『青春の逆説』とは?
『青春の逆説』は、織田作之助の長編小説です。
過剰な自意識とねじれた好奇心を持つ主人公・豹一の半生が描かれています。
ここではそんな『青春の逆説』のあらすじ・解説・感想をまとめました。
『青春の逆説』のあらすじ
お君は金助の一人娘として生まれ、軽部という男に嫁ぎ、間に豹一という男の子が生まれる。
軽部が死ぬと、お君は金持ちの安二郎の元へ嫁ぐ。
その先で、まだ幼い豹一は山谷という下人に安二郎と母の猥褻な話を聞き、性的なものへの嫌悪を植え付けられる。
そんな生い立ちからか、豹一は過剰な自意識を持ったまま年を重ねる。
成績は優秀で、中学から三高(現・京都大学)へと進むが、理由あって中退。以後新聞社に就職する。
二十歳になった豹一は女性への嫌悪も少しずつ乗り越え、当時一世を風靡した女優ともありきたりな関係になったりする。
最後にはカフェの女中との間に子どもが出来、父親となる。
出産に立ち会い、子どもが生まれた瞬間、女性の生理への嫌悪はなくなる。
お君はときどき孫の顔を見に、豹一のもとを訪れる。
・『青春の逆説』の概要
主人公 | 豹一 |
物語の 仕掛け人 |
お君 |
主な舞台 | 大阪→京都→大阪 |
時代背景 | 大正~昭和 |
作者 | 織田作之助 |
-解説(考察)-
・『青春の逆説』のテーマ
『青春の逆説』は、
- 主人公・豹一の女性受容
が描かれている作品です。
幼い頃に性的なものに対する嫌悪感を植え付けられた豹一は、その嫌悪を保ったまま成長します。
そのせいで、青春の時代に女性と良い関係になっても手すら繋げないありさまです。
そんな彼も大人になると、風邪を引いたときに看病してくれていた女優と関係を持ちます。
遊郭でも遊ぶようになると、女性が一種の労働だと割り切って働いている姿に、豹一の嫌悪感は薄らいでいきます。
そうして最後にはある女性との間に子どもができ、その出産を見て子どもの産声を聞いたときに、女の生理に対する嫌悪がすっと消えてしまうのです。
こうしてみると、作品を通して豹一の女性受容が描かれていることが分かります。
おそらく彼は最初、男女の交わりが動物的な欲望が生み出すものであると認識していました。
けれども、成長に伴う抗いがたい好奇心や、理性的にそうした行為を割り切っている人々を見て、豹一の認識は変化していきます。
そして最後に、「出産」という欲望も理性も超えた生命の奇跡を目の当たりにすることで、彼の認識はすっかり変わってしまったのでしょう。
こうした豹一の変化が、『青春の逆説』ではメインとして描かれています。
・前身『雨』との違い
『青春の逆説』は、織田作之助の初期作品『雨』を下敷きに書かれた作品です。
『雨』では、一章に出てくる母のお君を主人公にして物語が進みますが、『青春の逆説』では二章の豹一をメインに物語が進みます。
それぞれ物語の枠組みは同じですが主人公は違うので、話のテーマが異なるところが両作品の一番の違いでしょう。
ほかにも、豹一に性的な嫌悪感を植え付けさせた人物の違いや、中学時代の恋人・紀代子の性格、また豹一の妻となる友子の描かれ方など、細かい違いが多くあります。
それらの小さな違いが、ふたつの作品の内容を全く違ったものにさせていることは言うまでもありません。
『青春の逆説』を呼んだ人は『雨』を、『雨』を読んだ人は『青春の逆説』をセットで読んでみることをおすすめします。
『雨』のあらすじ・解説はこちら▽
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織田作之助『雨』あらすじから解説まで!「或る意味で」の処女作
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-感想-
・三高の雰囲気が味わえて面白い作品
『青春の逆説』で特徴的なのは、三高(旧制第三高等学校)の雰囲気や、そんな三高に対する主人公・豹一の態度だと思います。
豹一のキャラクターは漱石の「坊っちゃん」にも似た真っ直ぐさがありますが、過剰な自意識が大正の雰囲気を感じさせて、そこがまた面白い。
つまり彼の態度はどちらかと言えば現代的で、それだけに多くの読者は彼に感情移入しやすいかもしれません。
『夫婦善哉』以外に織田作之助のおすすめ小説を尋ねられたら、僕はこの『青春の逆説』をおすすめします。
今で言うと直木賞作というか、読みやすくて楽しめる作品です。ほかには『天衣無縫』や『土曜夫人』もおすすめです。
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以上、『青春の逆説』のあらすじ・解説・感想まとめでした。
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