源氏物語

源氏物語「澪標」あらすじ&感想!3つの死と3つの生が描かれる「澪標」を図解付きで解説!

2022年4月20日

『源氏物語』第14帖「澪標」のあらすじ

光源氏:28歳冬〜29歳冬

天皇の代替わりにともなって源氏一行に訪れる春

光源氏が明石から帰ってきて2ヶ月が経った頃、藤壺と故桐壺帝の息子(本当は光源氏との子)である冷泉帝が即位します。

源氏一行も昇進し、須磨での辛い日々が嘘だったかのように、華々しい毎日を送るようになります。

女性を住まわす二条東院の建築

光源氏は内大臣となり、位も高くなったので、これまでのように浮ついた遊びもできません。

とはいえ花散里や五節など、放おっておけない女性たちもいるので、源氏は彼女たちをまとめて住まわそうと、二条東院の建築を急がせます。

また、明石の君が無事に女の子を出産する一方で、六条御息所は亡くなり、源氏をめぐる女性たちの様々な人生が描かれます。

冷泉帝の後宮をめぐるそれぞれの入内

六条御息所は遺言として、娘の斎宮の保護を光源氏に託しました。

美しい彼女に惹かれる源氏ですが、思案の末、新天皇である冷泉帝の後宮に入内させることを、藤壺と一緒に決断します。

冷泉帝の後宮には、権中納言(元・頭中将)の娘である弘徽殿女御や、兵部卿宮(紫の上の父親)の娘である中の君などが入内し始めていて、新たな勢力闘争の予感を残しつつ、「澪標」巻は幕を閉じます。

『源氏物語』「澪標」の恋愛パターン

光源氏―明石の君

  • 光源氏:参詣した住吉で偶然に明石の君と再開し、旧情を思い出す
  • 明石の君:鉢合わせた源氏一行の華々しい姿に身分の差を実感する

『源氏物語』「澪標」の感想&面白ポイント

新天皇・冷泉帝と光源氏たちの昇進

「澪標」巻では、朱雀帝の御代が終わり、冷泉帝が新天皇となります。

冷泉帝は藤壺と桐壺帝の息子(実際は光源氏と藤壺との子)で、表向きは光源氏と異母兄弟。

しかも光源氏は、桐壺帝が亡くなり藤壺が出家すると、冷泉帝の後見人となっています。

そんな彼が新天皇となったので、光源氏たちも昇進し、光源氏は内大臣となります。

小助
内大臣は右大臣・左大臣のひとつ下の位で、全体の官位からするとほぼトップです。

須磨行きをピークに不遇な時代を迎えていた光源氏たちに、ようやく栄華が戻ってきた様子が描かれます。

女性を住まわせるお屋敷(二条東院)の建設を急ぐ

位が高くなり夜遊びを慎むようになったためか、以前のような浮ついた源氏の姿は薄れていきます。

ただその代わり、かつて関係のあった女性たちのことを思い、「二条東院」の建築を急ぐんですね。

二条東院とは、花散里や末摘花、明石の君などをまとめて住まわせるための建物で、要するに光源氏の後宮です。

さすが光源氏というか、スケールの大きさに笑ってしまうような場面です。

六条御息所の死去〜3人の死と3人の生〜

六条御息所は光源氏の最も古いガールフレンドの一人で、葵上に怨霊として取り憑いたことで有名な人物です。

関連記事:葵上ってどんな人?六条御息所との関係から車事件まで!

そんな彼女が伊勢から京へ戻ってくるのですが、どうも体調が思わしくありません。

光源氏がお見舞いに行くと、「私は長くないから娘を頼みます」と遺言し、7日ほどで亡くなるんですね。

小助
葵上とは対象的に、六条御息所はあまりにもあっさりと亡くなり、人生の儚さを感じる場面になっています。
ちなみに光源氏と関係して亡くなった女性は、夕顔、葵上、六条御息所とこれで3人目です。

この巻では、光源氏にとって3人目の子どもを明石の君が出産するので、生と死が対比的に描かれていることが分かります。

死別 出生
夕顔 藤壺との子・冷泉帝
葵上 葵上との子・夕霧
六条御息所 明石の君との子・明石の姫君

そんな六条御息所が光源氏に託したのは、斎宮の娘でした。

斎宮は美しく光源氏は心を惹かれますが、六条御息所の遺言もあるのでなんとか踏みとどまります。

そうして思案の末、冷泉帝の後宮に入内させることを藤壺と決めるのです。

冷泉帝の後宮をめぐる入内と「3」のキーワード

ここまで光源氏の想いを主軸とした恋愛が描かれてきましたが、「澪標」巻では客観的で政治的な入内が強調されて描かれています。

というのも、「澪標」巻で冷泉帝の後宮への入内が描かれるのは斎宮だけでありません。

以下の3人が入内をほのめかす、あるいはすでに入内しています。

  • 権中納言(頭中将)の娘:弘徽殿女御
  • 兵部卿宮の娘:中の君
  • 六条御息所の娘:斎宮

文字だけでは人物関係の説明が難しいので、図で整理しておきました。

天皇の后となるのが娘たちの最終目標なので、周りの人々もそれに合わせて動くわけですね。

ちなみにですが、「澪標」巻で光源氏は3人目の子どもができ、六条御息所の死は3人目、ここで入内が描かれる人物も3人です。この「3」というキーワードは、桐壺から見て3代目(孫)である冷泉帝の即位にも繋がっているように感じます。

桐壺の父親である按察使大納言の遺言を思い出してみても、桐壷の一族を繁栄させるという願いは、ここにひとまずの成就を見せました。

▽桐壺更衣の父親の遺言

「この人の宮仕への本意、かならず遂げさせたてまつれ。我亡くなりぬとて、口惜しう思ひくづほるな(「娘を宮仕えにしたのは一族の繁栄のためであるから、必ず成し遂げよ。わたしが死んだとしても、志を捨ててはならんぞ」)」

『源氏物語「桐壺」』

このように、冷泉帝を中心とした新たなストーリ、新たな勢力争いの予感をにじませつつ、「澪標」巻は幕を閉じます。

話としては正直パッとしませんが、これまでの話を一段落させて、これからのストーリーの方向性を定めるためのポイントとなる、まさに澪標(船の航路を示すために立てる杭)のタイトルにふさわしい内容でした。

次は「蓬生」巻です。

「澪標」巻の登場人物

光源氏

28歳。京に帰ってからは父・桐壺帝の法華八講を催す。

須磨から京へ返り咲き、栄華の道を歩み直し始める。

明石の君

光源氏との子(明石の姫君)を出産する。

住吉大社に詣でたところ光源氏と偶然の再会を果たすが、その華々しい姿を見て身分の差を痛感する。

朱雀帝

弘徽殿大后の反対を押し切り、この巻で退位する。

朧月夜のことを強く想う。

冷泉帝

藤壺と桐壷帝の息子(実は光源氏と藤壺の子)が新天皇として即位する。

彼の後宮をめぐって、新しい世代の勢力争いが予感される。

権中納言(頭中将)

中納言まで位が上がる。

娘の弘徽殿女御(朱雀帝の母親ではない)を、冷泉帝の後宮に入内させる。

紫の上

明石の君と光源氏の仲を嫉妬する。

花散里

帰京後も光源氏に想われている数少ない女性のうちの一人。

五月雨の頃に光源氏と逢っている様子が描かれる。

藤壺

冷泉帝(息子)が即位したことで、准太上天皇となる。

光源氏と計画して、六条御息所の娘を冷泉帝の後宮に入内させる。

六条御息所

伊勢から帰郷するも、ほどなく逝去する。

光源氏に対して、「娘の斎宮を色恋から遠ざけながら見守ってほしい」と遺言する。

斎宮

六条御息所の娘で大変美しい。

光源氏と藤壺の計らいによって、冷泉帝の後宮に入内する予定。

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