太宰治『饗応夫人』をあらすじから徹底解説!物語に出てくる動物がポイント!

『饗応夫人』とは?

『饗応夫人』は、戦争で生死不明になった夫を持つ夫人の様子が、主人公の女中の視点を通して描かれる物語です。

戦後直後の日本の様子を描いた小説で、太宰の後期に差し掛かる作品になっています。

ここではそんな『饗応夫人』のあらすじ・解説・感想まとめました。

『饗応夫人』のあらすじ

奥様はもとから、人をもてなすことが好きなお方でした。

いいえ、もてなすというよりも、何か怯えているとでも言った方が良いくらいで、ほとんど使命のようにお客様をもてなすのです。

ご主人は大学の先生をしておられましたが、戦争に召集され、今は生死が不明のようです。

家は戦争直後とはいえ、奥様の里の方からの仕送りもあり、物静かなお上品な暮らしをしていました。

しかし、笹島先生と再開してからは、この家の暮らしも変わってしまったのです。

笹島先生というのはご主人のご友人で、あるとき奥様とばったりと出会い、奥様は引き留めたくも無いのに、持ち前のおもてなし精神から家へ寄らせたのです。

それ以来、何かにつけてこの家に来ては、奥様をまるで召使いのように扱い、ずうずうしくも料理や酒を出させるのです。

あるときなどは二、三人のひとを連れて、「ここはただの宿屋だから遠慮することはない」などと甚だ失礼なことを言ったりします。

そんな日々が続いて、奥様がとうとう喀血をなさるほど疲れ切られたので、私はもう里へ帰りましょうとすすめました。

そうして汽車の切符を手に入れ、知られないうちにこそっと家を出た途端、なんと「や、これは、どこかへお出かけ?」と白昼から酔っている笹島先生が女性の方を二人連れて立っているのです。

その瞬間、奥様は泣くような笑うような不思議な声を出して、「いいんですの、かまいません」と言い、私をお使いに出させ、また接待の狂奔が始まりました。

私が市場に着いて財布の中を見ると、手に入れた汽車の切符が二つに千切られていました。

これはきっと奥様の仕業だと思うと同時に、奥様の底知れぬ優しさと人間の貴さを知ったような気がしたので、私も同じように切符を千切り、何か美味しいものはないかと市場を物色するのでした。

・『饗応夫人』の概要

主人公 ウメちゃん(女中)
物語の
仕掛け人
夫人
主な舞台 東京郊外
時代背景 戦後直後
作者 太宰治

-解説(考察)-

・物語に出てくる動物の効果

『饗応夫人』で特徴的なのは、物語の随所に見られる動物の形容です。以下がその一覧。

  • 「『鷲』の羽音を聞いて飛び立つ一瞬前の『小鳥』」のような夫人。
  • 「『狼』たちの来襲」と言われる笹島先生一行。
  • 「『鳥』鍋」。
  • 「『鰻』の蒲焼き」。
  • 「元気の無い腐った『魚』」のように帰って行く笹島先生一行。
  • 「『コマ鼠』の如く接待の狂奔」をする夫人。

などなど。これらの動物的な描写は、物語の構造上重要な役割を担っています。

たとえば、冒頭で夫人が「小鳥」と形容されてからすぐに笹島先生が「鳥鍋」を食べるという構図は、物語の結末を暗示している描写です。

ほかにも、笹島先生一行は「狼」と形容されており、夫人のか弱さと対比的に獰猛な獣として効果的に描かれています。

この物語は草木の表現も多くみられます。

  • 主人公・ウメちゃんの「梅」。
  • 笹島先生の「笹」。
  • 庭の「山吹」。

などです。

いずれも小鳥のような夫人とセットに描かれることが多いので、どこか日本画のモチーフのような、和の雰囲気を作品に漂わせる効果をもたらしています。

このように、『饗応夫人』では夫人を中心として様々な動物的形容が作中にみられますが、それは結末の一文で「人間」を強調する伏線になっています。

人間というものは、他の動物と何かまるでちがった貴とうといものを持っているという事を生れてはじめて知らされたような気がして、

ここで初めて夫人の「人間」的な精神が全面的に押し出され、虐げられていた夫人から貴い夫人へと、物語中の夫人の立場が逆転するのです。

こうしてみると『饗応夫人』は、動物の形容を通して、夫人の人間性を効果的に描いた作品だと言えるでしょう。

・夫人の声

『饗応夫人』では、夫人の

泣くような笑うような不思議な声

という文章が三回出てきます。

正確には、

  • 泣くような笑うような笛の音に似た不思議な声(序盤)
  • 泣くような笑うような不思議な歓声(中盤)
  • 泣くような笑うような不思議な声(終盤)

という三箇所で、いずれも夫人がお客を歓待するときに出す声です。

この「泣くような笑うような」というのは、夫人が歓待癖でお客をもてなすものの、心では苦しいと思っている心境が滲んでいる表現です。

終盤になるにつれてやはりその声も形容が少なくなり、どこか元気の無さが伺われます。

この夫人の特徴的な声が繰り返されることで、作品に哀調を出している『饗応夫人』の代名詞とも言うべき一文です。

-感想-

・ウメちゃんの精神的な変化

『饗応夫人』の主人公は語り手であるウメちゃんで、彼女の精神的な変化を描いた物語になっています。

この作品で一番貴い精神を発揮するのはこのウメちゃんだと思います。

なぜなら、夫人の貴さは自身の歓待癖から来るものであり、言わば彼女の人間性がさせているものです。

しかしウメちゃんはそうではなく、夫人の性をときには哀れにみるほど覚めた人物です。

そうした彼女が夫人の精神に心を打たれ、自らも夫人と同じ精神を持とうとしているところが、彼女の貴さだと思います(笹島先生一行の横柄さは個人的に我慢出来るものではありませんが)。

『饗応夫人』はこのような人間関係や、物語の描かれ方が面白い物語でした。

当ブログの「太宰治の女性語りおすすめ小説」記事にこの作品は含んでいませんが、個人的には太宰の女性語り小説の中でも好きな作品です。

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以上、『饗応夫人』のあらすじと考察と感想でした。

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