『なにかが首のまわりに』の解説!
ここでは『なにかが首のまわりに』の解説をまとめました。
- 「きみ」と言っているのは誰なのか?
- 何が首のまわりに迫ってきたのか?
ということを考察します。まずは概要や登場人物からみていきます。
・『なにかが首のまわりに』の概要
物語の中心人物 | きみ(アクナ) |
物語の 仕掛け人 |
彼 |
主な舞台 | メイン州→コネチカット州(アメリカ) |
時代背景 | 現代 |
作者 | チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ |
・『なにかが首のまわりに』登場人物
きみ(アクナ)
物語の主人公で、ナイジェリア人のイボ族女性です。22歳でアメリカへ渡り、移民として暮らしています。
彼
州立大学の4年生(3年間休学)。異国文化に関心の高い白人男性です。
語り手
主人公のことを「きみ」と言う人物。物語内で、直接的に誰であるか分かる箇所はありません。
・「きみ」と言っているのは誰なのか?
『なにかが首のまわりに』では、語り手が特殊な二人称を使っています。
そのため、
- 「きみ」って言ってるこの人は誰なのか?
という疑問が物語を読んでいると生まれます。
答えを先に言ってしまうと、この語り手は、主人公である「きみ」がナイジェリアに残してきたボーイフレンドである可能性が高いです。
そう考えられる理由は、この『なにかが首のまわりに』は、チママンダさんの長編小説『アメリカーナ』の原石のような小説だからです。
長編『アメリカーナ』の元作品
『アメリカーナ』では主人公の女性が、ナイジェリアにボーフレンドを置いてアメリカへ渡ります。そして、あることをきっかけに、ボーイフレンドとは連絡を取らなくなり、彼女はアメリカで新しい彼氏を作るのです。
ナイジェリアの彼は、急に連絡が取れなくなったアメリカにいる彼女を心配して、たくさんメールをしたり、電話をかけたりするのですが、連絡がつくことはありませんでした。
それから10年ほどが経ち、30代で2人は再会します。そこで初めて、主人公の女性はかつてのボーイフレンドに、アメリカに渡ったとき何があったのかを話すのです。
このように、『アメリカーナ』は『なにかが首のまわりに』の物語を拡大したような小説なので、この設定と合わせて考えると、「きみ」と言っている語り手は、ナイジェリアのボーイフレンドの可能性が高いと考えられます。
ちなみに『なにかが首のまわりに』のタイトルは、初版では『アメリカにいるきみ(You in America)』でした。アメリカにいるきみのことを、ナイジェリアにいる彼が語るという構造が、タイトルからも読み取れます。
・何が首のまわりに迫ってきたのか?
夜になるといつも、なにかが首のまわりに巻きついてきた。ほとんど窒息しそうになって眠りに落ちた。
C.N.アディーチェ『なにかが首のまわりに』河出書房新社,p168
タイトルにもなっているこの一文では、主人公の女性「きみ」がアメリカへやって来た当初に感じていることが書かれています。
「窒息しそうになって」いることから、精神的にきつい、不快感のあるものなのでしょう。しかし8ページ後には、この「巻きついてきたもの」からの解消が書かれています。
きみの首に巻きついていたもの、眠りに落ちる直前にきみを窒息させそうになっていたものが、だんだん緩んでいって、消えはじめた
C.N.アディーチェ『なにかが首のまわりに』河出書房新社,p176
この8ページの間にあったのは、「エクストラ・ヴァージンオイルの色」の瞳を持つ「彼」との出会いです。
回復するアイデンティティ
主人公が彼と交際するようになると、アメリカに来てからいままで抱えていた孤独感や劣等感は次第に薄れ、アイデンティティを回復していきます。
「巻きついていたもの」が消えはじめるのを感じる直前には、彼女は彼と人種問題で口論になっていて、その後仲直りをしています。
それだけ主人公は、彼といるときに自分自身でいられるようになっていて、人種にまつまる繊細なことまでも、自分の意見を言えるようになっているのです。
首に迫ってきたもの=アイデンティティを突き崩す目に見えない力
この経緯をまとめると、
- アメリカに来た「きみ」はアイデンティティが揺らぎ、なにかが首のまわりに巻きつくような窒息感を感じる
- 「彼」に出会い少しずつアイデンティティを回復する
- なにかが首に巻きつくような感覚が消え始める
となります。こうしたことから、「首のまわりに巻きついていたもの」は、主人公のアイデンティティを突き崩そうとしていた見えない力であると考えられるでしょう。
テーマが掘り下げられている『アメリカーナ』
長編の『アメリカーナ』では、『なにかが首のまわりに』で描かれている「移民問題」というテーマが深くまで掘り下げられています。
ベースは恋愛小説なので読みやすく、ほんとに『なにかが首のまわりに』を縦横に広げたような作品になっています。(『アメリカーナ』の主人公はもっと明るく活発ですが、問題意識は同じです。)
チママンダさんの小説に興味があるかたは、ぜひ読んでみて下さい。以上、『なにかが首のまわりに』の解説でした。
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