『源氏物語』第31帖「真木柱」のあらすじ
玉鬘と髭黒大将の結婚
玉鬘は髭黒大将と結婚し、こんなことになってしまった身の上を嘆きます。
入内を心待ちにしていた冷泉帝も残念に思いますが、玉鬘は予定通り尚侍として仕えることになるのでした。
髭黒大将の妻・北の方が錯乱する
髭黒大将の妻・北の方は、玉鬘を迎え入れると聞くと腹が立って仕方ありません。
彼女は髭黒大将の服に灰を投げつけたり、騒ぎ散らしたりして醜態を極めます。
式部卿宮家と光源氏家の対立
北の方は実家に帰り、母の大北の方に不満をぶちまけます。
「これも全て光源氏の工作で、私たちを追い詰めようとしているのですわ!」
ついでに紫上も非難され、式部卿宮家と光源氏家の対立はより深まります。
束縛が強い髭黒大将
年が明けて、玉鬘は尚侍として出仕します。
男たちが寄り付かないかと不安な髭黒大将は、すぐ外で待ち受けて、強引に自宅へと連れて帰るのでした。
玉鬘の出産と近江の君の恋愛
11月になり、玉鬘は男の子を出産します。
その頃、近江の君は夕霧に一目惚れをしてアプローチするも、はしたなさゆえに相手にもされませんでした。
『源氏物語』「真木柱」の恋愛パターン
玉鬘―髭黒大将
- 玉鬘:既成事実を作られて髭黒大将の妻となる
- 髭黒大将:おそらく強引に3日間通い続け、結婚に至った
『源氏物語』「真木柱」の感想&面白ポイント
玉鬘と髭黒大将はなぜ結婚したのか?
第22帖「玉鬘」巻〜第30帖「藤袴」巻の長い間、美少女・玉鬘ちゃんをめぐる恋愛が描かれてきました。
この「真木柱」巻でついにその結末を迎えるのですが、最終的に玉鬘が結婚した相手はなんと髭黒大将です。
玉鬘は結婚後も髭黒大将を嫌がっているので、彼女が望んだことでもなさそうです。
- ではなぜ彼女は髭黒大将と結婚したのか?
- そもそも、どうやって無理やり結婚できるのか?
この点を解説していきます。
当時の結婚は通い婚だった!?三日続くと結婚に!
現代の結婚と平安時代の結婚は全然違います。
まずは、当時はどうなったら「結婚」になるのかを確認しておきましょう。
当時の結婚は、男性が女性の家に通う
- 通い婚
でした。
夜に夫が妻のもとへ訪れて、朝になると帰る婚姻形式です。
それが三日続けば、女性側の家主がそこへ入ってきて、男性に餅を食わせます。
それから婿と舅(ここでは髭黒大将と光源氏)が対面し、盃を交わすまでが「露顕(トコロアラワシ)の儀」といい、その一連の流れで結婚の事実がつくられます。
▽まとめるとこうですね。
当時の結婚方法
- 男が女の家に三日間通う(「妻問」)
- 女性側の家は三日目の夜に餅を用意して食わせる(初めて互いの顔を見る「三日夜の餅〈ミカノモチイ〉」)
- 婿と舅が対面して盃を交わす(「露顕の儀〈トコロアラワシ〉」)
当時の日本は風習を非常に重んじていたため、その儀式さえ成立してしまうと、当人や周りの意思に関わらず、結婚するほかなくなってしまいます。
おそらく髭黒大将は、玉鬘の元へどうにかして三日間通い続け既成事実を作り、「露顕の儀(トコロアラワシ)」を済ませたのでしょう。
たとえば『落窪物語』では、別の男性と勘違いして「露顕の儀」をしてしまったために、仕方なく結婚しなければいけなかった女性の話があります。
髭黒大将はこうした当時の価値観を利用して、嫌がる玉鬘と強引に結婚できたと考えられます。
なぜ髭黒大将なのか?
この疑問はもっともで、3日間通い続けることが簡単なら誰も苦労はしないはずです。
なので、自分の恋文を確実に相手に届けてもらう人物が必要だったり、お付きの女房と仲良くなっておくことも大事になってくるんですね。
もちろん、相手の家に出入りできるほどの身分がなければ門前払いです。
こうした問題をクリアできると、あとは強引さで乗り切れてしまう部分はあると思います。
たとえば光源氏は藤壷と逢瀬をするとき、彼女の女房である王命婦のコネを使いました。また、夫がいる空蝉を口説くときには、彼女の弟である小君を使い走りにしています
このように、当時の恋愛は一対一ではなく、誰かの介入がなければ基本的には成り立ちません。
つまり、以下の3つが女性と結婚するために必要なことです。
- ターゲット周辺のコネ
- 自身の身分
- 周囲のサポート
これらが揃わないと、女性の家にしげしげと通うことはできないのです。
では、髭黒大将の場合は誰を使ったのか?
それは、頭中将(内大臣)の息子である柏木です。
髭黒大将と玉鬘をくっつけた柏木
髭黒大将の恋愛を柏木がサポートしていることは、「藤袴」巻で語られています。
髭黒大将は柏木の直属の上司なので、常に呼び止めてはねんごろに話して、頭中将(内大臣)にも玉鬘をぜひ私にと取り継がせている。人望も厚く、次期皇帝の叔父という立場なので、玉鬘の実父である頭中将は、髭黒が婿になることを良しと思うが、光源氏が世話をしている玉鬘のことなので自分が表立って意見することもできず、また彼なら良いようにしてくれるだろうとも思うので、光源氏に任せている。
(大将はこの中将は同じ右の次将なれば、常に呼びとりつつねむごろに語らひ、大臣にも申させたまひけり。人柄もいとよく、朝廷の御後見となるばかめる下形なるを、などかはあらむと思しながら、かの大臣のかくしたまへることをいかがは聞こえ返すべからん、さるやうあることにこそと心得たまへる筋さへあれば任せきこえたまへり)
『源氏物語「藤袴」』
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『源氏物語』「空蝉」あらすじを簡単に!感想&和歌の意味・登場人物相関図まで!
このように、髭黒大将は弟である柏木を使って、玉鬘にアタックしました。
さらに、「弁のおもと」という玉鬘つきの女房をつかまえて、仲を取り持つように迫っています。
(髭黒大将は)玉鬘の父親が自分を婿とするのに好意的であることを柏木から漏れ聞いているので、「ただ源氏の君のご意見が違うだけのことです。実父である頭中将(内大臣)殿の御心さえよければ」と弁のおもとに迫って、玉鬘との仲を取り持たせようとしている。
(内々の気色もさるくはしきたよりしあれば漏り聞きて「ただ大殿の御おもむけのことなるにこそはあなれ。実の親の御心だに違はずは」とこの弁のおもとに責めたまふ)
『源氏物語「藤袴」』
髭黒大将はこうして、以下の3つを手に入れました。
- ターゲット周辺のコネ:柏木
- 自身の身分:右大将(光源氏、頭中将(内大臣)に次ぐ権力者で、次期皇帝の叔父)
- 周囲のサポート:弁のおもと
これらが揃ったところで、強引に3日間の通い婚を成立させたのでしょう。
これが、髭黒大将が玉鬘と結婚できた理由です。
玉鬘も光源氏も望まない結婚ですが、髭黒大将に一本取られた形ですね。
「玉鬘十帖」は玉鬘をめぐる源氏と頭中将の争い
頭中将(内大臣)は、むかしから何かにつけて光源氏と競ってきたライバルです。
光源氏と頭中将の競い合い例
つまり、「玉鬘十帖」も玉鬘という女性を巡った、
の争いと読むことができるでしょう。
そしてその勝者は、髭黒大将の婿入りを望んでいた頭中将(内大臣)です。
作中で頭中将が光源氏に勝つことは滅多になく、おそらくこの玉鬘をめぐる競い合いが初勝利。
ここにきて、光源氏の引き立て役でしかなかった頭中将の面目が立ったことは、物語的に面白い刺激となっています。
髭黒大将が女々しい束縛男だった
さて、思い通りに玉鬘を手に入れた髭黒大将ですが、彼は意外と束縛が激しい男でした。
玉鬘が尚侍として帝のもとに参内すると、一日中「今夜は帰ってきておくれ」と言いながらまとわりついているのです。
尚侍は「女御・更衣」の一段下の位で、夫がいても参内できます
しかしその日、髭黒大将の恐れていたことが起こります。
前々から想いを寄せていた蛍兵部卿宮が懸想文を玉鬘に送り、帝が玉鬘に戯れかけるのです。
このように、髭黒大将は頭中将(内大臣)に働きかけて口実をつくり、玉鬘を急いで退出させます。
見た目は髭がボウボウで、身だしなみにもあまり気を使わない髭黒大将。
髭黒大将の妻・北の方が怒って光源氏に当たる
さて、玉鬘にゾッコン中の髭黒大将に、鬼のように怒っているのは妻の北の方。
彼女は髭黒大将に灰を投げたり、喚き散らしたりして彼を罵ります。
さらには、
なんて言い出し、光源氏をボロクソに批難する始末。
このあたりは、北の方と紫上の関係を知らないと分かりにくいところです。
実は、紫上が光源氏に嫁いだときから因縁のある関係なんですね。
詳しくは下の記事でまとめているので、知りたい方は読んでみてください。
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源氏物語「藤袴」のあらすじ!兵部卿宮と光源氏の仲が悪い理由から頭中将の思惑まで!
以上「真木柱」巻のあらすじから、玉鬘と髭黒大将が結婚した理由までの考察でした。
『源氏物語』「真木柱」の主な登場人物
光源氏
37〜38歳。玉鬘を髭黒大将に取られる。
紫上の異母姉である北の方から恨みを買う。
玉鬘
嫌々ながら、髭黒大将と結婚する。
結婚後は髭黒大将の息子たちにも好かれ、一年後には男児も出産する。
髭黒大将
玉鬘を強引に娶ると、妻・北の方は実家に帰った。
束縛が激しく、玉鬘の宮仕えを監視し、危なくなると連れ帰る。
北の方
髭黒大将の妻。玉鬘が妻になったことで、髭黒との離縁を決意する。
実家に帰り、父の式部卿宮や母の大北の方に不満をぶちまける。
式部卿宮
髭黒大将の振る舞いを見て、娘が笑われ者になると考え、自宅に引き取る。
大北の方や北の方が光源氏を非難するも、彼は少しだけ擁護する。
冷泉帝
玉鬘の宮仕えを心待ちにしていたが、髭黒大将に邪魔をされて残念がる。
初めての出仕で戯れかけるが、髭黒大将が見張っているので面白くない気持ちになる。
蛍兵部卿宮
宮中にいる玉鬘に恋文を送り、玉鬘の心をくすぐる。
近江の君
夕霧に一目惚れして歌を詠むが、そのはしたなさに辟易される。
夕霧
近江の君に言い寄られるが、生真面目な彼は全く相手にしない。
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