「幻想性・怪奇性」だけじゃない泉鏡花
泉鏡花は「怪奇性・幻想性」が特徴的な作家です。
しかし、作品によっては人情味の強いもの、社会性が強いもの、芸術性が強いものと様々です。
ここでは泉鏡花を「幻想的な作家」と一括りにせず、作風ごとに分けしながら紹介していきます。
泉鏡花のおすすめ小説11選!
ここでは泉鏡花のおすすめ作品11選を紹介しますが、先に要点だけをまとめておきますね。
- 社会的 → 『夜行巡査』『外科室』『海城発電』
- 幻想的 → 『化鳥』『高野聖』
- 怪奇的 → 『春昼/春昼後刻』『草迷宮』『夜叉ヶ池』
- 芸術的 → 『照葉狂言』『歌行燈』
- 人情的 → 『婦系図』
では、これらの作品の魅力を紹介していきます。
1.『夜行巡査』
ジャンル:社会 | ページ数:16p |
『夜行巡査』は、泉鏡花の初期代表作です。
ただし、幻想的とよく言われる鏡花の作風を期待して読むと、「なんか違うなぁ」となります。
それもそのはず。実は彼は「観念小説」というジャンルでデビューした作家です。
観念小説って?
社会的な主義主張の強い小説。
『夜行巡査』では、「仁(愛・思いやり)」という観念がテーマに描かれています。
泉鏡花の初期作品から読んでいきたいという方におすすめです。
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2.『外科室』
ジャンル:社会・耽美 | ページ数:12p |
『外科室』は、初期作品の中でも傑作と名高い小説です。
外科室という空間を舞台に、男女の恋愛の一幕が描かれます。
観念小説ですが、神聖な雰囲気の漂う作品で、個人的には最も好きな鏡花作品の一つです。
『外科室』をもって泉鏡花という作家が生まれたと言っても過言ではありません。
初期の中ではもっともおすすめしたい作品です。
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3.『海城発電』
ジャンル:社会 | ページ数:25p |
『海城発電』も観念小説のひとつ。正確には戦争小説といった方が適切でしょうか。
日本国を愛する軍人と、赤十字の一員として世界平和を志す看護員の対立が描かれます。
1894年~1895年に起きた日清戦争の影響が見られる作品です。
「軍事国家日本」というテーマは、泉鏡花が長く持ち続けたものでもあり、他の作品にも随所に出てきます。
ちなみに『海城発電』は「中国海城市発の電信」という意味で、発電の物語ではありません。(僕は発電の話だと思っていました。)
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4.『照葉狂言』
ジャンル:芸術 | ページ数:104p |
『照葉狂言』は、母を亡くした主人公・貢が、一人の男として生きていくまでを描いた物語です。
泉鏡花は、「能・狂言」から強く影響を受けている作家でもあります。
この『照葉狂言』は、そんな能や狂言が物語の主軸となっている作品です。
物語として読み応えがあり、小説家としての実力が垣間見られます。
この作品の前後あたりから、鏡花の作風は少しずつ幻想的なものへと変化していきます。
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5.『化鳥』
ジャンル:幻想 | ページ数:34p |
『化鳥』は、主人公の少年・廉を通して、不思議な母親が描かれる神秘的な物語です。
鏡花の幻想的な作品を求めている人は、この『化鳥』か『龍潭譚』のどちらかから読み始めるとよいでしょう。
透明感のある美しさもあり、どことなく不気味な感じもあり、ゾッとする怖ろしさもある一篇です。
これも、個人的には最も好きな鏡花作品のうちのひとつです。
『高野聖』は読んだけど、ほかにも「鏡花的」な小説が知りたいという方におすすめします。
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6.『高野聖』
ジャンル:幻想・怪奇 | ページ数:69p |
『高野聖』は旅僧の経験した不思議な出来事が物語られるお話しです。
『高野聖』を書いたあと、鏡花は「お化け」の方に焦点を当てた作品を多く書くようになります。
つまり「怪奇性」が強くなっていくんですよね。
それまでは比較的「幻想性」の強い作品が多く、『高野聖』はちょうどその中間に書かれた作品。
だから、「幻想性」と「怪奇性」が絶妙に混ざり合っており、鏡花の真骨頂が詰まった傑作となっています。
「鏡花の一番のおすすめを教えて」と言われると、やはり僕はこの作品を挙げます。
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7.『春昼・春昼後刻』
ジャンル:怪奇 | ページ数:65p+43p |
『春昼・春昼後刻』は、ある春の日に、観音堂へ散策をしに行った主人公の物語です。
『春昼』が前編、『春昼後刻』が後編の作品になっています。
ポーの『黒猫』と同じくらい、背筋がゾッとする小説です。
お化け的な怖さではなくて、神秘的な怖さみたいなものがあります。
『春昼』も面白いですが、見どころは後半の『春昼後刻』ですね。ゾッとしたい方におすすめです。
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8.『婦系図』
ジャンル:人情 | ページ数:245p |
尾崎紅葉の『金色夜叉』ってご存じでしょうか?
知っている方なら分かりやすいと思いますが、『婦系図』は『金色夜叉』の鏡花版です。
実は尾崎紅葉って、泉鏡花のお師匠さんなんですね。その尾崎紅葉が亡くなって、4年後に書かれたのが『婦系図』です。
ただ、『金色夜叉』は「愛」がテーマですが、『婦系図』は「義理」がテーマになっています。ここが鏡花らしい所ですね。
お涙ちょうだいの人情物で、幻想・怪奇のエッセンスはちょびっとですが、とても面白い作品です。
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9.『草迷宮』
ジャンル:怪奇 | ページ数:144p |
『草迷宮』は完全に「怪奇」が主軸の物語です。
母を忘れられない青年、旅をしている法師、邸に居着いている魔物が物語を繰り広げます。
現代でいうとゲゲゲの鬼太郎の世界ですよね。あれをもっと硬派に、文学的にした感じ。
「迷宮」をつくり出す物語の構成も、作品を魅力的にしているポイントのひとつですね。
怪奇的な作品が読みたい人にはかなりおすすめの小説です。
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10.『歌行燈』
ジャンル:芸術 | ページ数:73p |
『歌行燈』は、能楽で結ばれる三組の人物を軸に、伊勢での一夜が描かれる物語です。
泉鏡花の代表作と言われますが、個人的には少し難しい作品だと思います。
登場人物の呼称がややこしく、『東海道中膝栗毛』との間テクスト性があって、能楽の知識も少し必要。僕は色々調べながら読み進めました。
とはいえ物語自体は面白いので、代表作と言われるのもうなずけます。
こんな風に紹介されても、小説が好きな方なら有名な作品は読んでおきたいと思ってしまいますよね。そんなあなたならおそらく味わえると思います。
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11.『夜叉ヶ池』
ジャンル:怪奇 | ページ数:57p |
『夜叉ヶ池』も怪奇性の強い作品です。ただ小説ではなく、戯曲なんですね。セリフばっかりのやつです。
だからここで紹介するか迷いましたが、面白いので紹介します。
日に三度鐘をつくことで池の竜神を鎮めて、村を守っている男の物語です。
舞台設定はかなりファンタジー。魑魅魍魎が当たり前に登場します。
個人的には枠物語的な構成が好きですね。『草迷宮』と同じく、怪奇的な作品を求めている方におすすめです。
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迷ったら『高野聖』にしよう。
泉鏡花の作品で、間違いないのは『高野聖』です。
個人的には、『高野聖』+「気になった作品」という感じで、あまり悩まず手に取ってみるのがおすすめ。
泉鏡花は読みにくいと敬遠されがちですが、全然そんなことはありません。ほかにはない特色をもつ作家なので、ぜひ読んでみて下さい。
以上、泉鏡花のおすすめ小説11選でした。