『源氏物語』第5帖「若紫」の簡単なあらすじ
光源氏、病に臥せて北山へ
18歳になった源氏は、三月頃に病気になります。
名高い僧に治してもらうため、北山へと向かいました。
そこで光源氏は、まだ10歳ほどの若紫と出会います。
若紫との出会い
少女の容姿は、源氏が心から恋しく思っている藤壺にそっくりでした。
若紫は母親が早くに亡くなり、父宮(兵部卿宮)は不在がちなので、光源氏は「彼女を引き取って世話をしたい」と申し出ます。
若い頃から世話をして、光源氏の理想的な性格の女性に育てたいのです。
しかし、「まだ幼すぎるので・・・」と女房にやんわりと断られます。
藤壺の懐妊
その頃、源氏は藤壺と一度きりの逢い引きをします。
そしてその一度で、藤壺は光源氏の子を身ごもったのです。
藤壺は帝の妻なので、実の父親が光源氏だということを明かせません。
そうとは知らず喜んでいる帝の姿に、藤壺も光源氏も心苦しく思います。
若紫の拉致
秋になり、若紫の祖母が亡くなると、父宮(兵部卿宮)が若紫を引き取ろうと考えます。
そうなっては彼女と会えないと思った光源氏は、若紫の拉致を企てます。
若紫とその乳母の二人を車でさらい、二条院へ連れてきて絵などを見せているうちに、最初はこわがっていた若紫も、次第に打ち解けてゆきました。
いまでは光源氏を父代わりとして親しんでいる若紫。
そんな彼女を見て、源氏は少女の未来に期待を寄せるのでした。
『源氏物語』「若紫」の恋愛パターン
光源氏―若紫
- 光源氏:藤壺にそっくりな少女の若紫を、将来の妻にしたいと思って迎え入れる
- 若紫:10歳だった彼女は、訳も分からず二条院へ連れてこられ、源氏を父代わりとして慕い始める
『源氏物語』「若紫」の解説
葵上との不和
葵上とは結婚当初から上手くいっていなかったのですが、ここにきて不和が強調されています。
「若紫」の冒頭で、光源氏はわらわ病み(マラリアに似た発作を伴う病気)にかかっています。
二人きりになったとき、源氏はそのことを問いただします。
病でとても辛かったところ、少しの見舞いの言葉でもかけてくれないのは、いつものことで珍しくもありませんが、やはり恨めしいことです。
(耐へがたうわづらひ侍りしも、いかがとだに問ひたまはぬこそ、めづらしからぬ事なれど、なほうらめしう)
すると葵上はしばらく間を置いて、ひと言だけ切り返します。
「問わぬ」というのは不親切なことでしょうか
(問はぬはつらきものにやあらん)
これは、
と、日頃の女遊びを言い含めて、夫を批判している切り返しです。
まあ葵上の態度にも一理ありますね。
また「問わぬ」という言葉は、一つ前の「夕顔」にあった空蝉の歌も連想させます。
問はぬをも/などかと問はで/ほどふるに/いかばかりかは/思ひ乱るる
意訳:私がお見舞いしないのを、なぜかとお尋ねくださることもないので、時が経つにつれて、どれほど私は思い乱れることでしょう
(空蝉→光源氏)
空蝉が、病に臥せる光源氏にあてた手紙の中で詠んだ歌です。
しかし、光源氏としては面白くありません。
葵上への恨みを言い訳にして、ほかの人への恋をいっそう燃え上がらせます。
藤壺との密会
葵上と口論になってからしばらくした頃、藤壺が病にかかって宮中を離れます。
藤壺付きの王命婦を追い回して、なんとか取り次がせ、少しの間だけ会うことに成功するのです。
そのため、王命婦は光源氏と藤壺の関係を知っている唯一の人物です。
この密会が4月頃。その三ヶ月後くらいに、藤壺懐妊の噂が流れます。
帝は喜びますが、藤壺と光源氏、それから王命婦だけは、本当の父親が光源氏だということを知っています。
この子は後に「冷泉帝」となり、光源氏の人生の後半を彩るための重要なキーパーソンとなります。
藤壺と若紫の血縁関係
この巻で光源氏が興味を引かれるのは、藤壺のそっくり少女・「若紫」です。
彼女が藤壺と似ているのは、おばと姪の血縁関係にあるから。
図解するとこんな感じです▽
こうした血縁関係が、二人の容姿が似ている理由です。
光源氏は藤壺が大好きなので、彼女に似ている若紫を育て、将来の妻にしようと考えます。
つまり光源氏は、
- おばの藤壺
- 姪の若紫
どちらをも手中におさめようとしているわけですね。
感想&面白ポイント
あどけなく可愛い若紫
光源氏が初めて見た若紫は、とても可愛らしい少女でした。
ほかの子とは比べものにならず、成人後の美しさはさぞやと思われるほど、かわいらしい顔立ちである。
(あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えて、美しげなる容貌なり)『源氏物語』「若紫」
また若紫は、
- あどけなく幼い少女
として描かれています。
以下のセリフからも、若紫の幼さは表れています。
雀の子を犬君(女の子の名前)が逃がしてしまったの。かごの中に入れて置いたというのに。
(雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠の中に籠めたりつるものを)『源氏物語』「若紫」
もちろん光源氏は、若紫の「生ひ先(将来)」に惹かれたので真っ当な大人です。
しかし、明らかに幼い彼女だからこそ、性格を自分好みに育てて、理想の女性に仕立て上げようと思ったのでしょう。
好きな見た目を選んで、好きな性格にカスタマイズする。理想的な異性の完成です。
しかし、若紫はロボットではなく人間。
当然彼女との恋愛は思い通りにいかない部分も出てきて、物語的にはそこが面白くなっていきます。
ちょっとやりすぎ?な光源氏
第3帖の「空蝉」を読んだときも、光源氏の強引さには、
と思いました。
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『源氏物語』「空蝉」あらすじを簡単に!感想&和歌の意味・登場人物相関図まで!
ところが今巻の「若紫」では、彼女を勝手に連れ去るという力技に出ます。
若紫を手元に置いておく方法がほかに無かったとはいえ、これはさすがにやりすぎでしょう。
空蝉の事件に次いで、現代の倫理観では考えられない2つ目のポイントでした。
そうした光源氏の姿勢が、後の大成にも繋がっていくのでしょうか。
物語の主人公なら、このくらいのことはしなければいけないのかもしれません。
若紫との初対面
それから、光源氏が若紫にくっつこうとする場面も、高貴な家柄&眉目秀麗だから許されるというレベルです。
そのときの会話は以下の通り。
少納言:直衣(男の衣装)を着た人がいらっしゃいましたよ
若紫:直衣を着ているという方はどちら?お父様が帰ってきたの?
光源氏:お父様ではありませんが、他人扱いはできませんよ。こちらへいらっしゃい
若紫:(いやだな・・・)少納言、さあ行こうよ。眠たいもの
光源氏:今さら逃げなくとも、わたしの膝の上でおやすみなさい。もう少しこちらに寄って
乳母:ですから申し上げました通り、まだ聞き分けのない子どもでして・・・・(若紫を源氏のもとへ押しやる)
光源氏:〈若紫の着物などに触れて、手をつかまえる〉
若紫:〈知らない人に触られたり近寄られたりするのが気味悪く、怖ろしい〉眠たいというのに〈と言って逃げようとする〉
光源氏:〈若紫のいる御簾の中にするりと入って〉これからは私がお世話をしてさしあげます。だから逃げたりしないでください。
乳母:御簾にまで入られるなんて困ってしまいます。まだ年も若いというのに・・・
光源氏はこのまま若紫と寄り添い、明け方になってようやく帰るのです。
光源氏がこのとき18歳、若紫は10歳ころです。
「この世の人とは思えないほどの美しさ」と形容される光源氏でさえ、個人的にはちょっと気持ち悪さを感じてしまいます。
と同時に、光源氏が若紫にそれほどまで魅力を感じている、ということも伝わってくるんですね。
このようなインパクトのある出来事描くことで、物語が劇的に進んでいくところも、『源氏物語』の面白さだと思います。
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