源氏物語

源氏物語「行幸」簡単なあらすじ!玉鬘の秘密を明かした光源氏と頭中将の語らいを解説!

2022年7月3日

『源氏物語』第29帖「行幸」のあらすじ

光源氏:37歳

野行幸で玉鬘が冷泉帝に惹かれる

12月に野の行幸(帝の鷹狩見物)があり、上流人はほとんどが参加していました。

玉鬘はそこで蛍兵部卿宮や髭黒大将、実父・頭中将(内大臣)などを初めて見ますが、冷泉帝の御姿は別格で、後宮入内を前向きに考えます。

頭中将(内大臣)と光源氏が昔のように語らい、玉鬘の秘密が明かされる

光源氏は玉鬘の裳着の儀(結婚前の成人式)を済ませるため、頭中将(内大臣)に全てのことを打ち明けます。

玉鬘のことを知った頭中将は驚き喜び、仲が良かった昔のように二人は語らうのでした。

玉鬘の裳着の儀が行われ、末摘花が出過ぎたまねをする

2月に玉鬘の裳着の儀が行われ、六条院の方々からは祝いの品が届きます。

その中でも末摘花ははしたなく出過ぎたまねをして、光源氏を辟易させます。

真相が世間にも明るみに出て、近江君が玉鬘を妬む

玉鬘の噂を聞きつけた近江君(頭中将と身分の低い女性の間に生まれた娘)は、同じ境遇であるはずの玉鬘を妬みます。

そして自分が出世できないことを兄弟たちに当たり散らし、周囲からは苦笑いされるのでした。

『源氏物語』「行幸」の恋愛パターン

玉鬘―冷泉帝

  • 冷泉帝:玉鬘の存在を知っているのかも不明
  • 玉鬘:行幸で冷泉帝の姿を見て、冷泉帝後宮への入内に心動く

『源氏物語』「行幸」の感想&面白ポイント

玉鬘が初めて男性陣の顔を見る

12月に野の行幸が行われ、多くの貴族は帝と一緒に見物に出ました。

行幸=帝のおでかけ。野の行幸は野原で鷹狩(鷹を使って小動物を狩る)を見物するために出かけることを指します。

この行幸に、西の対の姫君である玉鬘も混じって見物に行くのですが、そこで初めて、彼女に思いを寄せる男性や、父大臣、冷泉帝の顔を見ます。

玉鬘は彼らを下のように評しています。

  • 冷泉帝:他の人とは比べられないほど、容姿も立ち振るまいも抜きん出ている
  • 頭中将(内大臣):きらびやかな装束が立派で、並の臣下ではない様子だが、帝には全く敵わない
  • 兵部卿宮:見ただけで評価なし
  • 髭黒大将:華やかに飾っているが、顔が髭だらけで汚い

冷泉帝の様子にたいへん惹かれ、髭黒大将(右大将)を酷評する玉鬘。

以下はそのシーンの本文です。

玉鬘による冷泉帝と髭黒対象の評価

冷泉帝が赤色の着物を召して堂々としている姿を見ると、あの美しさに並ぶ人などいないと思われる。あの人がそうかと、自分の父である内大臣を見ると、きらきらと飾り立ててはいるが、その美しさには限りがある。臣下にしては優れている人だと思うだけで、御輿の中にいる冷泉帝と比べると、目移りする対象とはならないのだった。(中略)髭黒大将は、いつもは重々しく気取ったなりだが、今日の装いは華やかで、矢入れなども背負っているが、顔の色が黒く髭だらけで、全然自分のタイプではない。

(帝の赤色の御衣奉りてうるはしう動きなき御かたはら目に、なずらひきこゆべき人なし。わが父大臣を人知れず目をつけたてまつりたまへど、きらきらしうものきよげに盛りにはものしたまへど、限りありかし。いと人にすぐれたるただ人と見えて、御輿の中よりほかに、目移るべくもあらず。(中略)右大将の、さばかり重りかによしめくも、今日の装ひいとなまめきて、胡籙など負ひて仕うまつりたまへり、色黒く髭がちに見えて、いと心づきなし。)

『源氏物語「行幸」』

自身の行先を決めかねていた彼女ですが、冷泉帝の姿を見たことで、かねてから勧められていた冷泉帝後宮への入内を前向きに考え始めます。

玉鬘(成人)
たとえ大切に扱われないとしても、あの方のお姿を拝することができる毎日なら、後宮暮らしも楽しいかもしれない・・・・

彼女の思案の裏には、冷泉帝にはすでに秋好中宮がいて、次いで弘徽殿女御が地位を占めているので、自分がその世界に食い込むことは難しいという考えがあります

また、この行幸には光源氏が参加していません。

彼は自ら参加しないことで、冷泉帝の華やかさをさらに引き立たせ、玉鬘の気持ちが入内に傾くように画策しています。

ただ、そのような配慮がなかったとしても、年齢と権威を比較したときに、冷泉帝に軍配があがったでしょう。

年齢 地位
冷泉帝 18歳
光源氏 36歳 太政大臣

容姿は瓜二つの冷泉帝と光源氏ですが、それでも冷泉帝の姿に惹かれる玉鬘の様子からは、女性にとって年齢は大切な要素だということがよく分かります。

子を残すことが繁栄に繋がった当時のことを考えると、玉鬘の感情は本能的にも正しい選択だったと言えるかもしれません。

玉鬘のことを明かし、光源氏と頭中将(内大臣)が昔のように語らう

夕霧の一件などもあり、最近はどことなく不仲だった光源氏と頭中将(内大臣)ですが、「行幸」巻では昔の間柄のように、仲良く語らう場面が描かれます。

小助
個人的には二人は仲良くしてほしいので、少しだけ心が休まりました

▽「光源氏と頭中将が語り合う場面」本文

光源氏も、滅多にない頭中将(内大臣)とのご対面に昔のことを思い出されて、離れ離れになっていればこそ、何かにつけて競い合う心も起こるというものだが、こうやって向かい合ってみれば、互いにしみじみと胸に込み上げてくるようなことも色々思い出されるので、最近のような隔てもなく、昔や今のことを語らいながら日が暮れてゆく。

(大臣も、めづらしき御対面に昔のこと思し出でられて、よそよそにてこそ、はかなきことにつけていどましき御心も添ふべかめれ、さし向かひきこえたまひては、かたみにいとあはれなることの数々思し出でつつ、例の隔てなく、昔今のことども年ごろの御物語に日暮れゆく)

『源氏物語「行幸」』

かつては光源氏のために、自身のリスクも顧みず、須磨まで会いに行った頭中将。

あの時の温かい友情を思い出させるかのような場面で、思わずホッとします。

以下は「須磨」巻で熱い友情を見せた頭中将の様子です。

第12帖「須磨」巻 光源氏と頭中将の再会

頭中将は今(「須磨」巻の時点)は宰相となって、人柄もたいへん優れているので、世間からの人望も厚くいらっしゃるが、くそったれな世の中が面白くなく、何かにつけて光源氏に会いたいなぁと思っているものだから、たとえこのことがバレて罪を受けたとしても良いと考えて、にわかに須磨までお越しになる。着いて源氏の君の顔を見るなり、あまりの嬉しさに涙が一筋こぼれるのだった。

(大殿の三位中将は、今は宰相になりて、人柄のいとよければ、時世のおぼえ重くてものしたまへど、世の中あはれにあぢきなく、もののをりごとに恋しくおぼえたまへば、事の聞こえありて罪に当たるともいかがはせむと思しなして、にはかに参でたまふ。うち見るより、めづらしううれしきにも、ひとつ涙ぞこぼれける)

『源氏物語「須磨」』

話を「行幸」巻に戻しましょう。

光源氏は打ち解けたこのタイミングを見計らって、玉鬘のことを話し出します。

光源氏
あなたには叱られそうなことが多くあるのですよ・・・
(きた、光源氏の息子夕霧と、私の娘雲居雁のことだな?面倒になってきたぞ・・・)
頭中将
光源氏
私のところで世話をしている玉鬘なのですが、実はあの子は、昔あなたと夕顔の間に産まれた娘なのですよ
あ、あのたいそうな美人だと噂の玉鬘が・・・?あれはあなたの娘だという話ですが・・・
光源氏
光源氏
あなたにはお子もたくさんいるから、私が代わりに世話をして、然るべきタイミングでお話ししようと思っていたところ、こんなにも遅くになってしまいました。申し訳ございません
そうでしたか(泣)常々探していた娘ですから、あまりのことに嬉しくて言葉も出ません(泣)
頭中将
光源氏は「なんでそんな大事なこと2年間も黙ってたんだよ!」と怒られる可能性もあったので、慎重に慎重を重ねて頭中将を丸め込みます。

そしてこの玉鬘の一件に注力したために、夕霧と雲居雁の結婚話までは持ち出すことができませんでした。

夕霧は幼馴染の雲居雁と恋に落ちていましたが、位が低いという理由で、雲居雁の父親である頭中将に仲を引き裂かれていました(「少女」巻)

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やはり長い年月が隔てた光源氏と頭中将の仲は、一朝一夕に縮まるものではありません。

すでに二人は、腹心なく全てを打ち明けていた若かりしあの頃の関係ではなく、それぞれの利害を軸に構築される、悲しい大人の関係になっていたのでした。

本当は夕霧の一件も話したかった光源氏ですが、ここは玉鬘の件を優先してことを運びます。

玉鬘という思わぬ宝物を拾った頭中将(彼は娘たちが良い嫁ぎ先に恵まれないことを嘆いていた)は、初めこそ光源氏に感謝するものの、家に帰って落ち着いてみると、源氏の真相を見破ります。

光源氏
(さては光源氏、自分が玉鬘に恋情を抱いたが、妻たちの一人に加えるのも変な話だし、そうなれば世間からの悪評もあるので、私にあの子を返したのだろう・・・)
光源氏
(といっても反対できることではないし、彼の言う通りにするしか無いのだが・・・)

昔のようなにこやかな雰囲気はどこへやら、別れた二人は瞬く間にいつもの間柄に戻ってしまいます。

光源氏と頭中将(内大臣)のすれ違いは、これからも続いてゆきそうな気配です。

末摘花の登場と「唐衣」の和歌

頭中将と内々の話も付き、晴れて玉鬘の裳着の儀(女性が結婚する前に行う成人式)が行われます。

人数にも入らないからと謙遜している花散里などを除いて、六条院の高貴な女性たちは彼女に祝いの品々を贈ります。

しかし、あの末摘花はいつもながら出過ぎたまねをして、光源氏を困らせるのでした。

彼女は、以下のようなマナー違反を重ねるのです。

  • 立場もわきまえず、自分のような妾がいることを玉鬘に知らせる
  • 祝い事なのに、尼僧が着る弔事用の青鈍色の着物を贈る
  • 祝い事なのに、恨み言の歌を一緒に送ってくる

さすがに腹立たしく思った光源氏は、末摘花が送ってきた和歌に対して、おそらく『源氏物語』中で最も思いやりのない返歌をします。

▽光源氏が送った『源氏物語』上で最も思いやりがない歌

からころも/またからころも/からころも/かへすがへすも/からころもなる

意訳:唐衣、また唐衣に唐衣、返す返すも唐衣と、あなたはそればかりですね

これは五句のうち四句も「からころも」が入っているという、ほかに類を見ない歌です。

「唐衣」は恋の恨み節によく使われる言葉で、三句目に置くと和歌が作りやすく、またそれなりの出来にもなります。

唐衣という句を多用(馬鹿の一つ覚え)する末摘花を痛烈になじった、光源氏の怒りの一首といえるでしょう。

ちなみに末摘花が詠んだ歌を全て集めてみました▽

  • からころも君が心のつらければたもとはかくぞそぼちつつのみ(「末摘花」巻)
  • たゆまじき筋を頼みし玉鬘思ひのほかにかけ離れぬる(「蓬生」巻
  • 亡き人を恋ふる袂のひまなきに荒れたる軒のしづくさへ添ふ(「蓬生」巻
  • 年をへてまつしるしなきわが宿を花のたよりにすぎぬばかりか(「蓬生」巻
  • きてみればうらみられけり唐衣かへしやりてん袖を濡らして(「玉鬘」巻)
  • 我が身こそうらみられけれ唐衣君がたもとになれずと思へば(「行幸」巻)

「唐衣」が入っているのは6首中3首ですが、「蓬生」巻は別人のように健気な末摘花が主人公の物語。

「たゆまじき〜」と「亡き人を〜」の2首は恋の歌でないこともあり、あえて「唐衣」を入れなかった作者の意図が伺えます。

小助
比較的良い話である「蓬生」巻にも唐衣の句が入っていたら、光源氏が「唐衣」をなじることは「蓬生」巻の否定にも繋がるので、入れなかったのでしょうね
これを見ると、末摘花が詠んだ恋の歌にはほとんど「唐衣」が入っていることになり、周到な伏線になっていることが分かります。

ちなみに末摘花が登場するのはこの「行幸」巻が最後。

少し寂しいですが、なぜか安心もするキャラクターでした。

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暴れる近江の君

末摘花とバトンタッチで登場してこの巻を締めるのは、若きトリックスター近江の君。

彼女は、頭中将(内大臣)と位の低い女性の間に産まれた娘で、頭中将が玉鬘を探している時に、「私はあなたの娘です!」と名乗りをあげた子です。

近江の君は出世欲にあふれる元気いっぱいの女の子なので、玉鬘が入内するという噂を聞いて羨み、兄弟たちに当たり散らします。

近江の君
玉鬘さんって私と同じ卑しい生まれなんでしょ?どうしてあの人が入内して、私が入内できないのよ!お掃除とかお洗濯とかいっぱい頑張ってるのに!
それは玉鬘さんにそれだけの価値があるからでしょう。それにしてもどこからそんなことを聞いたのですか・・・
柏木
近江の君
うるさいうるさい!私が宮仕えにきたのは尚侍(天皇の妻の一人。位は最も低い)にでもなれるかもしれないと思ったからです!それをあんな人に先を越されるなんて!弘徽殿女御さまがよくしてくれないからよ・・・!
ふっ、尚侍の空きがあるなら、あなたより先に私が望みますよ。それは身の丈に合わない願いというものです。(尚侍は男の役職ではないのに、男である自分の方が近江の君よりマシだとする嘲りの言葉)
柏木
近江の君
みなさんの薄情者!兄妹で寄ってたかって私を嘲って、少々の人なら耐えられないお家ですわ!ああ恐ろしい、ああ恐ろしい!
まあまあ落ち着いて、働き者のあなたですから、弘徽殿女御さまもいつか考えてくれることもあるでしょうよ
柏木
近江の君
弘徽殿女御お姉さま!私を尚侍にしてください!

思ったことをすぐに口にする彼女は、当時こそはしたないと思われていましたが、今となっては意志の強い現代風な女性のようにも思います。

ちなみに、頭中将(内大臣)一家の代表的な登場人物は以下の人たち。

  • 長女:弘徽殿女御
  • 次女:雲居雁
  • 長男:柏木(中将)
  • 次男:弁少将
  • 劣り腹の子:近江の君

ここに頭中将(内大臣)自身も加わって、近江の君を笑いものにしています。

どれだけ思いが強くとも、当時の女性の人生の方向は、ほとんど出自に決められてしまうことがこの場面からは分かります。

パワフルな近江の君が現代に生きていたら、なにか大きな成功を掴んでいたかもしれません。

次巻も引き続き、都の噂の的になっている玉鬘を中心に、物語が進んでゆきます。

『源氏物語』「行幸」の主な登場人物

光源氏

36歳。頭中将(内大臣)に玉鬘の話を明かす。

玉鬘

行幸で冷泉帝を見て好感を覚える。

裳着の儀をすませ、父・頭中将(内大臣)にも初めて顔合わせする。

頭中将(内大臣)

光源氏に玉鬘の秘密を聞いて喜ぶが、落ち着いて考えて光源氏の真意を悟る。

近江の君を笑いものにして、自らを慰める。

近江の君

自分の境遇と同じなのに、尚侍になるという噂の玉鬘を羨んで、兄妹に不満をぶつける。

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