『源氏物語』第16帖「関屋」のあらすじ
任期を終えて京へ戻る伊予介と妻・空蝉
伊予介という人は桐壺帝が亡くなった翌年、常陸国へ出張することになったので、妻の空蝉と京を離れました。
そんな彼が任期を終えたため、妻の空蝉と一緒に、京への帰り道を急ぎます。
逢坂の関で光源氏と偶然の再会
帰路の途中、京都と滋賀の境にある逢坂の関で、偶然にも光源氏の一行とすれ違いました。
光源氏は空蝉のことをしみじみと思い出し、右衛門佐(空蝉の弟)を呼んで彼女に歌などを贈ります。
源氏から遠ざかっていた右衛門佐
この右衛門佐(小君)は、かつて源氏に良くしてもらっていた従者の一人です。
しかし源氏が須磨へ下ることになった頃、世間の空気を読んで自分は須磨へついて行かず、常陸国へと下ったのでした。
それから時が経った今、光源氏の隆盛を見ると、なぜあのとき時勢にへつらったのだろうと後悔の念が起こります。
歌を返す空蝉
そうした経緯もあるので、光源氏からの取り次ぎを断れなかった右衛門佐は、姉に返事を急がせます。
かつてはつれなく接していた空蝉も堪えられなくなり、自分の感情を込めた歌を返すのでした。
夫が亡くなり、尼になる空蝉
それからしばらくして、夫の伊予介が老いのために亡くなります。
その後、河内守(空蝉の義理の息子)があからさまに言い寄ってきたのを厭い、空蝉は尼になってしまいます。
周りの女房たちは、「まだ若いのになんと取り返しのつかないことを・・・」と嘆くのでした。
『源氏物語』「関屋」の恋愛パターン
光源氏―空蝉
- 光源氏:逢坂の関で空蝉と偶然すれ違い、その後歌を贈る
- 空蝉:思いがけない出会いに昔日を思い出し、感慨にふける
『源氏物語』「関屋」の感想&面白ポイント
空蝉との再会
空蝉は、光源氏が17歳の頃に思いを寄せていた女性です。
空蝉は『源氏物語』のなかで、光源氏を初めて振った女性です。
「夫がいるからあなたには靡かないわ!」
と頑なに光源氏を拒否して、夫とともに常陸国に下ったのでした。
▽そのときの様子は「帚木」「空蝉」「夕顔」の3帖に描かれています。
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そんな彼女がまさかの再登場ですが、やはり光源氏とは程よい距離感を保ちます。
右近将監と小君(右衛門佐)の対比
「関屋」の巻で特に面白いのは、右近将監(うこんのぞう)と小君の対比です。
右近将監は伊予介の息子で、光源氏の従者。
分かりやすいように図でまとめてみました▽
一方の小君は、光源氏に可愛がられていたにも関わらず、須磨へ行く段になると世間の雰囲気を読んでついて行かず、姉とともに常陸国へと下ったのです。
忠義の大切さというメッセージが、この「関屋」巻からは伝わってきます。
伊予介が死に、空蝉に言い寄る紀伊守(河内守)
「関屋」巻では、空蝉の夫である伊予介が亡くなります。
誰が誰だか分からない!という方のために関係図を再度掲載▽
伊予介は空蝉の夫で、紀伊守は伊予介と先妻の間にできた子どもですね。
そう、桐壺帝が亡くなってからすぐに、義理の母・藤壺に近付いた光源氏そのままなのです(10帖「賢木」巻)。
読者としての自分が、物語の主人公に親近感を覚えてしまっているのでしょう。
経緯はどうあれ(藤壺が亡き母親の桐壺にそっくりだとしても)、光源氏と紀伊守は同じことをしているので、公平な目線で見なければいけないでしょう。
秋の紅葉の美しさ
「関屋」巻は、逢坂の関(滋賀と京都の境)での偶然の再会が、秋の紅葉の情景とともに美しく描かれる物語です。
偶然の再会といえば、少し前の14帖「澪標」巻における明石の君を思い出します。
光源氏たちの華やかさもさることながら、情景描写の美しさも際立っている一幕として印象的な巻でした。
ちなみに、実はまだ空蝉と光源氏の関係が終わったわけではありません。
そのことは第22帖「玉鬘」巻以後に語られることになります。
『源氏物語』「関屋」の主な登場人物
光源氏
29歳。石山寺へ向かう途中、逢坂の関で伊予介・空蝉の一行とすれ違う。
かつてを懐かしく思い、右衛門佐をつかって歌などを贈る。
空蝉
10年ぶりに光源氏と再会する。
夫の伊予介が亡き後は、河内守が言い寄ってきたため、尼になる。
右衛門佐(元・小君:空蝉の弟)
空蝉の弟。かつては小君と表されていた人物。
源氏が須磨へ下ったときに付いていかなかったことを後悔する。
伊予介(空蝉の夫)
空蝉の夫。常陸守として常陸国へ出張していた。
老いて病気がちだった彼は、空蝉に従って生きていくようにと遺言して死ぬ。
河内守(元・紀伊守)
伊予介と先妻の間に生まれた長男で、空蝉の義理の息子。
父亡きあと、あさましくも空蝉に言い寄る。
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