『源氏物語』第3帖「空蝉」のあらすじ
「帚木」の巻からあまり経っていない
空蝉に会いたい
光源氏は、空蝉のことが忘れられません。
ことあるごとに、小君(空蝉の弟)に「どうにかして会う都合をつけてくれ」と頼みます。
そんなとき、ちょうど空蝉の夫が家を離れることがありました。
小君はその隙を狙って、光源氏を家へ連れて行き、空蝉と会わせようとします。
女性の無邪気な姿を初めてのぞき見る
やしきでは、空蝉は友人の軒端荻と碁を打っていました。
その様子をのぞき見した源氏は、「なんと奔放で飾り気のない姿なんだろう」と見とれます。
光源氏のまわりには、取り繕った女ばかりだったので、無邪気な女性の姿を見たことがなかったのです。
寝床に忍び寄る
夜になって、みんなが寝静まると、光源氏は空蝉の寝床に忍び寄ります。
しかし、光源氏の接近に気づいた空蝉は、布団を抜け出して奥に隠れてしまいました。
そうとは知らずに源氏が布団に近寄ると、女は以前よりも少し大柄になっている気がします。
態度なども前とは違うので、もしやと思い考えてみると、布団にいたのは空蝉の友人・軒端荻だったのです。
嘘をついて乗り切る
人違いだと知られたら変な雰囲気になるので、
「あなたを想ってやって来ました。このことは内緒にしといてね」
などと、源氏は上手に嘘を付いて、軒端荻と契りを交わし、その布団を後にします。
あまりの淋しさと恨めしさで、光源氏は部屋から出るときに、空蝉が残した衣を持って帰ったのでした。
『源氏物語』「空蝉」の恋愛パターン
光源氏―空蝉
- 光源氏:つれない態度を恨めしく思うも、惹かれてゆく
- 空蝉:光源氏に女心を揺さぶられるも、人妻としての立場や身分を貫く
『源氏物語』「空蝉」の感想&面白ポイント
再三拒絶される光源氏
ということで、引き続き空蝉との恋愛が描かれる、『源氏物語』第三帖「空蝉」。
冒頭は光源氏のこんな泣き言から始まります。
私はこんなに人に憎まれたことは生まれてから一度もなかったから、もう恥ずかしくて生きていけないよう。(我はかく人に憎まれても習わぬを、今宵なむ初めてうしと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくてながらふまじくこそ思ひなりぬれ。)
『源氏物語「空蝉」』
でも、そうだからこそ、空蝉への想いも募る光源氏。
なにかにつけて空蝉の弟・小君に、
と迫っています。
で、なんとか姉と会う機会をつくった小君。
光源氏は空蝉とは会えず、代わりに彼女が着ていた衣を持って帰ったのでした。
初恋は実らず、初戦敗退の光源氏ということになります。
間違えられた軒端荻
「空蝉」の巻で一番面白かったのは、光源氏が人間違いをする場面。
空蝉は光源氏の気配を感じて布団を抜け出すのですが、そこには女友達の「軒端荻」が残されていたんですね。
そうとは知らない源氏は寝床に入って、
と思うのですが、まさか別人とは思いません。
しばらくして、態度や様子が前とは違うことに気が付き、やっと別人だと分かる、という場面です。
ちなみに、『源氏物語』後半の「宇治十帖」にも、暗闇の中で勘違いして、女性が違う男性と寝てしまう、という出来事があります。
慌ててそれらしい嘘をつき、その場を乗り切る光源氏。
「まあいいや」と思って、そのまま軒端荻と一夜を過ごすことにします。
軒端荻はほかに男を知らず、純粋な心の持主なので、疑いもしません。
そうして部屋を出た源氏は、悔し紛れに空蝉の脱いだ服(袿・うちき)も持って行くというわけです。
光源氏と小君
前巻の「帚木」から、光源氏との関係が仄めかされていた小君。
「空蝉」の巻では、より深い関係の描写が多くなっています。
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顕著なのは冒頭の場面。
本当にこの子は可愛いな、と源氏は思った。触れてみて知った、ほっそりとした小さい身体つきや、髪があまり長くない感じも、姉にも似ているせいか、しみじみと愛おしく思われる。(いとらうたしと思す。てさぐりの細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさま通ひたるも、思ひなしにやあはれなり)
『源氏物語「空蝉」』
こうした関係性がうかがえるのも、「空蝉」の巻の特徴だと思います。
ちなみに小君は、須磨事件で光源氏に味方しなかっため、その後源氏に疎んじられるようになっていきます。
『源氏物語』「空蝉」で詠まれる歌
「空蝉」で詠まれる歌は以下の通り。
- 空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらの懐かしきかな
- 空蝉の羽におく露の木がくれてしのびしのびに濡るる袖かな
それぞれの意訳や、歌の意味をまとめました。
「空蝉の身をかへてける木のもとになほひとがらの懐かしきかな」の意訳&意味
意訳:蝉が抜け殻だけを残して行ってしまった木のように、衣だけを残して去ってしまったあなたの布団で、あなたという人をやはり懐かしく思います。
蝉の抜け殻が木に付いて、本体はどこかへ行った様子を、空蝉が抜け出して衣だけを残した布団になぞらえた歌です。
「ひとがら」は「人柄」と「ひと殻」をかけています。
「空蝉の羽におく露の木がくれてしのびしのびに濡るる袖かな」の意訳&意味
意訳:蝉の抜け殻の羽につく露のように、木陰に隠れて人目を忍んで泣いては、涙に濡れる私の袖です
自分はたしかに空蝉(蝉の抜けがら)だ、そんな空蝉は夜になると、露で濡れているのですよ、ということを詠んだ歌です。
ちなみにこの歌は、『源氏物語』にある全795首中、紫式部が創作したのではないと分かる唯一の歌で、「後世に書き加えられたもの」という説が定説になっています。
『源氏物語』「空蝉」の主な登場人物
光源氏
このとき17歳。空蝉を想って何度かアタックしますが、この巻でついに撃沈します。
空蝉
前の巻「帚木」で半ば強引に迫られた源氏に対して、多少の乙女心は揺さぶられるものの、最後まで自分の意志を貫き通します。
軒端荻
空蝉の友人。陽気で明るい女の子。光源氏に人間違いをされます。
小君
空蝉の弟。十二、三歳。光源氏に仕えるも、結果を出せなかったために小言を言われます。
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