『源氏物語』第6帖「末摘花」のあらすじ
末摘花の噂を聞く光源氏
18歳になった光源氏は、高貴な身分でひっそりと暮らす「末摘花(すえつむはな)」の噂を聞き、興味をそそられます。
彼女にどうにかして会いたいと思い、コネを使って邸まで行きます。
そこで彼女の琴の音を聞きますが、もう少し聞きたいと思ったところで、音は止みます。
跡をつけていた頭中将
光源氏が邸から帰ろうとすると、親友の頭中将に見つけられます。
彼は、光源氏がどこへ行くのだろうかと、こっそりと跡をつけていたのです。
二人はからかい合いながら、仲良く家まで帰ります。
競い合う源氏と頭中将
頭中将と光源氏は、末摘花を自分のものにしようと競い合います。
たがいに手紙を送りますが、どちらにも返事はきません。
そうしているうちに、春と夏が過ぎました。
末摘花との初逢瀬
秋の頃、光源氏はついに、末摘花との逢瀬にまでこぎつけます。
しかし、恥ずかしがってばかりいる末摘花は、二人のときも、布団にいるときも物を言いません。
そんな彼女に対して、どこか不信感を覚える源氏でした。
初めて見る素顔に驚く源氏
冬になり、源氏は久しぶりに末摘花を訪れようと思い、邸へ出向きます。
翌朝、夜明けの光で彼女の顔を初めて見ると、真っ赤な鼻先に長い顔、とにかく肝を潰すほどの醜悪ぶりで、源氏は仰天します。
源氏は若紫のいる二条院に戻り、末摘花の醜い顔を思い出しては、赤い鼻の女の絵を描いたり、自身の鼻も赤く塗ったりして戯れるのでした。
『源氏物語』「末摘花」の恋愛パターン
光源氏―末摘花
- 光源氏:高貴でひっそりと暮らす末摘花に惹かれる
- 末摘花:恥ずかしがりで、ほとんど喋らない
『源氏物語』「末摘花」の感想&面白ポイント
頭中将との競い合い
第6帖「末摘花」の見どころは、光源氏と頭中将が末摘花をめぐって競い合うところでしょう。
二人は末摘花に手紙を送りますが、どちらにも返事はきません。
そのことを、頭中将は正直に言います。
あの姫様からお返事は来ましたか。私は試してみたのですけれど、返事も来ず相手にされないのです。
(しかじかの返りごとは見たまふや。こころみにかすめたりしこそ、はしたなくてやみにしか)
『源氏物語』「末摘花」
これを聞いて光源氏は、
- (頭中将め、やはり手紙を送っていたのだな・・・)
と、思わず笑顔を見せます。
そしてこう切り返します。
なに、返事を見ようとも思わないから、見ることもないですね。
(いさ。見むしとも思はねばにや、見るとしもなし)
『源氏物語』「末摘花」
本当は光源氏にも返事は来ていません。
それを聞いた頭中将は、「末摘花は私を見限ったか?」と邪推します。
この二人の競争が、「末摘花」の面白いところです。
末摘花はどのくらい醜いのか?
この巻で衝撃的なのは、末摘花がびっくりするくらい醜い女だったこと。
簡単にまとめると、以下のような特徴があります。
- 胴が長い
- 背中が曲がっている
- 象のように長い鼻
- 鼻の先は赤い
- あごが長い
- 額も広い
- 顔色は白く青みがかっている
- 着物の上からでも骨張っているのが分かるほど痩せている
- 古風できたない服
- 黒貂の毛皮を羽織っている(若い女性には似合わない)
- 頭の形と髪だけは良い
いわゆる「魔女」のような姿を想像すると良いのでしょうか。
たしかに醜いかもしれません。
しかし驚くべきなのは、この容貌を知るまでに、何度も夜の暗闇で会っていること。
ただ、光源氏はなんとなく感づいていたようで、容貌を見たときに「さればよ(やっぱりか・・・)」と言っています。
長いですが、本文と意訳も載せておきます。
まず胴が長く、背が曲がって見えるので、「やはりか」と胸のつぶれる思いである。特にみっともないと思われるのは鼻であった。ふとそこに目が止まってしまう。普賢菩薩が乗る象のようだ。驚くほど高く伸び、先の方は垂れて赤くなっている。肌の色は雪のように白く青みがかっていて、額はとても広く、そのうえ顎も長く出ている。痩せていることといったら、着物の上からでも骨張っているのが分かるほどだ。(中略)表面がとても白茶けているかさねを着て、その上にもとが何色かも分からない黒い袿、表着には黒貂(クロテン)の毛皮を羽織っている。古風で由緒ある装いであるけれど、若い女性には似つかわしいと言える服装ではなく、なんとも悪目立ちしている。
(まづ居丈の高く、を背長に見え給ふに、さればよと胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたわと見ゆるものは鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗り物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先の方少し垂りて色づきたること、ことのほかうたてあり。色は雪はづかしく白うてさをに、額つきこようなうはれたるに、なほ下がちなる面やうは、大方おどろおどろしう長きなるべし。痩せたまへること、いとほしげにさらぼひて、肩のほどなどは、痛げなるまで衣の上まで見ゆ。(中略)聴し色のわりなう上白みたるひとかさね、なごりなう黒き袿重ねて、表着には黒貂の皮衣、いときよらにかうばしきを着たまへり。古代のゆへづきたる御装束なれど、なほ若やかなる女の御よそひには似げなうおどろおどろしき事、いともてはやされたり。)
『源氏物語』「末摘花」
光源氏にも、語り手にもことごとく呆れられて、さんざんな末摘花です。
命婦の重要さ
「末摘花」の巻で印象的だったのが、「大輔命婦」の役割です。
彼女は色好きな女房で、光源氏に色々な女の噂をし、あいだを取り持ちます。
光源氏が末摘花に興味を引かれ、こっそりと彼女の家へ行ったところで、命婦の演出が光ります。
まんまと演出にハマった光源氏は、もっと聞きたい!と思い(本当はたいした腕前でもないのですが)、末摘花に惹かれていくのでした。
現代でこそ恋愛は当事者同士のものとなりましたが、当時の恋愛は周りの手引きがあってこそ。
「末摘花」の巻が明らかにしたように、欠点のある女性でも、優秀な女房さえいれば、身分相応の恋愛は出来るのです。
当時の欠点を持つ貴族女性たちに、このメッセージは希望として受け取られたのではないでしょうか。
若紫の登場で華やぐラスト
「末摘花」のメインストーリーが、
- 高貴な女性が実は欠点ばかりだった
という失敗談だったので、ラストに可愛らしい若紫が登場すると、場面は一気に華やぎます。
末摘花というキャラクターの登場は、若紫の美しさを一層引き立てる役割もあったのかもしれません。
少し陰湿ですが、気の置けない二人の様子がうかがえます。
侘しい末摘花の邸(常陸宮邸)の描写が続いたので、若紫のいる二条院は優雅でのどかな場所として、まるで楽園のような趣です。
『源氏物語』「末摘花」の主な登場人物
光源氏
18歳になった光源氏。末摘花を巡って頭中将と競い合う。
末摘花
常陸親王の娘。歌も琴もパッとせず、コミュニケーションも上手くとれない。
頭中将
光源氏の親友で、葵上の兄。末摘花をめぐって光源氏と競い合う。
大輔命婦
兵部大輔の娘。色好きな女房で、光源氏に末摘花の噂をした張本人。
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