源氏物語

源氏物語「常夏」のあらすじ!近江君の人物像から光源氏と頭中将との対立&玉鬘への想いまで!

2022年6月30日

『源氏物語』第25帖「常夏」のあらすじ

光源氏:36歳

頭中将の息子たちと会話する光源氏

夏の六月、光源氏は息子の夕霧と一緒に涼んでいたところ、頭中将(内大臣)の息子たちが訪ねてきます。

源氏は夕霧が頭中将に受けた仕打ち(第21帖「少女」巻)を恨んでいるため、息子たちの前で頭中将を皮肉ります。

本来なら笑ってはいけない夕霧も、頭中将のことにはムカついていたので、思わず父の皮肉に笑ってしまうのでした。

光源氏に琴を教わる玉鬘

玉鬘は、父の頭中将が琴の名手だったことを光源氏から聞き、自分も弾いてみたい気になります。

腕に覚えのある光源氏は、玉鬘に琴を教えてあげることで、会う回数を増やしていくのでした。

頭中将の思惑

頭中将は玉鬘の噂を聞き、自分の娘たちと比較して屈辱感に苛まされます。

長女の弘徽殿女御は立后が叶わず、雲居雁も入内できませんでした。

いっそのこと夕霧にあげようかとも思うのですが、光源氏の余裕が気に入らない頭中将は、源氏が頼み込んでくるまで雲居雁はやらないと決めます。

愚直で滑稽な近江君

頭中将が引き取った近江君はたいへんな愚物で、思い上がったところもある迷惑な娘でした。

弘徽殿女御の女房として仕えることになった彼女は、よく分からない手紙を送り、さっそく女房たちから馬鹿にされます。

そうとも知らない近江君は、精一杯のおめかしをして、弘徽殿女御のもとへ行く準備をするのでした。

『源氏物語』「常夏」の恋愛パターン

光源氏―玉鬘

  • 光源氏:琴を教えると言って会う口実を作り、欲望と自制の狭間で揺れる
  • 玉鬘:光源氏の人となりが分かってきて、少しだけ気を許し始める

『源氏物語』「常夏」の感想&面白ポイント

光源氏と頭中将の対立

「常夏」巻で中心的なテーマとなってるのが、光源氏と頭中将の対立です。

光源氏は、自分の息子である夕顔と、頭中将の娘である雲居雁の恋愛を、頭中将が引き裂いたことに苛立ちを覚えています。
光源氏
まだ12歳やそこらの二人の仲を引き裂くなんて、大人気ないと思わない?

▽光源氏の頭中将に対する気持ちの本文

「中将(夕霧)を厭われるとは、頭中将は本意のない人だ。貴い藤原氏ばかりで一族を固め栄えているなかに、源氏である夕霧の血が入ることをいやがっているのだろうか。(中略)幼い子ども同士の約束だったのにそれすらも結ばれず、頭中将が長い年月隔てておられるのが恨めしいのです。まだ夕霧の地位も低く世間体が悪いと思うのなら、知らないふりをしてこちらに任せても良かったものを」などとため息を漏らしている。

「中将を厭ひたまふこそ、大臣は本意なけれ。まじりものなくきらきらしかめる中に、大君だつ筋にてかたくななりとにや(中略)ただ幼きどちの結びおきけん心も解けず、年月隔てたまふ心むけのつらきなり。まだ下臈なり世の聞き耳軽しと思はれば、知らず顔にてここに委せたまへらむにうしろめたくはありなましや」など呻きたまふ

『源氏物語「常夏」』

頭中将は娘を利用して一族の繁栄を望んでいるので、源氏の息子などではなく、天皇に嫁がせて皇后にしたいわけですね。

光源氏と頭中将は昔からライバル関係で、何かにつけて競い合っており、また周りからも比較されることが多く、そのつど頭中将は光源氏に敗れていました。

光源氏と頭中将の諍い

そこへ加えて玉鬘関連の話は、かつて頭中将の彼女だった夕顔をめぐる大きな物語でもあります。

第12帖「須磨」巻のように熱い友情を見せる場面もあり、決して仲が悪いわけではない二人でしたが、ここへきて対立的な立場が強調されています。

順風満帆な光源氏と、一族の先行きが見えてこず焦る頭中将。

幼い頃からの馴染みだった二人の関係は、玉鬘(光源氏にとっては養子であり、頭中将にとっては実子)を中心にどうなってゆくのか、今後の展開に期待が膨らむ仕掛けとなっています。

近江君の登場

前巻「蛍」で、夕顔との子どもを夢に見た頭中将。

その夢を占わせた結果、どこかで養子として育てられているという占いを聞きます。

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前々からその遺児を探していた頭中将は、息子たちに何かしらの手がかりがあれば報告するように伝えていました。

▽「頭中将の玉鬘に対する気持ち」本文

「あの撫子(玉鬘)はどうなったことだろう。どことなく頼りなかった母親だったから、あの可愛い子もついに行方知れずになってしまった。雲居雁と夕霧のこともそうだが、すべて女子というのは目を離してはならないのだ。勝手に自分の子だと言いながら、みすぼらしく落ちぶれているのではないだろうか。とにかくどのような形でも消息を知ることができたら・・・」と寂しく思っている。息子たちにも、「もしそのように名乗る人の噂を聞きつけたら知らせておくれ。若気の至りで間違いの多かったなかでも、夕顔はほかの女と同列とは思われなかったが、そんな彼女にもあっけなく飽きてしまって、少ない娘の一人を失くしてしまったのが今となっては残念でならなくて・・・」と常々おっしゃっている。

「いかになりにけむ。ものはかなかりける親の心にひかれて、らうたげなりし人を行く方知らずなりにたること。すべて女子といはむものなんいかにもいかにも目放つまじかりける。さかしらにわが子といひて、あやしきさまにてはふれやすらむ。とてもかくても聞こえ出で来ば」とあはれに思しわたる。君たちにも、「もしさやうなる名のりする人あらば耳とどめよ。心のすさびにまかせて、さるまじきことも多かりし中に、これはいとしかおしなべての際にも思はざりし人の、はかなきもの倦じをして、かく少なかりけるもののくさはひ一つを失ひたることの口惜しきこと」と常にのたまひ出づ

『源氏物語「蛍」』

頭中将
どこかに私の養子が隠れていないものか・・・

こうした頭中将の気持ちに、「それ、私です!」と名乗り出てきたのが、近江君という女性でした。

近江君とは誰か?

近江君は、末摘花や源典侍のような道化役として登場します。

しかし、近江君は身分がかなり低く頭もあまり良くないため、女房たちからは堂々と笑われるなど、そのイジられっぷりは抜きん出ています。

「常夏」巻で分かる彼女の特徴は、以下の通りです。

  • すごろくが好き
  • かなり早口
  • 活きがよく元気
  • 無邪気で可愛らしい
  • 和歌や手紙が下手

なかでも双六の場面は面白く、思わず笑ってしまいます。

▽近江君のすごろくシーン。

近江君は五節の君という若い世話人とすごろくをしている。手をすり合わせて、「小さい目が出て、小さい目が出て」と祈っている声がとても早口である。ああなんとはしたない、と頭中将(内大臣)は思って、お供の人が出そうとする内大臣のお通りを知らせる声を、手を出して制して、妻戸の隙間から、障子の開いている奥の部屋を見る。相手の五節の君もテンションが上がって、「お返しよ、お返しよ」と言いながら筒をひねり、すぐにはサイコロを出そうとしない。中に願いでも込めているのだろうか、なんとも浅はかな体たらくである。

(五節の君とてされたる若人のあると双六をぞ打ちたまふ。手をいと切におしもみて、「小賽、小賽」と祈ふ声ぞ、いと舌疾きや。あなうたて、と思して、お供の人の前駆追ふをも、手かき制したまうて、なほ妻戸の細目なるより、障子の開きあひたるを見入れたまふ。このいとこもはた気色はやれる、「御返しや、御返しや」と筒をひねりて、とみにも打ち出でず。中に思ひはありやすらむ、いとあさへたるさまどもしたり)

『源氏物語「常夏」』

小助
すごろく(「人生ゲーム」や「マリオパーティ」など)で、自分の番だと「大きい目が出てくれ」と祈ったり、相手の番だと「小さい目が出てくれ」と言ったりするのは、現代でもよくある光景のように思います。少なくとも僕には覚えがありますね笑
当時は早口で話したり、はしゃぎすぎたりするのはハシタナイので、女の子の振る舞いとして歓迎されませんでした。

はしたない近江君に頭中将も困り果て、彼女をどうやって厄介払いしようかと考えます。

そうして、長女の弘徽殿女御のもとに仕えさせることを決めるのでした。

現代からすると、女の子どうしで双六をしてはしゃいでいる様子が可愛らしい場面ですが、当時は女の子たちの反面教師として、近江君の様子が描かれていたのかもしれません。
女房1
あんまりはしゃいでいると、『源氏物語』に出てくる近江君のようになりますよ!

見た目は悪くありませんが、遊んだり話したりすると残念な近江君。

『源氏物語』のなかではイジられていますが、現代的な観点からするとむしろ個性的であり、僕は好きな登場人物です。

ちなみに、第35帖「若菜下」巻でも近江君がすごろくをしている場面があり、「常夏」巻での近江君を覚えていたら思わず吹き出してしまいます。

玉鬘を想う光源氏の煩悶

「常夏」巻では琴を教えることで、玉鬘と一緒にいる口実をゲットした光源氏。

玉鬘への想いは募るばかりで、これからの関係をどうしようかと悩みます。

光源氏の煩悶を簡単にまとめてみました。

光源氏
ああ苦しい、いっそのこと玉鬘へ思いを打ち明けようか
光源氏
いやいや、そんなことしたら世間になんて言われるか分からない。私のことはともかく、玉鬘がかわいそうだ・・・
光源氏
それにそうした困難を乗り越えたとしても、身分的に紫上と同列には絶対扱えない
光源氏
それでは明石の君たちと同様になる。玉鬘が私の妻の一人として暮らすことに、どれほどの幸せがあるというのか。納言程度の身分の人間に、一途に大事にされた方がいくらもマシだろう。ああ切ない
光源氏
いっそのこと蛍兵部卿宮か髭黒大臣にでも嫁がせようか。そうすれば私とは縁も切れて、思い切りもつくというものだ。うん、そうしよう
光源氏
でも会ってみれば、そんな考えも吹っ飛ぶくらいめっちゃ可愛いんだよなぁ・・・
光源氏
六条院に住まわせたまま、夫の方をここに通わせるか。そうすれば会いに行っておしゃべりくらいできるし。
光源氏
正直、今は恋愛経験が少ない玉鬘を靡かせるのが難しいところもある。夫でもできたら経験も積めるし、私の情も分かってくれるだろう。それからでも遅くないかも・・・?

最終的にはわりとゲスい結論に辿り着く光源氏。

理性では玉鬘を自分から離した方が良いことは分かっていますが、欲望が玉鬘を離したくないと言っており、その狭間で揺れている心理が描かれています。

「玉鬘」巻から続く光源氏と玉鬘の関係ですが、まだまだ終着点は見えそうにありません。

次巻の「篝火」でも、玉鬘への想いが秋の中の篝火として描かれてゆきます。

『源氏物語』「常夏」の主な登場人物

光源氏

36歳。夕霧と雲居雁を引き離した頭中将(内大臣)を厭わしく思う。

玉鬘への恋情抑えがたく煩悶する。

夕霧

父の光源氏とともに夏を涼む。

頭中将(内大臣)の息子たちと一緒に、光源氏の頭中将批判を聞く。

玉鬘

父である頭中将(内大臣)と光源氏の不仲を察し、再会への期待がしぼみゆく。

源氏に琴を習い、会う回数が増えていくにつれて、光源氏という人物に少しずつ慣れていく

頭中将(内大臣)

娘たちがうまく一族繁栄のためになってくれていないことに不満を抱いている。

玉鬘を探していたおり、近江君を拾う。

近江君

身分の低い女と頭中将の娘で、器量は悪くないが、機転が利かず節操がない。

末摘花や源典侍と同じく、物語のなかに笑いをもたらす道化役として登場する。

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