりやらで、やがてその南の廂に入れたてまつりたまへり。端つ方なりける人のゐざり入りつるけはひどもしるく、衣の音なひも、おほかたの匂ひ香ばしく、心にくきほどなり。)
『源氏物語「横笛」』
▽雲居雁の暮らし
子どもはひどく泣いて、乳を吐いたりもするので、乳母も起き騒ぎ、雲居雁も火明かりを持って来させて、髪を耳にかけながら忙しく世話をして、抱いてあやしている。彼女はふくよかな身体で、豊かな美しい胸を子どもに含ませる。
(この君いたく泣きたまひて、つだみなどしたまへば、乳母も起き騒ぎ、上も御殿油近く取り寄せさせたまて、耳はさみしてそそくりつくろひて、抱きてゐたまへり。いとよく肥えて、つぶつぶとをかしげなる胸をあけて乳などくくめたまふ。)
『源氏物語「横笛」』
優雅な独身女性(正しくは寡婦)と、忙しない母親の対比が分かりやすく描かれています。
本当にひどい話ですが、
という「当時の妻としての心得」を、紫式部は伝えたかったのかもしれません。
もちろん雲居雁は、帰りが遅い夕霧に対して不満が募っています。
しかしそんな雲居雁をよそに、落葉の宮との恋にのめり込んでいく夕霧の姿が、次巻「夕霧」では描かれていきます。
光源氏と夕霧の対峙〜柏木の笛〜
落葉の宮の邸を訪れるうちに、その母・御息所と仲良くなった夕霧は、柏木の残した笛を彼女から貰い受けます。
しかしその笛をもらった日の夜、夕霧の夢に柏木が出てきます。
夕霧は、女三の宮の息子が柏木との密通の子であることをなんとなく勘付いているので、笛を光源氏のもとへ持っていきます。
彼は柏木の死後1年を経て、ようやくその真相を探る機会に恵まれたわけです。
こうして夕霧と光源氏の対面は終わりました。
二人が対峙する場面は過去にも何度かありますが、いつも互いの駆け引きがとても面白い場面になっています。
さて、柏木の笛が光源氏に渡り、物語は笛を伝えられる柏木の息子・薫へと繋がっていく方向を見せます。
しかし、薫はまだ1歳。
しばらくは夕霧と女三の宮の恋愛を軸に物語は進みます。
『源氏物語』「横笛」の主な登場人物
光源氏
薫の成長の速さを目の当たりにして、その子の将来を思う。
夕霧と対峙し、柏木と女三の宮の密通を探られるが、素知らぬふりをする。
夕霧
柏木の妻・落葉の宮に心惹かれてゆく。
光源氏に柏木との間に起こった問題を探る。
落葉の宮
夫の柏木が死んでから一年も真面目に見舞いを続ける夕霧に感謝する。
母の御息所と夕霧の三人で音楽に興じる。
雲居雁
子がたくさん生まれて慌ただしい日々を送る。
夫の夕霧の帰りが遅いことを面白く思わない。
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