源氏物語

源氏物語「若菜上」簡単なあらすじ!女三の宮と光源氏が結婚した理由から柏木の猫まで!

2022年7月13日

『源氏物語』第34帖「若菜上」のあらすじ

光源氏:39歳〜41歳

朱雀院の出家と女三の宮の悩み

42歳の朱雀院は、病が重くなってきたため出家を決意します。

ただ一つ気掛かりなのは、娘である女三の宮の後ろ盾がないこと。

彼は思案の末、光源氏に娘を託すことにします。

女三の宮の降嫁

女三の宮の降嫁を断り続けてきた光源氏ですが、朱雀院から直々に願いを聞き、断りきれません。

紫上は光源氏の寵愛を受けてはいますが、女三の宮の方が身分は上。

彼女は「この歳になって正妻の座を追い落とされるのか」と、暗い気分で日々を過ごします。

明石の姫君(女御)の出産と明石一族の思い

それから一年後、明石の姫君が帝との第一子(男の子)を出産しました。

人づてに報告を聞いた祖父・明石入道は、一族繁栄の願いが叶ったと思い、世を捨てて山へ入ります。

それを知った明石の君や明石の尼君は、もう会えない入道を思って涙に暮れるのでした。

柏木の垣間見

春、柏木(頭中将の息子)が六条院を訪ねたとき、猫が邸で騒いだために部屋が丸見えになっていて、偶然にも女三の宮の姿を見てしまいます。

柏木は彼女に心を奪われますが、光源氏の妻なので大それたこともできません。

彼はその猫を捕まえると、恋わずらう心を慰めるために、女三の宮に重ねてギュッと抱くのでした。

『源氏物語』「若菜上」の恋愛パターン

光源氏―女三の宮

  • 光源氏:朱雀院に女三の宮のことを任され貰い受けるも、好みではない
  • 女三の宮:14歳。利発ではなく、光源氏に失望されるも気づかない

『源氏物語』「若菜上」の感想&面白ポイント

女三の宮の登場

「若菜(上)」では、女三の宮という女性が新しく登場します。

「女」=性別・「三」=三女・「宮」=皇族への尊称で「女三の宮」。長女なら「女一の宮」、次女なら「女二の宮」です。)

出家する朱雀帝が娘である彼女の将来を案じたため、安心できる光源氏に嫁がせようと考えます。

光源氏はずっと断っていましたが、朱雀帝から直々の願いを受けて、ついに断りきれませんでした。

やってきた女三の宮はまだほんの子どもで、教養があるようにも見えず、行動もはしたなく、光源氏は失望します。

しかし、当時の妻の立場は身分が全てです。

それまでは正妻だった紫上ですが、形式的には一段劣らざるを得ず、光源氏は女三の宮のもとで寝ることが増えます。

光源氏
(ごめんよ紫上。世間に女三の宮を大切にしているアピールをしないといけないんだ。朱雀帝の手前もあるしね・・・)
(ああ、この歳でこんなことになるなんて・・・〈32歳〉)
紫上

とはいえ、紫上は理性的に女三の宮のことを受け入れます。

光源氏はその様子を見て、ますます紫上の人柄の良さに感服するのでした。

感情的にならず理性的な判断をする紫上

「結婚の話は空から降って出たような思いがけないことなので、源氏の君も逃れようが無かったものを、この私が憎々しく責めることはすまい。源氏の君の身から出たサビでもないし、女三の宮との恋から生まれた関係でもなく、致し方のなかったことなのだから、私が物思いに沈んでいる様子を世間に知られるようなことは恥だというもの。それでもあの意地悪な継母は、いつも私の不幸を望んでいるようなことを言っているのだし、髭黒大将と玉鬘が結婚したことにつけても私のせいにするほどなのだから(※第30帖「藤袴」)、この源氏の君と女三の宮の結婚のことを聞くと、また喜んで話のネタにするんだろうな」と、おっとりとした紫上の御心といえど、色々と考えてしまうのは仕方のないことだろう。この歳まできたらもう大丈夫と安心して過ごしていたものの、今更になって人の笑いものになるのかと思い続けておられるが、それを表には出さず穏やかに振る舞っておられる。

(かく空より出で来にたるやうなることにて、のがれたまひがたきを、憎げにも聞こえなさじ。わが心に憚りたまひ諌むることに従ひたまふべき、おのがどちの心より起これる懸想にもあらず、堰かるべき方なきものから、をこがましく思ひむすぼほるるさま世人に漏りきこえじ。式部卿宮の大北の方、常にうけはしげなることどもをのたまひ出でつつ、あぢきなき大将の御事にてさへあやしく恨みそねみたまふなるを、かやうに聞きて、いかにいちじるく思ひあはせたまはむなど、おいらかなる人の御心といへど、いかでかはかばかりの隈はなからむ。今はさりともとのみわが身を思ひあがりうらなくて過ぐしける世の、人笑へならむことを下には思ひつづけたまへど、いとおいらかにのみもてなしたまへり。)

『源氏物語「若菜上」』

実はモテモテだった女三の宮

光源氏からの評価は低かった女三の宮ですが、実は彼女はモテモテです。

女三の宮に想いを寄せる男性たち

  • 柏木:皇女を妻にしたいと望んでおり、女三の宮に強い想いがある
  • 蛍兵部卿宮:独身のため妻が欲しく、身分的に女三の宮は好適
  • 藤大納言:自信が頼りない身分なので、女三の宮と縁付くことで朱雀帝の威を借りようとする
  • 夕霧:妻の雲居雁がいるので積極的ではないが、少し心が動かされる
この中でも、頭中将の息子である「柏木」は、女三の宮をぜひとも自分のものにしたいと考えていました。

しかしその思いも虚しく、女三の宮は朱雀帝の意向で光源氏の妻となってしまいます。

それでも諦めきれない柏木は、光源氏の住まいである六条院を訪ねるたびに、女三の宮を一目で良いから見たいと願います。

柏木
女三の宮が光源氏様の妻となった今、このような思いを抱くこと自体恐れ多いけれど、一目で良いからお姿を見て、騒ぎ立つ心を慰めたいものよ・・・

こうした彼の不相応な気持ちが、のちに六条院の平和を突き崩すきっかけとなり、「若菜」巻のストーリーを大きく方向付けることになります。

柏木と女三の宮の猫

「若菜(上)」の終盤。

春のある日、六条院で夕霧(光源氏の息子)や柏木(頭中将の息子)たちが、蹴鞠(けまり)をして遊んでいます。

蹴鞠はサッカーの起源。なかでも柏木は飛び抜けて上手だったようです。

そこで夕霧と柏木は、偶然にも女三の宮の姿を見てしまいます。

彼女の飼っている猫が大猫に追いかけ回されて、邸の中で暴れたために、部屋の中が丸見えになったのです。

夕霧は無防備な女房や女三の宮を見て、「なんとはしたない・・・」と思いますが、柏木の反応は違いました。

柏木
(あ、あれが女三の宮さま。。。姿を見られるとはなんて幸運なんだ・・・!そして可愛い!)

しかし、女三の宮はすぐに奥に下がってしまいます。

柏木は残っていた女三の宮の猫を抱くと、猫を彼女に重ねてギュッとします。

柏木が苦しい心の慰めに、猫を招き寄せて抱くと、女三の宮と同じであろう良い香りがして、猫が可愛げに鳴くのも彼女と重ね合わせずにはいられないというのも、さすがに色男といったところだ

(わりなき心地の慰めに、猫を招き寄せてかき抱きたれば、いとかうばしくて、らうたげにうちなくもなつかしく思ひよそへらるるぞ、すきずきしきや)

『源氏物語「若菜上」』

柏木
(これが女三の宮さまの匂い・・・ギュッ)
(なんだこいつ・・・)

絹を作るための蚕をネズミから守るために、当時の都では猫が飼われていました。

ちなみに猫には首紐が付けられており、その紐が部屋の物に絡まって荒れたため、中が丸見えになったのでしょう。

紐のイメージ▽

女三の宮の猫と蹴鞠の場面を犬で描いたパロディ:西川祐信(1671年-1750年)の作

続く「若菜(下)」では、柏木はこの猫を天皇経由で借りて、女三の宮代わりの慰めにしています。

小助
天皇から「そろそろ返してあげてね」と言われても無視するほど、柏木は女三の宮への想いに溺れてゆきます。

「サッカー上手&猫を飼う」というキャラ付けで、物語に急浮上してきた柏木。

「若菜」の上下巻は、こうした柏木と女三の宮の許されない関係を軸に、ストーリーが進んでいきます。

▽後半も猫が登場します。

あわせて読みたい
源氏物語「若菜下」簡単なあらすじ!猫をめぐる柏木と女三の宮の恋愛を解説!

明石入道の手紙

「若菜(上)」では、明石一族の話も見所のひとつです。

小助
光源氏が須磨に流されたとき、そこで関係を持ったのが明石の君です。

光源氏と明石の君の子である明石の姫君は、いまや春宮の御子を産んで大出世。

男子出産の報告を受けて、祖父の明石入道は大願が果たされたと大喜びします。

実は、彼は明石の君が生まれるとき、とてもめでたい夢を見たんですね。

あなた(明石の君)が生まれようとするその年の二月の夜に夢を見た。私は須弥山(仏教の聖なる山)に右の手を捧げて、山の左右からは月と太陽の光が射し、世を照らす。私は山の下の陰に隠れてその光に当たらず、山を広い海に浮かべおいて、小さい舟に乗って、西方浄土を目指し漕いでゆく夢だった。

(わがおもと生まれたまはむとせしその年の二月のその夜の夢に見しやう。みづから須弥の山を右の手に捧げたり、山の左右より月日の光さやかにさし出でて、世を照らす。みづからは山の下の陰に隠れてその光にあたらず、山をば広き海に浮かべおきて、小さき舟に乗りて、西の方をさして漕ぎゆくとなむ見はべし。)

『源氏物語「若菜上」』

明石の入道の夢の意味

須弥山は仏教の聖なる山で、中腹に月と太陽が出ています。

須弥山図

僕は単純に、

  • 右手:明石の尼君
  • 山から出る月:明石の君
  • 山から出る太陽:光源氏

で一族繁栄のめでたい夢だと読みましたが、

  • 右手:明石の君
  • 山から出る月:明石の姫君
  • 山から出る太陽:春宮

の比喩として、入道の子孫繁栄を表していると捉えられることが多いようです。

後半の「小さい舟に乗って西に漕いでゆく」は、出家した明石入道の未来を表しています。

明石入道はこの夢を信じ続け、明石の君を大切に育てていました。

その様子は早くも第5帖「若紫」巻から描かれており、周りの人々は「変わり者の入道が明石にいるそうだよ」と噂しています。

「『(明石の入道)私がこうして田舎住まいをしているのも、この一人娘のために、考えあってのことなのだ。もし私が先に死んで志が遂げられず、この思いが成就しなかったら、明石の君よ、あなたは海に身を投げなさい』と常に遺言しているそうです」と言っているのを、光源氏は面白く聞いている)

(「我が身のかくいたづらに沈めるだにあるを、この人ひとりにこそあれ、思ふさまことなり。もし我に後れてその心ざし遂げず、この思ひおきつる宿世違はば、海に入りぬ」と常に遺言しおきてはべるなると聞こゆれば、君もをかしと聞きたまふ)

『源氏物語「若紫」』

都の人々からは笑われていた入道。

しかし、実は彼には深い信念があり、しかもそれを成し遂げたということが、「若菜上」巻で描かれるわけです。

明石の君と光源氏の関係も、「若紫」巻から約10年を経て繋がる伏線でした。

小助
そのうえ明石入道の思惑までも、22年の時を超えて伏線として明かされるなんて、かなり壮大です。明石という名は、「明かす」と掛けられているのかもしれません。

ちなみに、明石入道から届いた手紙は非常に長く、それを読む明石の君や尼君の様子も詳細に語られるので、かなり見応えのある場面になっています。

このように「若菜上」巻は、

  • 女三の宮と光源氏&柏木の関係
  • 明石一族の繁栄

この二点がメインに描かれる話でした。

下巻では引き続き、「女三の宮と光源氏&柏木の関係」が描かれるのに加えて、

  • 紫上をめぐる意外な展開

も見どころポイントです。

『源氏物語』「若菜上」の主な登場人物

朱雀院

出家を決意するも、娘・女三の宮の行く末だけが気がかり。

思案の末、光源氏に彼女を任せて出家する。

光源氏

39歳。女三の宮との結婚は断り続けていたが、朱雀帝直々の願いを断りきれない。

慎みがなく幼さの残る女三の宮に失望し、拗ねる紫上の機嫌を取りつつも、朧月夜にお忍びで会いに行く。

女三の宮

14歳。朱雀帝の三女で、光源氏に嫁ぐ。

六条院の女性たちと比べると人間ができておらず、思慮が浅く描かれる。

紫上

32歳。女三の宮の登場で、正妻の座を奪われる。

嫉妬してはいけないと考えるも、やはり面白くはない。

明石の女御

13歳で帝との第一子を出産。

祖母である明石の尼君から生い立ちを聞き、自分の身分を初めて知る。

明石の入道

70代。孫が帝の子を産んだと聞いて、念願が叶ったと思う。

妻(明石の尼君)と子(明石の君)に手紙を残して、自らは深い山へと入ってしまう。

明石の尼君

60代。孫である明石の女御に、明石の君が秘密にしていた生い立ちを見境なく話す。

夫の入道からの手紙を読んで悲しさに沈む。

明石の君

30歳。明石の姫君を全力でサポートする。

明石入道からの手紙を読み、自らも出家の道を考える。

柏木

六条院で女三の宮の姿を垣間見て、許されない恋の悩みに溺れてゆく。

猫を女三の宮に重ね合わせる場面が印象的。

夕霧

柏木と一緒に女三の宮の姿を見てしまうも、紫上と比較して浅はかだと感じる。

柏木の恋愛感情を誰よりも早く勘づいた。

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