どうも、小助です。
この記事では第160回芥川賞受賞作、町屋良平さんの『1R1分34秒』のあらすじ・見どころ・感想を書いています。
読んだ人には物語の解説としても楽しむことが出来るので、ぜひ参考にしてみて下さい。
『1R1分34秒』のあらすじ・紹介
21歳のボクサーである「ぼく」は、プロデビューしてから負けが続いている。
トレーナーにも見放され、アルバイトもクビになる。
そんなとき、ウメキチという先輩が新たなトレーナーとなり、「ぼく」はひとつ殻を破る。
勝つことが全てなのか?
勝敗がもたらす人間心理をボクシングを背景にして描いた物語だ。
そんな『1R1分34秒』見どころを二つに絞って紹介していく。
-見どころ-
1.文系ボクサー
この物語の見どころは、
- 文化系っぽい主人公 × ばりばりの体育会系スポーツ
という「ちぐはぐ」な組み合わせが引き起こす化学反応だ。
ボクシングを主軸にしているとはいえ、『1R1分34秒』は熱いスポ根物語ではない。
主人公の「ぼく」はむしろ醒めていて、しばしば「ボクサーっぽい」状況の自分を意識しながら、あえて身を任せている。
そんな彼だからこそ見えてくる独自の世界観がある。
ボクシングを知らなくても楽しめる、文系ボクサーが主人公の作品になっている。
・2.主人公と他者
ボクサーの「ぼく」は、あまり自分のことを話すタイプの人間ではない。
彼の人物像は、その多くが他の登場人物によって引き出されている。
とりわけメインとなるのが、
- 趣味で映画を撮っている友人
- ボクサー先輩のウメキチ
- ガールフレンドの女性
の三人だ。
友人が主人公にカメラを向けると、普段寡黙な主人公はペラペラと内面を吐露する。
先輩のウメキチには歯に衣着せぬ物言いをするので、主人公の性格が見える。
ガールフレンドの女性は主人公の「弱さ」を引き出し、まだ彼が成熟しきらない大人であることが分かる。
こうした「他者」によって「ぼく」という人間存在が現前してくる描かれ方は面白く、この物語の見どころの一つだろう。
もちろん他にも見どころはあるが、それは本書で確認してみて欲しい。
『1R1分34秒』の感想
世の中上手くいく人もいれば、上手くいかない人もいる。
プロデビューしてから三敗一分。
かつての目標は「日本チャンピオン」だった主人公だが、思うように結果が出せない今では「取りあえず一勝すること」を一念に励んでいる。
窓の外に木があるせいで、彼の部屋は真昼でも薄暗く、ほとんど陽が射さない。日本文学らしい、いかにもジメジメした作品だ(そして僕はこのジメジメが嫌いじゃない)。
スポーツ漫画なんかでは、主人公が強くなりたいという気持ちを持っていることが多いと思うけれど、『1R1分34秒』の「ぼく」はそういった気概みたいなのが薄く描かれている。
だから、努力!勝利!感動!みたいなものを求めている人は、少し物足りないかもしれない。
けれど、この小説はたしかに弱者に寄り添っていて、そして実は、世の中のほとんどが弱者側の人間だ。
多くの敗北と少しの勝利という出来事を繰り返しながら、とにかく今を生きている人の共感を呼ぶ物語だと思う。
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