『源氏物語』第9帖「葵」のあらすじ
物憂い光源氏
光源氏22歳。葵上が子どもを身ごもります。
父の桐壺帝は息子の朱雀帝に位を譲り、大好きな藤壺と普通の夫婦のように暮らしはじめます。
そのために光源氏は藤壺といっそう会えなくなり、物憂い日々を過ごしていました。
六条御息所と葵上の車事件
春、賀茂で葵祭が催されます。
祭りの前日の斎院御禊日(現在は「斎王代女人行列・御禊の儀」)に、葵上の従者と六条御息所の従者どうしで小競り合いがありました。
光源氏の様子を見ようと忍んでやって来た六条御息所の車を、葵上の従者が脇に追いやったのです。
正妻と愛人の格差を白昼のもとにさらされて、六条御息所は非常に悔しい思いをします。
物の怪に取り憑かれる葵上
8月、葵上は懐妊中から物の怪に取り憑かれ、出産に苦しみます。
看病する光源氏は、偶然に物の怪の正体を見ます。
それはまぎれもなく、六条御息所の生き霊でした。
葵上は立派な男の子を産み、光源氏との間にも初めて愛情が兆しますが、その後急死してしまいます。
若紫との初夜
葵上の死に傷心する光源氏は、喪失感を若紫で埋めようとします。
久々に訪ねた若紫はずいぶんと大人らしくなっており、光源氏はなかば強引に契りを結びました。
光源氏のことを父親のように慕っていた若紫は裏切られたという思いが強く、しばらく塞ぎこんでしまいます。
左大臣家との別離
年が明けて、左大臣家(葵上の家)の人々と久しぶりに会う光源氏。
葵上が残した息子は美しく育っていますが、葵上の父・左大臣や、母の大宮は悲しみにやつれています。
彼らと光源氏は話をし、これからあまり会わない間柄になることを思うと、お互いに涙が溢れてくるのでした。
『源氏物語』「葵」の恋愛パターン
光源氏(22歳)―葵上(26歳)
- 光源氏:難産で苦しむ葵上の姿を見て、これまで大切にしていなかったことを悔やむ。
- 葵上:出産後初めて源氏と愛情が通うが、亡くなってしまう。
『源氏物語』「葵上」の感想&面白ポイント
六条御息所の車争い
「葵」の巻での名場面といえば、何といっても「六条御息所の車争い」です。
六条御息所の一行が車を停めているあたりに、葵上の一行が偶然やってきて、車を退かしていきます。









とまあこんな事があります。
そんな折、葵祭に光源氏が来るという噂を聞きつけた六条御息所は、車でこっそりと姿を見に行くわけです。
しかしそれが裏目に出て、葵上の一行に辱められてしまうというかたちです。

この事件が引き金となって、六条御息所は葵上への恨みを募らせるようになります。
六条御息所と葵上の関係
六条御息所と葵上は、簡単に言えば恋のライバル関係です。
葵上は光源氏にそれほど執着していませんが、六条御息所は光源氏が大好き。

また、2人は親戚でもあります。
血縁関係はなく、葵上からみて六条御息所が、血の繋がっていない叔母にあたります。
ちなみに葵上と光源氏は従兄弟。
これらの関係をまとめると以下の図のようになります▽
つまり、ふたりは光源氏をめぐって対立する関係でありながら、大きくみれば親戚という間柄。
そんなふたりの関係は、驚くべきかたちで終止符が打たれます。
六条御息所の怨念と葵上の急死
葵上は懐妊中から物の怪に取り憑かれるようになります。
しかし六条御息所は、悪気があって生き霊となっているわけではありませんでした。
彼女は夢の中で葵上を痛めつけているのですが、目が覚めると、
「なんでこんな夢を見てしまうのでしょう・・・縁起でもない・・・」
と、自分を責める様子さえ見せるのです。
知らず知らずのうちに心の中で恨みや憎しみが大きくなり、理性とは裏腹に相手を攻撃してしまう。

ちなみにこの六条御息所の怨霊は、海外でも源氏物語を代表するモチーフとして有名です。
そもそも葵上ってどんな人?
「葵」のメインヒロインをつとめる葵上は、『源氏物語』第一巻「桐壺」から登場する女性です。
葵上のプロフィール | |
年齢 | 26歳(光源氏の4歳年上) |
性格 | ツンツン |
容姿 | かなり可愛い |
家柄 | 左大臣の娘で身分が高い |
光源氏との関係 | 正妻だが打ち解けず、笑顔も見せない |
結婚した年齢 | 16歳 |
光源氏が12歳で元服(成人式)したとき、同時にお嫁さんをもらいます。

それからも、「若紫」「紅葉賀」などで登場しますが、いつまで経っても仏頂面で、無口で、つれない葵上。
それはもちろん、光源氏の女遊びが激しいからでしょう。
光源氏が「もう少し優しくしてくれたらいいのに・・・」と言っても素知らぬ顔。
てな具合です。
あるいは結婚当初から、光源氏の秘めた藤壺への想いも見破っていたのかもしれません。
葵上は、「自分の感情を上手く伝えられなかった女性」として見られることもあります。
伝えられなかったのではなく、伝えることを良しとしなかったのではないかと、個人的には思っています。
クライマックスで見せる"デレ"
そんな葵上ですが、最後の最後でほんの少しだけ打ち解けた様子を見せます。
「葵」の巻のクライマックス、葵上が亡くなる場面です。
たいした事は何もありません。
このささいな出来事に、今までのつれない態度や、ふたりの冷め切った仲を、一気に温め直すような情緒が滲んでいます。
以前は退出する光源氏を見送ることなどなかった彼女が、光源氏の姿をじっと見つめている。
それだけで、葵上「らしい」いじらしさが、これ以上なく最適なかたちで描かれているのです。
裏切られた若紫
「葵」の巻では、葵上の死のほかに、もう一つ衝撃的な出来事があります。
それは、光源氏と若紫が契りを交わしたことです。
葵上が亡くなり、喪中で出歩くことも憚られた光源氏。
久しぶりに若紫を訪ねてみると、かつては幼かった若紫がなんとも大人らしくなっているではありませんか。
葵上の喪失感を埋めたいという気持ちもあったのでしょう。光源氏は若紫に迫ります。
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『源氏物語』「若紫」の簡単なあらすじ&感想!藤壺と若紫の関係性から光源氏と葵上の不和まで!
若紫は、言い寄ってきた光源氏にショックを受け、裏切られたという気持ちになります。

と思った若紫は、光源氏を無視し続けます。
そういうことで、ふたりは結婚することになります。
光源氏の人生の中でも重要な出来事がいっぺんに起こった、ターニングポイントの回だといえるでしょう。
光源氏はこのとき22歳。
しかしここから、彼の人生は次第に下り坂となっていくのです。
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